ステラナイツ『その名は銀剣の』(監督:DT)


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篝・コンラッド/日高見セシルキャラシート(アスハル/DT)
香坂マイラ/ジェイド・リーキャラシート(馴染/珪素)
六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバードキャラシート(珪素/アスハル)
本庶慶一郎/ユセリア・フィエキャラシート(DT/馴染)

【Index】

◆第一章
【Scene1-1:篝・コンラッド/日高見セシル】
【Scene1-2:香坂マイラ/ジェイド・リー】
【Scene1-3:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】
【Scene1-4:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】
◆第二章
【Scene2-1:篝・コンラッド/日高見セシル】
【Scene2-2:香坂マイラ/ジェイド・リー】
【Scene2-3:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】
【Scene2-4:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】
◆幕間
【Scene3-1:篝・コンラッド/日高見セシル】
【Scene3-2:香坂マイラ/ジェイド・リー】
【Scene3-3:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】
【Scene3-4:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】
◆ステラバトル
【Scene4:その名は銀剣の】
◆カーテンコール
【Scene5-1:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】
【Scene5-2:篝・コンラッド/日高見セシル】
【Scene5-3:香坂マイラ/ジェイド・リー】
【Scene5-4:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】

【Trailer】

『銀剣のステラナイツ』 舞台の幕は上がらない
喝采の声はない
これより始まるのは、世界を喰らう侵略者との戦い
 
異端の騎士が現れる
心と願いを歪ませた、星喰の騎士が現れる
此度の決闘、願いの決闘場(フラワーガーデン)に咲き乱れるは、
黒のコスモス、白のヒルガオ、紫のヒガンバナ
そして舞台の中央に咲くは、一輪の歪な赤のオダマキ
 
銀剣のステラナイツ
 
願いあるならば剣をとれ
二人の願い、勝利を以て証明せよ


監督:主題歌: https://www.youtube.com/watch?v=pUJxVTs2miA

【第一章】

【Scene1-1:篝・コンラッド/日高見セシル】

監督:ブリンガー→シースの順で自己紹介をお願いします。
アスハル:はーい
アスハル
キャラシート 
篝・コンラッド:「イエス最推し! ノータッチ! ……そうだった、そう信じていた、はずなのに……!」
篝・コンラッド:「どうして! 私は、罪深いことを……!」
篝・コンラッド:芸術専門学校、イデグロリア芸術総合大学附属高等部の三年生。
篝・コンラッド:といっても本人には大した才覚はなく、もっぱら企画やイベントの警護、手伝いをしています。
篝・コンラッド:美しい花を身体から咲かせる母親(異界出身)とは違い、しょっぱい枝が耳から生えているだけの隣人2世。
篝・コンラッド:最推しは、学内アイドル孤高の女王、日高見セシル! もう尊すぎて言葉に慣れない……近づくのも恐れ多い!
篝・コンラッド:だったはずなのに、ひょんなことからステラナイツの相棒関係に。
篝・コンラッド:親しげに話しかけてくる神=最推しを武器にして振り回さなければならない日々に限界を迎えています。
篝・コンラッド:そんな感じです。よろしくお願いします。百合はよくわからないけどこれから覚えます(クラリス)
篝・コンラッド:あ、性能
篝・コンラッド:相手から吸収したHPを使って支援と攻撃を行うアタッカーです。ステラナイツ初めてなので
篝・コンラッド:ちゃんと稼働するかは分からない! そんな【黒のコスモス】です。 
篝・コンラッド:以上
日高見セシル:では、僕の番かな?
日高見セシル:「輝いてよ。僕の騎士として、気高く、強く――美しく」
日高見セシル:イデグロリア芸術総合大学附属高等部オグマの二年生。
日高見セシル:アイドルグループひしめくオグマにおいて、そのビジュアルと歌唱力で渡り合う孤高のソロアイドルです。
日高見セシル:とみに狭く深く刺さるタイプというか……一部のファンからは、熱狂的な信奉を受けているとかいないとか。
日高見セシル:王子様系クールアイドルとして推し出されています。それが無理をしているということも別になく、
日高見セシル:オフでも素でキザったらしことを言ってしまえるタイプ。
日高見セシル:アイドル時は髪で左眼を隠しているが、別に隠している方に何かあるわけでは全く無く、集中のルーティーンなだけ。
日高見セシル:ひょんなことから自分のファンである篝・コンラッドとステラナイツをやることになり、それどころか
日高見セシル:自分がシース――武器として使われる側、になっているが、特に気にはせずに楽しんでいるように見える。
日高見セシル:性能は……ない!ステラナイツはそういうゲームなので!
日高見セシル:彼女に使ってもらわない限り無力なのだ……
日高見セシル:よろしくお願いします。


日高見セシル:【イデグロリア総合芸術大学附属高等部 学内第一ホール】
日高見セシル:芸術の研鑽を旨とするその学内には、多くのアイドルグループがひしめく。
日高見セシル:その中でも、異質な存在感を放つのが、一人の少女。
日高見セシル:その異常性は、なにより、独りであること。
日高見セシル:スーツのような白い装束。片目を隠すような、ミステリアスな黒髪に、一筋の白いメッシュ。
日高見セシル:そして、その合間から覗かせる、端正な顔立ち。
日高見セシル:日高見セシルは、今日も独りで歌う。
ファンクラブ:「セーシールーさまー!」
ファンクラブ:孤高に輝く彼女を引き立てるように、暗い色合いで統一したファン達が、ステージに向けて手を振っている。
ファンクラブ:「セシルさまこっち向いてー!」
ファンクラブ:「ああ、今日も……素敵……」「見て、今わたくしを見ましたわ!」
日高見セシル:「がらんどうの空に うかぶ影絵の都市」
ファンクラブ:「まったく、あんなに騒いで……セシルさまに迷惑だと思わないのかしら」壁際で腕組み
ファンクラブ:「ああ、ほら、また!」「気のせいではなくて? セシル様は私たちのことなど目に掛けませんわ!」 銀河のような、暗色のペンライトが輝く。
日高見セシル:滔々と歌い出す。堂々とした、張りのあり、それでいて、どこか儚さのあるような。
篝・コンラッド:「セーシルーさまー!」  そして、集まりの端の方で一人、ペンラを振る少女。
篝・コンラッド:耳からは枝が生えており、玉のような実がだいだい色に輝く。
日高見セシル:「儚くうつろう かりそめの毎日」観客席を、ぐるりと一瞥して。
ファンクラブ:「はああ~~!目の前……目の前にセシルさまがいるよぉ~~~」泣き崩れるファン!
篝・コンラッド:「うう、シフト入れまくって合わせられて良かった……!」
日高見セシル:その眼を彷徨わせる。どこか恋い焦がれる少女のように。
ファンクラブ:「痛っ! ちょっとあなた、その耳の光をしまいなさいな!」
篝・コンラッド:「あっ、ごっ、ごめんなさい! ……セシルさまー!」
日高見セシル:「夜明けのおとずれが なにもかも」その視線が、ふと、端に寄って。
篝・コンラッド:耳にケープを被せて、使い古したペンライトを振り回す。毎日が辛いことばかりだけれど、このときだけは忘れられる……。
日高見セシル:「奪……ゆくの、ならば」
日高見セシル:ふと、一瞬、歌詞が途切れて。微笑みを。
篝・コンラッド:「セシルさ……!」 指先の一つ一つまで記憶領域に固定するように。
ファンクラブ:「きゃああああーーーっ!!!!」
ファンクラブ:「はああああ………!」
日高見セシル:「――きみ“の手を握りしめて”」歌詞が違う。
篝・コンラッド:「はうあうあうぐう……」
日高見セシル:本来は、きみ“を抱きしめて”、だ。
篝・コンラッド:「…………!」
篝・コンラッド:ひゅ、と凍りついたように固まる。
ファンクラブ:「……? 今、歌詞が……?」
日高見セシル:「剣を掲げよう」両手を掲げて。
ファンクラブ:「あれ?今歌詞がちょっと……?」
ファンクラブ:(ふん……“にわか”ね……)
日高見セシル:頭の上に置くように。
ファンクラブ:(セシルさまはライブの時にはたまに歌詞にアレンジを加えて歌われるのよ……)
篝・コンラッド:「え、えあ……」 
日高見セシル:まるで、耳の上から生える角のジェスチャーのような。
篝・コンラッド:変わらずペンラを振っているが、端っこの方で息を止めている。
日高見セシル:ここも本来は、剣を掲げて、捧げ持つ振り付けだ。
篝・コンラッド:耳元の玉の枝は、青から緑、ピンクにと、絶え間なく点滅している。
ファンクラブ:「見ました! 今の、きっと私達へのメッセージですわ……!」
日高見セシル:「惑星(ほし)の砕け散ったあの日 交わした誓いだけが」
ファンクラブ:「これは今夜も解読で眠れませんわ……!」
日高見セシル:もう、そちらを見ていない。客席を見渡すように、ぐるりと。
篝・コンラッド:「せ、っせしる、さま……」
日高見セシル:「横たう闇へと 射し込んだ光 か細くも、(ほそ)く……」
篝・コンラッド:息も絶え絶えだ。だが、セシルファンにはままあることである!
ファンクラブ:「ちょっと貴女、尽きたのならば早くお下がりなさい!」
日高見セシル:そこからも、適宜アレンジを加えているが。
日高見セシル:きみは知っている。
日高見セシル:そこから先のアレンジには、意味はない。
日高見セシル:ブラフだと。
ファンクラブ:「新参ならば仕方ありませんわ……最後まで応援できるのは、真のセシル様ファンだけの特権ですもの」
篝・コンラッド:「うう…………!」 知っている。知ってしまっている。
篝・コンラッド:美しいダンスと照明の熱と、伸びやかな歌を歌いながら、宣言した通りの動きを、寸分狂い無く!
篝・コンラッド:「せ、セシルさまーーーーーー!」 知らない。知らないのだ、私は……!
日高見セシル:「「ひとつでも救えるもの あるのなら」と」
日高見セシル:「伸ばした手 微かに触れた きみとぼくの指先」あのひとつの動きだけが。
篝・コンラッド:アレンジの意味を知らないと思いこんで。必死に自分の心を押し殺して、声を張り上げる。
日高見セシル:ステラバトルが始まったことを。アイドルとファンの関係から、
日高見セシル:ブリンガーとシースの関係へと変わることの、決定的な、仕草だ。
篝・コンラッド:「セーシー、……」 他のファン達と同じように、やや品のない仕草で手を長く伸ばして。
篝・コンラッド:一瞬だけ伸ばして、……すぐ引っ込める。


日高見セシル:ライブが終わり。
日高見セシル:いくら待っても、出待ちの集りの前には現れない、日高見セシルを。
日高見セシル:きっと、人目を縫って去ってしまったのだろうと、皆がすっかり諦めて。
日高見セシル:警備担当の生徒だけが、後片付けをさせられて。
日高見セシル:それもすっかり終わって、誰もいなくなったはずのステージ。
日高見セシル:「よっと」一人の少女が、床下から這い出てくる。
篝・コンラッド:「…………」 大きめの紙袋を片手に、最後の椅子を片付けている。
日高見セシル:「いやあ。暇だね、ここの中」
篝・コンラッド:「!」
篝・コンラッド:「ひわ! セ、セシル様……!」
篝・コンラッド:「ご、ごごごご、ごごごごごご」
篝・コンラッド:「ご機嫌麗しゅう……あらせらられれれ……」
日高見セシル:「いい加減、様はやめてよ」苦笑して。「もうライブ終わったんだしさ」
篝・コンラッド:もちろん、言われた通りに残っている。
篝・コンラッド:騙されているのではないかと思いながら片づけをしていて、……もしそうならどれほど良かったか。
篝・コンラッド:「はぐっ」  ライヴ中には決して見せない苦笑の表情に胸を抑える。
日高見セシル:「それに、篝さんは、先輩じゃない」
篝・コンラッド:「先輩だなんて……私なんて何の取り柄もない木端ですから……!」
篝・コンラッド:そう言いつつ、紙袋を渡す。セシルの好むミネラルウォーターや何やらの、差し入れの詰め合わせ。
篝・コンラッド:「今日も、お、おつ、かれ様でした……!」
日高見セシル:「ん、ありがと」なんの躊躇もなく受け取って、ミネラルウォーターを飲み始める。
篝・コンラッド:ぱたぱたと玉の枝が光って、木の葉が茂っては散っている。
日高見セシル:「まあ、そんなに疲れてないけどね」ステージの縁に座り込む。
篝・コンラッド:散る葉っぱを首尾よくゴミ袋に仕舞いながら、少女の水分補給を待つ。
日高見セシル:足を投げ出してブラブラする。「歌うのは好きだからね、僕」
日高見セシル:普段のライブでは決して見せない振る舞い。
篝・コンラッド:セシルは、本物のソロだ。通常なら、アイドル系の生徒で一人で活動するにも、マネージャー役やメイク・衣装担当などがつく。
日高見セシル:浮世離れした少女のそれではなく、年相応のような。
篝・コンラッド:そのフォロー役、程度なら、自分でもなんとか勤まる……それだって死ぬほど恐れ多いし、
篝・コンラッド:まして現実は、それどころではないのだ。
篝・コンラッド:「あ、あの……歌ですけど、あのアレンジ……」
日高見セシル:「――ああ」
日高見セシル:「女神から天啓があってね。ビビッと」
日高見セシル:比喩ではない。
日高見セシル:二柱の女神。希望と絶望を、そして。
日高見セシル:星の騎士に命令を下すもの。
篝・コンラッド:「や、やっ……ぱり……!」 青くなった葉がポロポロと落ちる。
篝・コンラッド:ステージにふらふらと近づき、もたれかかる。
篝・コンラッド:「ステラバトル、なんですね……」
日高見セシル:「――うん。ぼくらの、ステラ」
日高見セシル:ライブにて歌っていた歌の、締めの一節。
篝・コンラッド:「何度も言いますけど……」 その天啓の感度は、あまり篝は鋭くはない。多くの場合、セシルに言われて初めて感じられるようになる。
日高見セシル:そもそもがこれは、彼女が星の騎士となってから、
日高見セシル:それを歌った歌だ。一人を除くファンの誰にも、それを知る由はないだろうが。
篝・コンラッド:「なんで! 私がブリンガーなんですかあ…………!」 血を吐くように。
日高見セシル:「そりゃあ」
篝・コンラッド:しなしなと、枝が張りを失っている。
日高見セシル:「篝さんのほうが、力があって、勇敢で、頼りになるからじゃないかな」
篝・コンラッド:「くはっ! はうっ! ひぐっ!」
篝・コンラッド:『力があって』『勇敢で』『頼りになる』、の一語ごとにダメージを受けたように胸を抑える。
篝・コンラッド:ピンクの桜のような花が、枝の先にぽぽぽぽぽと咲く。
日高見セシル:「あは」それを見て朗らかに笑う。
日高見セシル:彼女に咲く花の意味を、完全にわかっているわけでないが。
篝・コンラッド:「う、うううう……女神さま……どうして貴方は……このような試練を……」
日高見セシル:綺麗だと、なんとなく、楽しい気分になる。それくらいの認識だ。
篝・コンラッド:「私はただ、宙の彼方に輝く星に、地上から焦がれているだけでよかったのに……」ポエム!
日高見セシル:「僕らに女神様の考えは分からないからなあ」
日高見セシル:「直接相まみえて話ができれば、分かり会えることも出来るかもしれないのに」
日高見セシル:「そう思わない?」
篝・コンラッド:「そ、それは確かに……」 なんとか持ち直し、枝から咲いている花の種類を確認して、頬を赤くする。
篝・コンラッド:もちろん、経験論的に、自分の花が何を意味するかは分かっている。分かっているのだ……。
篝・コンラッド:「(この恥知らず……!)」
篝・コンラッド:「それに、逆に私を振るわせて戦わせるだけというのも……確かに、セシルさ……さ、さ……」
篝・コンラッド:「……セシル、さん、に、押し付けるみたいで、駄目ですから……」 
日高見セシル:「僕も篝さんを振り回すのはちょっとね」
日高見セシル:「傷ついたら大変だ。その点、シースはいいよ」
篝・コンラッド:「…………!」 胸にダメージ! 吹っ飛びたいが、セシルの話を遮るわけにはいかない!
日高見セシル:「君を着飾らせることだって出来るもの」
篝・コンラッド:「か、叶うのなら、セシル様には背後でお茶など呑んで頂いて」
篝・コンラッド:「武器も騎士も、私が一人でやっていたい……!」
日高見セシル:「寂しいなあ」
篝・コンラッド:「……ぅううぅうぅううう……!」 限界。口元を抑えてステージに突っ伏す。
日高見セシル:「独りきりにしようってかい」
篝・コンラッド:「そ、そんなことわ! ないです!」
篝・コンラッド:軽くステージに頭を打ち付けた後でセシルへ身を乗り出す。
日高見セシル:「知ってる。篝さんにちょっと意地悪しちゃった」
篝・コンラッド:「意地悪されたい……! ハッ!」
篝・コンラッド:「ごめんなさい、つい素が……こら! 咲かないの!」 枝から花をむしる
日高見セシル:「あははっ。本当に、退屈しない」
日高見セシル:「今回もよろしくね、僕のブリンガー?」
篝・コンラッド:「は、は、は…………」 ああ、本当にどうして。
篝・コンラッド:ただ見上げていたはずの星が、すぐ傍から手を差し伸べている。神の悪戯。
篝・コンラッド:「……はい。今回も、お願いします……私の、シース様……」
日高見セシル:「様は要らないよ~?」
篝・コンラッド:「う、うぐう……努力します……!」


【ブーケカウント:287】

【Scene1-2:香坂マイラ/ジェイド・リー】

監督:自己紹介をお願いします。
馴染
キャラシート
香坂マイラ:「はい! 統治政府治安維持局、こーいき課の香坂マイラです!」
香坂マイラ:「今日も全面的に世界の平和を守っていきましょうー!」
香坂マイラ:統治政府治安維持局・広域課に最近配属された新人局員です。
香坂マイラ:簡単に説明しておくと、統治政府治安維持局は警察で、広域課っていうのはいろんな階層で仕事する課のことです!(治安維持局の子ども向けホームページ参照)
香坂マイラ:外見はまだ子供と見紛うほどの女の子であり、実際治安維持局に配属されるにはちょっと若いのですが、それは生来の優秀さによりちょろちょろ飛び級してきたから!
香坂マイラ:ということで人並みを外れた優秀さではあるのですが、天才と言えるほどの突出もなく、周囲に合わせられる社会性もなかったため、
香坂マイラ:結構出る杭扱いされてます。本人もちょっとだけ気にしている。
香坂マイラ:が、いざ動き出せばそんなことはブレーキにならない! 世のため人のため世界を守るためいつでもどこでも全力疾走!
香坂マイラ:規則や規律や手続きにだって首輪をくくられたりはしないのだ! というタイプです。
香坂マイラ:治安維持局直属校や前の部署では何だかうーんな感じで働いていましたが、
香坂マイラ:広域課で今のセンパイの下で働くようになってからは毎日が喜びで溢れています!
香坂マイラ:ステラナイトに指名されて、本当に世界を守る戦いをすることにもなっちゃったし……
香坂マイラ:みんなの役に立てるのが嬉しい! 一緒に頑張りましょうねセンパイ!
香坂マイラ:あっ、自己紹介はこんなところで、性能に関しては
香坂マイラ:とにかく走ってとにかくアタック! たまに防御! 機動力で勝負しつつ、時には周囲の生存にも寄与し
香坂マイラ:生来の活発さと優等生らしい小器用さを見せて行こうと思います。よろしくお願いします!
ジェイド・リー:「統治政府治安維持局広域課、ジェイド・リー。捜査中だ。ご協力願いたい」
ジェイド・リー:「いや……自転車に乗っていった方がうちの職員だ……被害状況は後で教えてほしい。ご迷惑をおかけする……」
ジェイド・リー:統治政府治安維持局・広域課の主任で、先輩後輩コンビの堅物で先輩のほうです。
ジェイド・リー:高身長スーツに眼鏡という、エリート然とした佇まい。今回は暴力眼鏡でもないぞ。
ジェイド・リー:こちらは努力型の秀才で、広域課というちょっと出世コースから外れた部署の所属とはいえ、そこそこ出来るやつという評価をもらっています。
ジェイド・リー:しかしそのため問題行動の多い新人を教育することにもなってしまい
ジェイド・リー:とにかく引っ張り回され大変です。なまじ優秀であるが故にフォローに回ってしまい苦労を背負い込むタイプだ。
ジェイド・リー:香坂が部下になってからは毎日が苦しみで溢れています。
ジェイド・リー:ステラナイトに指名された理由も全くわからない……女神に香坂を逮捕してほしい
ジェイド・リー:大変ですが頑張ります。性能面はもちろんブリンガー依存なのでアタッカータイプであることでしょう。
ジェイド・リー:とにかくブレーキ役としてツッコミを入れていきたい!やっていくぜ。


ジェイド・リー:【統治政府治安維持局 広域課】
ジェイド・リー:アーセルトレイにも治安維持組織が必要とはいえ、無論その規模はかつての世界のようなものではない。
ジェイド・リー:広域課に割り当てられているのも、町役場程度の小規模なオフィスだ。
ジェイド・リー:既に就業時間は終わり、外は暗い。だが、広域課には職員が二人だけ残っている。
ジェイド・リー:「――香坂。君が何故この時間まで残っているかは」
ジェイド・リー:「さすがに分かっていると思うが」
ジェイド・リー:「まず、そこに座れ」
香坂マイラ:「はい!」 手を挙げて、ぽふっと椅子に座る
香坂マイラ:そのままぐぐーっと背もたれを倒し
ジェイド・リー:「……」
香坂マイラ:「今日も頑張りましたー」 身を伸ばす
香坂マイラ:がくっと背もたれを起こし、背筋を伸ばす
香坂マイラ:「それで、何のお話しでしたっけ?」
香坂マイラ:「明日の業務の確認ですか?」
ジェイド・リー:眉間を揉む。「さすがに……僕も、床に座って反省しろとまでは言うつもりはないが」
ジェイド・リー:「そういう座り方か?」
香坂マイラ:目をぱちぱちとして、すっと立ち上がり
香坂マイラ:膝を畳むようにして、椅子の上に正座する。
ジェイド・リー:「……まあいい」
ジェイド・リー:「まあいい。まあいい」いちいち指摘していては話が先に進まないのだ!
香坂マイラ:「あ、こうやって座るとセンパイが普段よりちょっと大きくないですね」
ジェイド・リー:「普通は椅子の上には正座しないからな」
香坂マイラ:「あはー」 楽しそうに笑い 「あっ、いけない。業務中でした」 ピシッと表情を引き締める(でも笑ってはいる)
ジェイド・リー:「まず、今日の事件について……どこまで把握しているかを確認したいが」
香坂マイラ:「はい! 何でも聞いてください! 資料はきちんと読んでます!」
ジェイド・リー:「今日の出来事くらい資料を読まずに覚えていてくれ」
ジェイド・リー:「君はパトロール中『四輪自動車』の盗難事件に遭遇した。そこまではいいな」
ジェイド・リー:「まず、何をした?」
香坂マイラ:「はい! あの、その時わたし、ミキナおばあちゃんとお話しをしてましたから」
ジェイド・リー:「おお」
香坂マイラ:「ちょっと解決してきます! って言って、じどーしゃの所に行ったんです」
香坂マイラ:「でもじどーしゃがもう走り出しちゃってたから、センパイに連絡して」
ジェイド・リー:「そうだ。今回は連絡ができたな。そこは大変素晴らしい成長だと思っている」
香坂マイラ:「えへへ」 嬉しそうにする
香坂マイラ:「で、自転車……あのタイヤが二つのやつです。あれに乗って……」
ジェイド・リー:「いや待て」
香坂マイラ:「はい! 乗ってるのを絵で見たことはあったんですけど、実際に乗ったのは今日が初めてだったんですけど、うまく走れたんですよ!」
ジェイド・リー:「その自転車はどこから出てきた?ミキナおばあちゃんと自転車に乗りながら会話をしていたのか?」
香坂マイラ:「え? そんなわけないじゃないですか」 不思議そうな表情
ジェイド・リー:「乗って、の前に考えることが何かあったんじゃないのか?」
香坂マイラ:「…………」 目をぱちぱちして 「……ありますか……?」 心底分からないという様子で問う
ジェイド・リー:「二輪車がそこに『あった』わけだよな」
ジェイド・リー:「誰のものだ?」
香坂マイラ:「分かりませんでした!」
香坂マイラ:「でもでも、自動車はもう走り始めてて、普通に走って追いかけるのは大変で、そこに自転車があって、自転車の方が速いから」
香坂マイラ:「自転車を使いました! ……」
香坂マイラ:「……おかしいですか?」
ジェイド・リー:「僕は自転車の持ち主が誰だか分かっている。君がいた付近のピザ屋が使っていたものだ」
ジェイド・リー:「何故僕が分かっているかは分かるか?」
香坂マイラ:「分かります! センパイが調べてくれたんですよね! わたしが忙しかったから!」
ジェイド・リー:「……さっきまで始末書を書いてたからだよ!」横の机の上の書類を叩く。
香坂マイラ:「ありがとうございま……」 ニコニコ笑って頭を下げかけ
香坂マイラ:横の書類を見る。視力も良いので何が書いてあるかはすぐわかる
香坂マイラ:なので、その文面を見て、下げかけた頭を上げて
香坂マイラ:「始末書!」
ジェイド・リー:「なんだ」
香坂マイラ:「代わりに書いてくれて、ありがとうございます!」 頭を下げる
香坂マイラ:頭を上げて 「わたしが書くより、センパイの方が慣れてますもんね、始末書」
ジェイド・リー:「何故僕が毎回代わりに書いているかというと、君に書かせるとより大変なことになると知っているからだ」
香坂マイラ:「はい! 適材適所です!」
香坂マイラ:「さすがセンパイです!」
ジェイド・リー:「とにかく、自転車の盗難は……まあ、良くはないが、良いとしよう。ピザ屋の業務にも支障はなかった」
ジェイド・リー:「その後だ」
ジェイド・リー:「いいか」始末書の束の厚みに指を添える。
ジェイド・リー:「このライン」
ジェイド・リー:「この厚みの書類の、ここから上がその後のことだ」
香坂マイラ:センパイの指をじっと見る
香坂マイラ:「センパイ、爪の色悪くないですか?」
香坂マイラ:「体調大丈夫ですか?」 心配そう
ジェイド・リー:「ストレスは一番最初に爪に来るらしいからな」
ジェイド・リー:「爪だけで済んでいて欲しいと心から思うよ」
香坂マイラ:「おやすみ、取ってくださいね。心配です」 本当に心配そう
ジェイド・リー:「自転車で四輪車を追跡して……その後、何をしたかを説明できるか」
香坂マイラ:「わたしはセンパイのおかげで、一人でも一日くらいなら平気ですから!」
香坂マイラ:「あっ、はい! えーと、あの……」
ジェイド・リー:「一日でも一人にしたら僕が平気じゃなくなるんだが」
香坂マイラ:「こう、自転車で走ってたら……あれっ、もしかして片手でも運転できるんじゃ? って思って」
香坂マイラ:「試してみたらできたので、空いた片手で拳銃を持ちました」 ジェスチャーも交えて説明する
ジェイド・リー:「うん?」
ジェイド・リー:「何故撃った?」
香坂マイラ:「え、車を止めるためです」 目をぱちぱちと瞬かせる
香坂マイラ:「止まったじゃないですか」 知ってるでしょ? みたいな空気を出しながら言う
ジェイド・リー:「止め……そんな止め方するか!?」
ジェイド・リー:「銃で撃って!?冗談だろ!」
香坂マイラ:「でもだって、私頑張ったんですけど、自転車だとこれ以上速度出ないなっていうの、なんとなくわかって」
香坂マイラ:「自動車の速度はどんどん上がっちゃうんですよ! 追いつけないじゃないですか!」
香坂マイラ:「だから撃ちました。当たりそうでしたし」
ジェイド・リー:「僕はいろいろな犯人の事情聴取に立ち会ってきたが」
ジェイド・リー:「今は極めて難解な問題に直面している」
香坂マイラ:「え! わたしが知らない内に難事件を……?」
香坂マイラ:「わたしも混ぜてくださいよぅ」 ちょっとスネる
ジェイド・リー:「君が知らなければこの世の誰も知らないだろうな、その事件は」
香坂マイラ:「?」
ジェイド・リー:「とにかく、結果として自動車のタイヤはパンクし、横転」
香坂マイラ:「はい! 止めました!」
ジェイド・リー:「犯人は軽傷を負い確保された。発生した損害は電灯一本と街路樹二本、そして自動車そのもの」
香坂マイラ:「もちろん周りに人がいないことは発砲前に確認してました!」 得意げ
ジェイド・リー:「いいか。盗難された自動車がスクラップになっているが」
ジェイド・リー:「これについてどう思う」
香坂マイラ:「それは……」 申し訳無さそうな表情になる 「ごめんなさいって思ってます。わたしの力不足で……」
香坂マイラ:「もっと自転車と拳銃の訓練をしていれば、綺麗に止められたかもって……」
ジェイド・リー:「そういうことじゃないが!?」
香坂マイラ:「でも子どもの時見た映画だと、スーって止まって」
香坂マイラ:「それをたくさんの治安維持局員が囲んで、銃を向けるんですけど」
香坂マイラ:「中から出てきた男の人が……超能力で次々と局員を……」
ジェイド・リー:「じゃあ映画準拠でも駄目じゃないか」
香坂マイラ:「あはは、センパイったら!」
香坂マイラ:「現実に超能力者なんていませんよ。映画と現実をゴッチャにしちゃダメです!」
ジェイド・リー:「そうだなあ。映画と現実をごっちゃにするのはよくないな」
香坂マイラ:「はい! ……あっ!」
香坂マイラ:今初めて気づいたという風に 「……もしかして、車を銃で撃って止めるのは」
香坂マイラ:「現実的じゃない……!?」
ジェイド・リー:「そうだ。よく気付いてくれた」
ジェイド・リー:「もうそこだけでもいい。それだけでも進歩があってくれれば……」
香坂マイラ:「はーっ」 感動したように息を飲み
香坂マイラ:「センパイはそういうことをわたしに教えてくれようとしたんですね……!」
ジェイド・リー:「いや教えようとしていたというか……」
香坂マイラ:「映画と現実は……違う……!」
ジェイド・リー:「知っていてほしかったというか……」
ジェイド・リー:「……」深くため息をつく。
ジェイド・リー:香坂マイラには、そのようなところがある。
ジェイド・リー:非現実的な行動を、そうと知らずに実行してしまう危うさ。
ジェイド・リー:そして、多くの場合それを可能にしてしまうような能力の高さが。
ジェイド・リー:(……だが、窃盗犯にあのまま逃げられてしまった場合、逃走先を追跡できる保証はなかった。部品として解体されてしまえば足もつかない)
ジェイド・リー:(結果的には……香坂の取った手段が、もっとも手早く解決できる方法だったかもしれない……が)
ジェイド・リー:「……」無言でエナジードリンクを開け、飲む。
ジェイド・リー:「それにしたって……」
ジェイド・リー:「限度があるだろ……!!」
香坂マイラ:「限度?」 また首を傾げる
香坂マイラ:「リアルな映画は現実に応用できることもあるってことですか?」
ジェイド・リー:「そうじゃない、こう……リアルな感覚として!」
ジェイド・リー:よくわからないジェスチャーを両手で示す。
ジェイド・リー:「あるだろ!これを越えたらやっちゃ駄目だな~……とか!」
香坂マイラ:「やっちゃ駄目なこと……」
ジェイド・リー:「さすがに危ないとか、迷惑になるだとか……そういう感覚がさ、そもそも!」
ジェイド・リー:「わからないかなあ!」
香坂マイラ:ぱちぱちと瞬きながら 「……窃盗犯を直接狙うとか、街灯を撃って倒すとか、そういうことはしませんでしたよ?」
香坂マイラ:「あれっ? そういうことですよね? わたしそんな怖いことしたくないですけど、合ってますよね?」
ジェイド・リー:「もっと手前だよ手前!」
香坂マイラ:「もっと手前……」 むむむと考え
ジェイド・リー:「撃つな!街中で!治安維持組織が積極的に事故とか窃盗を引き起こすな!」
ジェイド・リー:「何故始末書が存在するのかを考えたことがあるか!?」
香坂マイラ:「はい!」 手を挙げる 「そういうことをしてしまった時に!」
香坂マイラ:「ごめんなさい」
香坂マイラ:「……っていうのを、直接言って回るのは大変だから、書類にする!」
ジェイド・リー:「これを書けばそういうことをしていいわけじゃないんだぞ。いいか?」
ジェイド・リー:「我々は始末書を書かないように業務をしているんだ。本来」
ジェイド・リー:「それがこの量!どうなっているんだ?」
ジェイド・リー:「僕の端末に入っている始末書のファイル容量を見せてやりたいよ」
香坂マイラ:「はい! 街中の発砲は特にいっぱい」
香坂マイラ:「ごめんなさい」
香坂マイラ:「……って言わなきゃいけないから、量も増えます!」
ジェイド・リー:「そのうち本当に言って回らせるぞ」
香坂マイラ:「それって、エラい人にも言ったりすることになるんでしょうか」
香坂マイラ:「もしそうだったら、エラい人と仲良くなれるチャンスになりますか……?」
ジェイド・リー:「そうなるだろうな。というより、それは遠くない将来に起こる問題だと思っている」
ジェイド・リー:「仲良く!?」
ジェイド・リー:「何故この流れで仲良くなれると思うんだ!?」
香坂マイラ:「はい! あの、パトロールで、いろんな人と仲良くはなれたんですけど、エラい人にはなかなか会えないから」
香坂マイラ:「会えたら、仲良くなれるかもしれないじゃないですか! 最初叱られたり、警戒されたりしても、今は仲良い人とか、いますもん!」
ジェイド・リー:「それは君の場合」目の前に座っている香坂の頭から爪先までを見る。
ジェイド・リー:「9割がたの人間がそうだろうな。叱られたり、警戒されたり」
香坂マイラ:「センパイもそうですよね。会った日から、ずっと叱られてる気がしますけど」
香坂マイラ:「でも仲良くもなってます」 ニコニコ笑う
ジェイド・リー:「……仲良くなんてない」目を逸らして、エナジードリンクを口にする。
ジェイド・リー:「僕が面倒を見るしかないだけだ」
香坂マイラ:「はい! 面倒を見てくれてありがとうございます!」
香坂マイラ:「わたしは好きですよ、そんなセンパイのこと」 ニコニコと嬉しそうに笑ったまま
ジェイド・リー:「僕は好きじゃない……」げんなり
香坂マイラ:「えー! 好きになってくださいよ! 仲良くしましょうー!」 センパイの肩をぐらぐら揺する
ジェイド・リー:「やめろ!軽率にボディタッチをするな!」
香坂マイラ:「なんでですか! 飲んでる最中じゃないでしょ今! だったら……あっ」
ジェイド・リー:「おっと」
香坂マイラ:ぴくん、となにかに気付き、ごそごそとポケットを探る。取り出すのは携帯端末だ
ジェイド・リー:「すまん、飲み物がかかったぞ少し」
ジェイド・リー:「いや君が揺らすからだが……タオルいるか?」
香坂マイラ:「あっ、タオル、あっあっ」 わちゃわちゃと端末とタオルを交互に見て
香坂マイラ:結局端末を見る。着信内容を見て、ぱあっと顔を明るくする
香坂マイラ:「ケントくんたちだ! ほら見てくださいセンパイ!」
ジェイド・リー:「……」タオルを片手に持ったままボーッと突っ立っている。
ジェイド・リー:「いやそう言われても……知らんが……」
ジェイド・リー:見ます。
香坂マイラ:見せつける画面には、白黒のボールを手に持っている、10歳くらいの少年たちが満面の笑みで映っている。
ジェイド・リー:(全然知らんが……)
香坂マイラ:「サッカーの試合、バッチリ勝てたんですって!」
香坂マイラ:「よかったー! 嬉しいなあ。ケントくんたち、毎日いっぱい練習してましたから。あのほら、辻風公園で」
ジェイド・リー:「それはめでたいことだが……親戚か?」
香坂マイラ:「いえ! パトロール中に知り合った子たちです! わたしもサッカー教えてもらいました!」
ジェイド・リー:「辻風公園か。パトロール経路にあるな」こぼれた分のドリンクを拭く。始末書にかかっていないことを確認して安心する。
ジェイド・リー:「……パトロール経路」
香坂マイラ:……そう、ジェイド・リーの思った所は結果論。
ジェイド・リー:「………パトロールの途中にサッカーやってたんだな!?」
香坂マイラ:このまま逃げられたら、ということは考えていても、その後解体され、部品となれば足がつかなくなり……なんてことを考えられるほど、マイラはできた局員ではない。
香坂マイラ:「えっ!? そ、それはちょっとその……だって地域の人と仲良くするのも大事じゃないですか!」
香坂マイラ:「仕事のうちです、仕事のうち!」 弁解しつつ、慌てている。こっちに関しては確かに後ろめたさがあったらしい
ジェイド・リー:「いつまで子供のつもりなんだ、まったく……」
香坂マイラ:「今日だってすぐそこでやってる試合見に行かないで、ちゃんと窃盗犯の後始末とかしましたもん!」
香坂マイラ:「見に行きたかったけど……」 唇を尖らせる
ジェイド・リー:「ちゃんとじゃない!そっちの選択肢があったかのように話すんじゃない!」
ジェイド・リー:「まったく君は、どうしていつもこう……」眉間を揉む。
香坂マイラ:少しぶーたれていたが「……あっ!」 また何かに気づいた様子で、くるくると自分の身体を見回し始める
ジェイド・リー:「今度は何だ」
香坂マイラ:「そういえば、汚れっ、汚れどこですか!」
香坂マイラ:「センパイのドリンクのヘンな匂いがついちゃうのはヤです!」
ジェイド・リー:「ヘンな匂いとか言うんじゃない。いいから私が……」
ジェイド・リー:「……」シャツの濡れている胸元を見る。
ジェイド・リー:「いや、やっぱり君が自分で拭け」目を逸らして、タオルを押し付ける。
香坂マイラ:「えっ!」
香坂マイラ:「拭いてくださいよ! わたしどこだかわかんないのに!」
香坂マイラ:「えー、どこかな! ここかなー?」 肩や脇をせわしなく拭いて回っている
香坂マイラ:「……脱いだ方が早いかな……」
ジェイド・リー:(もう、勘弁してくれ……!)


【ブーケカウント:297】

【Scene1-3:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】

監督:自己紹介からお願いします。
六条詩絵
キャラシート
六条詩絵:「行く先の未来がどのような世界なのか……誰にもわからないのだとすれば。今この時に何を学べば良いのかなど、誰にもわからないではありませんか」
六条詩絵:アーセルトレイ公立大学付属高校にいる、学生の年頃で制服を着ている女子……ですが、生徒ではない!
六条詩絵:実は学校には生まれてこの方全く在籍しておらず、勉学は全部家で家庭教師に教わってきた純粋培養お嬢様、それが六条詩絵(ろくじょうしえ)です。
六条詩絵:生まれ育った世界は基幹世界とほとんど変わらない文明と歴史を持っていましたが、もちろん世界ごと崩壊。
六条詩絵:かなり下層の方に組み込まれた六条家はその財力によってどうにか上層の居住権を得ていますが
六条詩絵:家柄の根拠を完全に失った状態となってしまっています。
六条詩絵:そんな家の一人娘が、事あるごとに家を出て在籍してない学校をうろつき、不良生徒と関わりがあるとの噂
六条詩絵:グレちゃったのかな?
六条詩絵:ブリンガーとしての性能は味方キャラクターを動かす技をとにかくたくさん積んだサポート型です。
六条詩絵:前回は純粋アタッカーをやったのでサポーターやってみたかった……!他の二人がアタッカーやってくれてますしね
六条詩絵:【紫のヒガンバナ】です。よろしくお願いします。
ロシェ・ザ・グレイバード:では次は私が
ロシェ・ザ・グレイバード:「あんなクズみてえな世界、黙ってたって滅んでたさ。せいせいしたね」
ロシェ・ザ・グレイバード:アーセルトレイ公立大学付属高校にいる、学生の年頃で制服を着ている男子……
ロシェ・ザ・グレイバード:すなわち、生徒だ。
ロシェ・ザ・グレイバード:ロシェ・《ザ・グレイバード》。頭の悪い名前をした、目つきも悪く、態度も悪い不良学生。
ロシェ・ザ・グレイバード:科学技術および産業搾取構造の過剰発達により荒廃した未来世界で、泥を啜るように生きてきたクズ。
ロシェ・ザ・グレイバード:経済戦争の駒として、《グレイバード》の名の由来である兵器ドローンの作成・操縦技術で飯を食っていたが、世界はロアテラの来襲によって崩壊。
ロシェ・ザ・グレイバード:現在は世界崩壊民向けの基本的な援助を受けながら、機械いじりの違法バイトで小遣いを稼ぎつつ学校に通う日々。
ロシェ・ザ・グレイバード:暮らし向きは以前より向上しており、未練は一見なさそうに見える。
ロシェ・ザ・グレイバード:だが、シースとして武器になると、巨大な十字架群に変貌するとのことです。これは一体……?
ロシェ・ザ・グレイバード:謎の幽霊お嬢様と出会い、ステラナイトになったことでそのあたりのことは分かっていくとのうわさ。
ロシェ・ザ・グレイバード:箸より重い物を持ったこともなさそうなお嬢様に、じゃんっじゃん十字架背負わせていきたいです
ロシェ・ザ・グレイバード:性能はなし! よろしくお願いします


六条詩絵:アーセルトレイ公立大学付属高校。校庭には広い間隔を置いて樹木が茂り、陸上競技用のトラックや球技用のコートなども見える。
六条詩絵:ごく普通の、高校の校庭と同じだ。……滅んでしまう前の世界の。
六条詩絵:時刻は昼休みの直前で、校庭に出ている生徒の姿はない。
六条詩絵:故に、その場にただ一人で生徒が佇んでいるのは不自然な光景ではある。
六条詩絵:何かの用事があってそこにいるのかもしれないし、あるいは遅刻や早退の生徒であるかもしれない。ほとんど気に留める者はいないかもしれないが。
六条詩絵:「……」女生徒だ。姿勢良く両足のかかとを揃えて、校庭の樹を眺めている。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……だァから」 と、遠くから大きめの声がした。
ロシェ・ザ・グレイバード:校舎の出口。端末を耳元に、靴を履き終えた少年。
ロシェ・ザ・グレイバード:ちょうど、午前の授業終了のチャイムが鳴り響く。
ロシェ・ザ・グレイバード:「先に値切ったのはそっちだろ、お客サン。だから俺ァ、その程度の仕事はしたぜ?」
六条詩絵:声の方向を見て、表情を明るくする。
ロシェ・ザ・グレイバード:「それで直ぐ壊れたら、そりゃあそっちの責任だろ?」
六条詩絵:「こんにちは。先生」
ロシェ・ザ・グレイバード:「契約切る? 好きにしろ。下層の骨董機械を弄れるやつが、他に居るなら――」
ロシェ・ザ・グレイバード:掛けられた声に、そちらを見る。……ピッ。
ロシェ・ザ・グレイバード:通話を切る。思い切り、眉をしかめた。「……働き過ぎか? 幻覚が見えやがる」
六条詩絵:「ごめんなさい。お仕事の途中なのに、お声がけしてしまって」口では謝っているが、やはり嬉しそうにしている。
六条詩絵:「詩絵です。ねえ、気付かれましたか?先生」
六条詩絵:今まで見ていた校庭の樹に寄り掛かる。
六条詩絵:「シラカシの新葉が出ています。そんな季節なのですね」
ロシェ・ザ・グレイバード:目元を揉む。分かってはいるが、幻覚ではない。
ロシェ・ザ・グレイバード:木々の名前など知らない。興味もない。「そこで何してる。転入の手続き待ちか?」
六条詩絵:「ふふふ」微笑むだけ。
六条詩絵:在校しているかどうか、その予定があるかを詩絵がロシェに伝えたことはない。
ロシェ・ザ・グレイバード:その微笑みに、嫌な予感が当たっている……変わっていないことを知る。
六条詩絵:頭上、樹の葉を見上げながら、呟く。「――『山を登ってはいても、どこが道なのかはもうわかりません』」
六条詩絵:「『なぜなら、白橿(シラカシ)の枝もたわわになるほどに』」
六条詩絵:「『雪が分厚く積もってしまっているのですから』」
ロシェ・ザ・グレイバード:「何の呪文だ? くそ……」
ロシェ・ザ・グレイバード:昼休みのチャイムは鳴った。既に、気の早い生徒たちが弁当や財布を持って外に出てきている。
六条詩絵:「『あしひきの 山道も知らず 白橿の枝もとををに 雪の降れれば』です」
六条詩絵:「今は春ですけれど……シラカシを見ていると」
ロシェ・ザ・グレイバード:「あーあー、分かった分かった」 ひらひらと手を挙げる。
六条詩絵:「肺腑を衝かれるような思いがいたします。先生は、そんなお心持ちになられたことは?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「どんな迷彩(ギリー)に塗ればこっちのドローンが紛れるか、くらいしか思いつかねえよ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「とにかく、場所を変えさせてくれ、オジョウサマ(フロイライン)。希望はあるか?」
六条詩絵:「また授業をしていただけるのでしたら、どちらへでも。この辺りのことは、先生の方がよくご存知でしょうから」
ロシェ・ザ・グレイバード:「またそれかよ。相っ変わらず訳分かんねえ……」 通り過ざま、ケープの端を軽く引っ張る。
六条詩絵:「先生」引っ張られて、ややおぼつかない足元でついていきます。
六条詩絵:「この前は5.7GHz帯のドローン種について、お話の途中でございましたよね」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……覚えてんのかよ」 しつこく問いかけてくる彼女を飽きさせるために話した内容だ。
六条詩絵:「自然科学のお話ならば、以前にも学んだ事柄がいくつかございましたので」
ロシェ・ザ・グレイバード:連れていくのは、学内の端の方にある古びた学舎だ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「勤勉で結構なことだ」 おぼつかない足元を見て、歩幅を少しだけ小さくする。
六条詩絵:「けれど詩絵は、もっと……先生のご稼業を、どのように始めたとか」
ロシェ・ザ・グレイバード:アーセルトレイ最大の生徒数を誇るこの学園は、教師も把握していない空き教室もいくつもある。
六条詩絵:「どのように顧客と交渉をされるのかとか」
六条詩絵:「そういったことの方を学びたく思います」
六条詩絵:「……手」ケープを引っ張るロシェの手を見る。
ロシェ・ザ・グレイバード:「上履きは?」
六条詩絵:「ええ。この前、先生からご注意を受けましたので」
六条詩絵:真新しい革靴を取り出す。
六条詩絵:「これは外で使ったことはございませんから。今日のために買ってきたのですよ」
六条詩絵:「他の施設のように、スリッパなどを使うわけではないんですよね?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 踵側面に奥ゆかしく刻まれた、アーセルトレイ最上層部のブランドのロゴ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「ご自由に、だ」 肩を竦める。廃棄された学舎。入口は当然、鍵が閉まっている。
ロシェ・ザ・グレイバード:そこから脇に進み、ガタつく窓の一つを開けて、桟に足を掛ける。
六条詩絵:「……」ロシェが手を離したケープを、手持ち無沙汰に指で撫でる。
六条詩絵:「入口からは入られないのですか?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「死にかけセキュリティが残ってんだよ。……よ、っと」 外靴を片手に。桟の上から少女を見下ろす。
六条詩絵:「……」じっと、桟の上のロシェを見上げる。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 見返す。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………。…………」
六条詩絵:「その」
六条詩絵:「え」桟に指をかけて
六条詩絵:自分の荷物を気にする。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………~~」 がしがしと頭を掻く。
六条詩絵:「…………先生」自分だけの力で体を持ち上げられないのだ。
ロシェ・ザ・グレイバード:両手を服で拭い、「どんくせえなあ、畜生!」  桟から降り、腰を掴み、担ぎあげるように持ち上げる。
六条詩絵:「あっ、あう」
六条詩絵:「……は、せ、先生」
六条詩絵:「汗顔の至りです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「よっ、と!」 軽い動作で、窓から中に跳び下りる。
六条詩絵:こちらもなんとか屋内に入ります。
ロシェ・ザ・グレイバード:「………………はあ」 床に降ろす。別に、上履きが必要なわけではない。
六条詩絵:律儀に用意した上履きへと履き替えています。
六条詩絵:「もっと……」
六条詩絵:「……もっと、こうしたことができるようにならなければなりませんね」
ロシェ・ザ・グレイバード:どこから仕入れたものか、仕事用の大型の機械やら冷蔵庫やら、簡素なベッドもある、作業部屋。
六条詩絵:「ここが……先生の仕事部屋!」
六条詩絵:「なのですか?」
六条詩絵:目を輝かせます。
ロシェ・ザ・グレイバード:「一生出来ねえから、諦めとけ」 古い椅子を差し出し、自分は奥の電気をつけにいく。
六条詩絵:「それでは困ります。いつか、出来るようにならなければ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そうだよ。ここの連中に用意された家よりゃ、よっぽど余所者が入らねえからな」
六条詩絵:先程気にしていた荷物の中から、包みを取り出して
六条詩絵:テーブルの上に置きます。
六条詩絵:「……よかった。崩れてはおりませんでした」
六条詩絵:「ねえ、お弁当にいたしましょう。先生」
ロシェ・ザ・グレイバード:「なんだ、そりゃ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 告げられた言葉に、目を瞬かせる。「……なんつか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そこ考えて、昼時に来たのかよ。驚いたな……」
六条詩絵:「鰆と明日葉の天麩羅に、山芋のお漬物に……それと、こちらが豆と茸のご飯で……」
ロシェ・ザ・グレイバード:開かれた箱から立ち昇る香りに、自然と引き寄せられる。
六条詩絵:「……詩絵は、料理も最初は何一つできませんでした。卵焼きを作ろうとすれば、すぐに形が崩れてしまったものです」
六条詩絵:「けれど、もっと勉強すればできるようになるかもしれません」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 自分も、椅子を引き寄せて座る。 「……気合い入れてるところだが」
六条詩絵:「古い校舎に忍び込んだり、廃材からドローンを作ったり、自分で自分を支えていくことが」
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前に、そんなもん必要なのかよ? 」
ロシェ・ザ・グレイバード:「最初に会った時から、そうだ。こんなもん、なしで生きれるなら、その方がいい」
六条詩絵:「……なくても生きられる、など」
六条詩絵:「先生はそう言い切れてしまうのですか?」
六条詩絵:最初に出会った時から、六条詩絵は自分の素性を語ったことはない。
六条詩絵:ごく稀に学内に現れる、幽霊生徒。授業を抜け出していたロシェにたまたま出会って、
ロシェ・ザ・グレイバード:「こんなもんがなきゃ生きれない、世界がどういうものか、って話だ」
六条詩絵:そこから彼を『先生』と呼び始めた。それだけだ。詩絵もロシェの過去について詮索したことはない。
六条詩絵:「――どのような世界だったのでしょう?」
ロシェ・ザ・グレイバード:本来ならシトラか、アージェティアにでも通ってそうな少女が、何故こんな末端の自分を気にするのか。
ロシェ・ザ・グレイバード:「そうさな。たとえば、――」 指を伸ばす。少女の目元を、下からなぞるような。……抉るような。
六条詩絵:「あ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前みたいな、お綺麗なフロイラインを見て、」
ロシェ・ザ・グレイバード:「『ああ、バラしたらいくらで売れるだろうな』って、そう思うのが、俺達の標準だ」
六条詩絵:「……詩絵ならば、いくらで売れるのでしょう?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………ッ」 怯える様子ひとつない。
ロシェ・ザ・グレイバード:指を引く。「……その、宝石みたいな目ひとつでも、俺の年収くらいは、いけるだろうさ」
六条詩絵:「……」
六条詩絵:「…………けれど、先生」
六条詩絵:「先生の、故郷の世界なのですよね」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そうだよ。空は濁って見えた試しがねえ、馴らされた地面なんてあったもんじゃねえ、クソッタレなゴミ溜めのような世界だ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……お前が何のために来たのかは分かってる。ステラバトルだろう」
六条詩絵:「ステラバトルでなければ」身を乗り出す。
六条詩絵:「会いに来てはならないのですか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 同じだけ身を引く。
六条詩絵:「……そうです。今回は、そうです。そうですけれど……」
六条詩絵:「……先生は、やっぱりご迷惑でしょうか?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「むしろ、ステラバトルでさえ、会いに来るもんじゃねえ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「掛ける願いがあるんだろう。俺もそこは同じだ。だが、資格がある奴は俺だけじゃねえんだ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「俺の問題じゃねえ。……もっとマシな相手を見つけろ」
六条詩絵:「あの、詩絵は。その、何故……」
六条詩絵:「何故、先生なのでしょうか。自分でも……よく、分からなくて」
六条詩絵:「けれど、先生」
六条詩絵:「先生だって、以前の世界がどれほどひどくたって」
六条詩絵:「その世界で生き延びるための、その世界で正しいとされたことをされてきたと思うのです」
六条詩絵:「突然、全てが消えてしまって、今のこの世界へと送られてしまって……」
六条詩絵:「先生。先生は、どう思われているのでしょう?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……言ったろが。クソみたいな世界だった。ゴミ溜めの上で蛆がのたうち回っているだけの世界だ。放っておいても滅んでたさ…………………」
ロシェ・ザ・グレイバード:「けどなあ。……なあ、おい」
ロシェ・ザ・グレイバード:「あんな風に、化け物に食い破られて、滅ぼされていい世界じゃあなかったんだよ」
ロシェ・ザ・グレイバード:公害雲の中で、ごくまれに覗く、晴れ間があった。
ロシェ・ザ・グレイバード:砕けたアスファルトの合間に、酸性雨を糧にしてなお咲く草花があった。
ロシェ・ザ・グレイバード:(……なんで、こんなことまで話してる?)
ロシェ・ザ・グレイバード:(こいつがステラバトルの相棒だからか? そうじゃない。そうじゃない……)
六条詩絵:「ええ。そうです。どの世界だって……きっと」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そうだ。ここじゃ、世界が滅びすぎた。生き残ってる人間の何千、何億って数の死者がいる。一々、誰かを悼むことなんて許されない。過去に浸ることすら許されない」
ロシェ・ザ・グレイバード:「奪われた『過去』を、俺は取り戻す。自業自得で滅んだクズどもを、悼んで埋葬できる世界が欲しい」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……それが俺の願いだ。俺のカタチは知ってるだろ」
六条詩絵:「……十字架。ええ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「俺の願いで、他人を……お前を墓石の土地にするつもりはねえんだよ」
六条詩絵:「でも、先生の願いは……詩絵も、同じ願いです。ですから」
六条詩絵:「……いえ」目を逸らす。
六条詩絵:「――『だから』ステラナイトなのでしょうか?本当に……」一人で小さく呟く。
六条詩絵:「詩絵の気持ちは、やっぱり違っているような気がします」
六条詩絵:この学校を訪れる時、詩絵がロシェ以外の生徒について行ったことはない。
六条詩絵:いつも親鳥を慕う雛のようにロシェ一人の姿を探して、その後をついてくる。
六条詩絵:「どうして、先生は詩絵にとって特別なのでしょう?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……俺が、知るかよ……」
ロシェ・ザ・グレイバード:大きくため息をついて。おもむろに、弁当の天麩羅に手を伸ばした。
六条詩絵:「お弁当を……作ってきたのです。ご迷惑でしたか?」
六条詩絵:「上履きも、言いつけ通りにご用意してきました」
ロシェ・ザ・グレイバード:指でつまんで、口に放りこんで。もぐもぐと噛んでいく。
六条詩絵:「最初の頃のように、詩絵から先生を呼びに行ったりもしていません」
六条詩絵:「……それでも」
六条詩絵:「……。ご迷惑ではないでしょうか……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………。」
ロシェ・ザ・グレイバード:味は、薄くて良くわからない。色も、こんな色合いに馴染みがない。鼻を抑えたくなるツンとした臭いもない。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………。別に」
ロシェ・ザ・グレイバード:自分がそう思うということは。 「良い弁当だよ」
六条詩絵:「ああ」嬉しいというよりも、安心したような表情。
六条詩絵:「……料理は……まだ、この世界でも『良い』ことなのですね」
六条詩絵:でも、自分にとっては。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……?」 その言い回しに、僅かな違和感を覚えつつ。箸を(指を)進める。
六条詩絵:「あしひきの 山道も知らず……」
六条詩絵:「…………どこが山道なのかも、もう分からないのです……」
六条詩絵:小さく、呟いている。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 出自も、素性も分からない。
ロシェ・ザ・グレイバード:名前と、性格と、それくらい。ステラナイツのペアになったのか、とても分からないほど薄い関係。
ロシェ・ザ・グレイバード:それでも。……細心の注意を払って、教師にも、商売仇にも悟られないようにしたこの部屋に。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……昼飯、食い終わったら帰るぞ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「この部屋は、お前以外の誰にもバラしてねえんだ」
六条詩絵:「……ええ」
六条詩絵:「次は、ケープではなくて」
六条詩絵:「手を引いていただけませんか?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 身体を思い切り傾け、顔を隠す。
ロシェ・ザ・グレイバード:「気が、向いたらな……」 沈み込むような声で。
ロシェ・ザ・グレイバード:「アンタと話してると、はんだも乾いてない、コードむき出しの基板でも触ってる気になる……」


【ブーケカウント:380】

【Scene1-4:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】

本庶慶一郎
キャラシート
本庶慶一郎:「あと、幾つですかね。いやはや、考えても仕方がないんですが」
本庶慶一郎:ほんしょ・けいいちろう。
本庶慶一郎:少年時代から無数の勝利と敗北を重ねてきた、超歴戦のステラナイト。
本庶慶一郎:年齢は91歳になります。
本庶慶一郎:敗北も重ねているのがポイントで、決して無理をしない戦い方をしている。
本庶慶一郎:それ故長きに渡り続けられているのだ。
本庶慶一郎:身なりも若々しい。黒染めした髪は短く刈り揃えて、髭も剃り落としている。
本庶慶一郎:深く刻まれたシワは流石に隠せないが。
本庶慶一郎:あとバツイチです。若い頃に結婚したが上手く行かなかった。
本庶慶一郎:子供もおらず、親族も居ないので独り身で、
本庶慶一郎:長い付き合いなのは幼馴染くらい。
本庶慶一郎:花章は赤のオダマキ。性能?
本庶慶一郎:何を異なことを。
本庶慶一郎:敵に手の内を明かすものなど居ないでしょう。
本庶慶一郎:ということで、イクリプスとして
本庶慶一郎:3人に立ちはだかるものです。よろしくお願いします。
ユセリア・フィエ:そして私が彼のシース!
ユセリア・フィエ:「『これからもずっと、私とあなたのふたりで!』 ――だってさ?」
ユセリア・フィエ:ユセリア・フィエ。齢90になる、永遠の少女。
ユセリア・フィエ:……まあ永遠というのはちょっとオーバーで、実際は300年くらいで死ぬようです。ただしうち250年ほどを若く美しい姿で過ごすので、普通の人間とは明らかに違いますね。
ユセリア・フィエ:白い肌、宝石のような瞳、黄金の金髪、そして人のそれより長い耳に長命と、概ね君たちのイメージする『エルフ』というフィクションの種族に準じる外見・性質をしています。
ユセリア・フィエ:幼少期、まだアーセルトレイがアーセルトレイという形状に慣れていなかった頃、下層から上層へ両親に連れられ移り住み、
ユセリア・フィエ:その両親も姿を消してからも、お隣の本庶さんと仲良くしつつ、一応社会の中で行きてきました。
ユセリア・フィエ:慶一郎とは幼馴染み! そして一緒に、この世界を守ると誓ったステラナイトでもあります。もう70年くらい前だね~。
ユセリア・フィエ:この明らかに特異な体質のせいで悪意ある者に狙われたこともあり、その実身内以外にはあまり心を開きません。『身内』と言える者も、もはや慶一郎くらい。
ユセリア・フィエ:そして彼が運命の終焉に近いことも、当然理解しています。人間、短命だなー
ユセリア・フィエ:話すべきはそんなところかな。あ、そうそう、ここ30年くらいの趣味は旅行です。いろんな層にひょいっと出掛けては帰ってきたりするよ。
ユセリア・フィエ:使命はもちろん、完全にこなすので。70年選手だからね! 任せておいてください。
ユセリア・フィエ:敵はすべて慶一郎が打倒してくれます。すべてね。
ユセリア・フィエ:こんな所かな。よろしくね!


本庶慶一郎:ザク、ザクと。
本庶慶一郎:小気味よい靴音。
本庶慶一郎:普段使いと山野兼用のトレッキングシューズの鳴らす音。
本庶慶一郎:それに混ざって、コツ、コツと。
本庶慶一郎:こちらも一定のリズムで、刻まれる杖の音。
本庶慶一郎:トレッキング用と、日用の兼用の杖。
本庶慶一郎:その持ち主は、背筋よく、しっかりとした足取りで、帰路へつく。
本庶慶一郎:刻まれた皺は重ねた年月を確かに感じさせるが、
本庶慶一郎:それ以外にはない。身なりも、纏う雰囲気も、その立ち居振る舞いも。
本庶慶一郎:確かに、実年齢よりも若い。齢九十を超えているとは、到底思えぬ。
本庶慶一郎:だが、それは、あくまで。
本庶慶一郎:比較的、だ。
本庶慶一郎:扉の前にたどり着いて、鍵を回す。
本庶慶一郎:ガチャ。開かない。
本庶慶一郎:それは、誰かが既に、家に来ていることを示す。
本庶慶一郎:「……」薄く笑みを浮かべて。
本庶慶一郎:鍵を反対側にもう一度回して。
本庶慶一郎:扉を気持ち、急いで開いて。
本庶慶一郎:自らの家に足を踏み入れた。
ユセリア・フィエ:……擦れ合う葉音と、秋の涼風が君を出迎える。
ユセリア・フィエ:開かれた窓。揺れるカーテン。差し込む日差しの下、無造作で、なのに美しい金髪が煌めいている。君に向けられる涼し気な眼に、蒼い瞳は澄み切っていて。
ユセリア・フィエ:「おかえり、慶一郎」
ユセリア・フィエ:ユセリア・フィエ。その姿も、笑顔も、声も、おかえりのイントネーションも、窓枠に座る姿も、ずっと前から君の知る通り。
ユセリア・フィエ:どんな映像媒体よりも劣化しない、等身大に咲き続ける、君の幼馴染み。
ユセリア・フィエ:「早く帰ってきてくれてよかった。お腹空かせちゃう所だったよ」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃん、帰ってたの」
本庶慶一郎:こちらはそうとは行かぬ。
本庶慶一郎:心の高揚は変わらずとも、その声は往年よりも嗄れている。
本庶慶一郎:靴紐を解くのにだって、以前より、手間取るようになった。
ユセリア・フィエ:「そう、帰ってました。こたびの遠征も、またほどほどに意義のあるものであった」
ユセリア・フィエ:花弁の舞うように窓枠から降り、とん、と立つ。
本庶慶一郎:「またそうやって一人で楽しいとこ行って……」
ユセリア・フィエ:そして、君が靴を脱ぐ様を見ている。朽ちぬ笑みを浮かべながら。
本庶慶一郎:「次は一緒に行こうね……とりあえずなにか作るよ」
本庶慶一郎:若者向けのリュックサックを降ろす。
ユセリア・フィエ:「ダメ。待った。ストップ」
ユセリア・フィエ:「足りないものがあります」
本庶慶一郎:「……なんだろう?」とぼけるように。
ユセリア・フィエ:「……ひどい! 慶一郎。僕は確かに君に捧げたのに。君は僕に返してくれないのかい?」
ユセリア・フィエ:芝居がかった口調は、もう何十年も戯れに重ねてきた茶番
ユセリア・フィエ:すっと身を寄せ、慶一郎の目を間近から見上げる
ユセリア・フィエ:「愛を込めて僕に囁いてよ。あの4文字を……」
ユセリア・フィエ:「帰ってきた僕に……」
ユセリア・フィエ:「おから始まる……」
本庶慶一郎:「おつかれ?」
ユセリア・フィエ:「……りで終わる……!」
本庶慶一郎:「……おすわり」
ユセリア・フィエ:「…………」
ユセリア・フィエ:ぺたんとその場に座り込み、恨めしそうに君を見上げる
本庶慶一郎:しゃがんだ頭をくしゃりと撫でる。
本庶慶一郎:「おかえり、ユセリアちゃん」
ユセリア・フィエ:「……ただいま」 不服げに口を尖らせて
ユセリア・フィエ:「普通に言ってよね。帰ってきた人を迎えるときは、おかえり!」
ユセリア・フィエ:「慶一郎に言ってもらうために帰ってきてる所あるからね、僕」
本庶慶一郎:「だから連れてってくれないのかな」
ユセリア・フィエ:「うーん?」 首を傾げ 「そうかも」
ユセリア・フィエ:「慶一郎が一緒だったら、僕はどこかに帰る必要ないしね」
ユセリア・フィエ:「慶一郎はそうは行かないだろうけどさ」
本庶慶一郎:「ん。……ああ」
本庶慶一郎:「そうだなあ」
ユセリア・フィエ:「病院がないような所に行くことも多いからね。寝る所とかも微妙だったりして……」
ユセリア・フィエ:「そういうのはつらいでしょ、慶一郎は……」
ユセリア・フィエ:少し瞬いて 「神経質な所あるから」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃんが気にしなさすぎなんだよ」
本庶慶一郎:「女の子なんだから、その辺ちゃんと充実してるとこにしなよ」
本庶慶一郎:「一人で行くのも心配してるんだから、こっちは」
ユセリア・フィエ:「僕の行きたい所が充実してて、安全であってくれれば良いんだけどね」
ユセリア・フィエ:「そうじゃないことの方が多いから。ま、今日もこうやっておかえりって言ってもらえたし、良いでしょ」
ユセリア・フィエ:「後は慶一郎のご飯を食べれば、僕としてはただいまを完遂できるってわけ」
本庶慶一郎:「そこまでセットなんだからなあ」苦笑してリュックから食材を取り出す。
本庶慶一郎:「作らないの?」
本庶慶一郎:「前に一回やろうとしてくれたじゃない」
ユセリア・フィエ:座った状態から、ぺたぺた四つ足で慶一郎の荷物を見つつ
本庶慶一郎:前――何十年も前のことだ。
ユセリア・フィエ:「えー。そんなこと言われても……そりゃそういうこともあったけどさあ」
ユセリア・フィエ:「慶一郎の作る方が美味しかったじゃん。僕のよりもさ」
本庶慶一郎:「だとしても、男の子はね」
本庶慶一郎:「女の子の手料理ってやつが、食べたいものなんだよ」
ユセリア・フィエ:「あはは! それ僕に言うかい? ホントに僕が手料理なんてこしらえた所でご飯のグレードが落ちるだけだけでしょ」
ユセリア・フィエ:「そういう口説き文句みたいのを、60年前の君も上手く使えればねえ」 からかうように
本庶慶一郎:「言ってみただけだよ。分かってますって」
本庶慶一郎:「どうせユセリアちゃんはそうやって作ってくれないって」
ユセリア・フィエ:「僕のご飯は僕一人でいつでも作れるからね」
本庶慶一郎:「あーあ。食べたいなあ」ボヤきながら料理を始める。
本庶慶一郎:「せめて手伝ってくれないかなあ」
ユセリア・フィエ:「慶一郎のご飯が食べたいんだ。慶一郎がいるんだから」
ユセリア・フィエ:「まったく、またそうやって言って……」 よいしょ、と立ち上がり
ユセリア・フィエ:「手伝いくらいはするよ。別に何もできないって言うんじゃないんだ」
ユセリア・フィエ:片目を閉じて 「お願いされれば」
本庶慶一郎:「……」
本庶慶一郎:「お願いします、ユセリア様」
本庶慶一郎:「この哀れな慶一郎に愛の手を!」
ユセリア・フィエ:「ふふ」 得意げな顔をして 「よろしい」
ユセリア・フィエ:「このユセリア様が君の剣となり、鎧となろう!」


本庶慶一郎:食事を終えて。
本庶慶一郎:洗い場に立ち。
本庶慶一郎:水を汲んで、懐から薬袋を取り出し。
本庶慶一郎:さっと飲み込む。
ユセリア・フィエ:「慶一郎ー?」
ユセリア・フィエ:「テレビ始まっちゃうよー?」
本庶慶一郎:「うん、ちょっと待ってね」
本庶慶一郎:「これだけ水に浸けちゃう」
ユセリア・フィエ:「お、何だろう何だろう。明日の仕込みかな?」
本庶慶一郎:水をもう一杯汲む。「まあそんなとこ」
ユセリア・フィエ:声だけを投げかけつつ、慶一郎の方は見ない。ソファを我が物顔で陣取っている。
本庶慶一郎:「明日以降のためのね」
本庶慶一郎:そう言うと、水をもう一杯飲む。
本庶慶一郎:まさか、一杯で流し込めなくなるとは。
本庶慶一郎:そこまで衰えていたのかと、今更ながらに感じる。
本庶慶一郎:「今行くよ。今行くから」
本庶慶一郎:「そんなに急かさないでいいだろ」
本庶慶一郎:「天使様」
ユセリア・フィエ:「早くしなよ、人間ー」
ユセリア・フィエ:「天使は人間の事情なんて聞きやしないのさ」
本庶慶一郎:「よく知ってますとも」
ユセリア・フィエ:「ま、僕は天使よりも慈悲深いからね」
本庶慶一郎:「どれだけ振り回されたと思ってるんだい」
ユセリア・フィエ:「ステラナイトの時は僕を振り回すんだから、おあいこ、おあいこ」
本庶慶一郎:「最近重くなったんだけど」
本庶慶一郎:「太った?」
ユセリア・フィエ:「はー!?」
ユセリア・フィエ:抗議するように声を上げる 「そんな訳ありません! これでメチャクチャ気使ってるんだからね!」
本庶慶一郎:「ああ、そうなの?」
ユセリア・フィエ:「この美しいスタイルや美貌を保つ裏では、それはもう地の滲むような努力を……」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃん、細すぎるからさ」
本庶慶一郎:「少し重くなったなら、安心かと思ったんだけどな」
ユセリア・フィエ:「言い方を考えなさいよ」
本庶慶一郎:「……」
ユセリア・フィエ:「そんなだからずっと独り身なんだ。まったくもう」
本庶慶一郎:「ケツに肉が付いた?」
ユセリア・フィエ:「はー!?!?」
ユセリア・フィエ:「もうホント……一体どこでそんな言葉覚えてきたんだか」
ユセリア・フィエ:「僕がきちんと教育するべきだったか……」
本庶慶一郎:「年下に教えられたくないなあ」
本庶慶一郎:「初恋は初等部のときの先生だからね」
ユセリア・フィエ:「初等部かあ。もう何年前?」
ユセリア・フィエ:「84? 85? 簡単な引き算のはずなのに合ってるか自信ないな」
ユセリア・フィエ:「……その相手の顔とか覚えてる?」
ユセリア・フィエ:「声とか」
本庶慶一郎:「……」
本庶慶一郎:「いや。全然」
本庶慶一郎:「嫌われてたしね、その先生に」
本庶慶一郎:ユセリア・フィエが過去に聞いた限りでは。
本庶慶一郎:そのような事を言っていたことはない。
ユセリア・フィエ:「え? ……あっちょっと待って。そんなの……そうだったっけ?」 素直に驚いた表情
ユセリア・フィエ:「何かイタズラでもしたの?」
本庶慶一郎:「ええ?いやあ、真面目な生徒だよ」
本庶慶一郎:「今だって全然変わりないでしょ」
ユセリア・フィエ:「そりゃそうだ。慶一郎はそりゃもう真面目な子で……」
ユセリア・フィエ:「今がどうかは要審議に留めといてやるけれども」
本庶慶一郎:「変わらないつもりなんだけどなあ」
本庶慶一郎:決定的な変質がある。老いよりももっと別の所で。
ユセリア・フィエ:「…………」
ユセリア・フィエ:ソファに沈み込む 「変わるよ」
ユセリア・フィエ:「好みの味も、音楽も、テレビ番組も。変わっていくのが普通だ。みんな変わる」
本庶慶一郎:「ああ、そうだね。好みも変わったんだった」
ユセリア・フィエ:……彼の料理は好きだが、その味が。彼が味見をしながら作り出す味が変じていることに、彼は気づいているだろうか?
本庶慶一郎:「前は年下なんてうるさいだけだって思ってたけど」
ユセリア・フィエ:彼は同じ味を出しているつもりだろうか? 『好みが変わった』と違う味を出しているつもりなんだろうか?
ユセリア・フィエ:確かめることはできない。もう何十年も。
本庶慶一郎:「今はうるさいくらいでいい」
ユセリア・フィエ:「おやおや、この歳で賑やかな若い子にご興味とは、老いてなおお盛んってヤツかな?」
ユセリア・フィエ:「さすがに慶一郎じゃ厳しいんじゃないかなあ。若作りだけどさ。ある意味チヤホヤはされるかもしれないけど」
本庶慶一郎:「はは」笑って。
本庶慶一郎:「うるさいよ」
ユセリア・フィエ:「いつまでも慶一郎が来ないからだよ! もうほら最初のCM!」
ユセリア・フィエ:「うるさい女の子もいっぱいでるぞ? そんな感じのドラマだったはず……」
本庶慶一郎:「そういうの好きだよねホント」
本庶慶一郎:隣に座る。「俺はやっぱりもっと」
本庶慶一郎:「ヒーローが敵をやっつけるやつが好きなんだけどな」
本庶慶一郎:「女の子を助けて、めでたしめでたしのやつ」
本庶慶一郎:「もう流行らないのかな、そういうの」
ユセリア・フィエ:座る慶一郎に隣を譲る。彼が食器を洗っている最中にシャワーを浴びたので、髪は濡れたままだし、寝間着のような薄着だ。
ユセリア・フィエ:「そんなことないんじゃないかな」
ユセリア・フィエ:「変わることもあるけど、変わらないこともある」
本庶慶一郎:タオルで彼女の髪をぐしぐしと拭う。「例えば?」
ユセリア・フィエ:大人しく髪を拭かれる。幸せな感触 「ヒーロー」
ユセリア・フィエ:「僕のヒーローはいつまでたってもヒーローだ。流行りなんてなく、ずっとね」
ユセリア・フィエ:それから子供っぽい笑みを浮かべて 「……久しぶりに見る? 子供の頃に見たやつさ」
本庶慶一郎:その手を止めて、頭の上に置いたまま。
本庶慶一郎:「……ああ」
本庶慶一郎:「何度見たって、いいものさ」


【ブーケカウント:350】

【第二章】

【Scene2-1:篝・コンラッド/日高見セシル】

篝・コンラッド:――休日。午前。
篝・コンラッド:特にイベント事もない、篝・コンラッドの朝は、あまり早くない。
篝・コンラッド:「うーー……」 耳元から伸びた枝が、さんさんと差し込む日の光を浴びて茂る。
篝・コンラッド:呻きながら、寝返りを打つ。
篝・コンラッド:よく伸びた枝が、ベッドのヘッドボードに引っ掛かる。ぐい。ぐり。ぐき。
篝・コンラッド:「おぐふっ!」
篝・コンラッド:捻る。嗚咽。……しばらくベッドの上で後、涙目で起床した。「……もうう……!」
篝・コンラッド:もぞもぞと起き出す。セシル様イラストつき目覚まし時計(ファンクラブ作成)で時刻を確認。
篝・コンラッド:特に予定もない。「ええと、朝ごはん……あ、パンもうない……」
篝・コンラッド:「じゃ、買い物と……たまには家、帰るかなあ……」 実家を出て、一人暮らししている。学校の寮ではない、民間のアパートだ。
日高見セシル:携帯端末に通知。
日高見セシル:『もうすぐ家に着きそう』と連絡。
篝・コンラッド:「ん。」目を落とす。「何だろ……そういや、明後日からイベント警備の……」
篝・コンラッド:「…………」
篝・コンラッド:「…………!?」
篝・コンラッド:「……待て。待って待って待って。落ち付いて。枝の本数を数えて落ち付いて私」
篝・コンラッド:「あはは、この書き方だとまさかこっちに来てるように思えたけど、そんなわけないない」
日高見セシル:『着いたよ~』
篝・コンラッド:『ご自宅、遠いんですあk』
篝・コンラッド:「…………………」
篝・コンラッド:窓から外を見下ろす。
日高見セシル:日高見セシルの姿。
日高見セシル:いつものステージ衣装ではない。
日高見セシル:いつもは片目を隠している髪を流して。
日高見セシル:ピンク色のカーディガンを羽織ったラフな格好。
日高見セシル:携帯端末を操作している。
日高見セシル:『良かった起きてた。どこだっけ号室?』
篝・コンラッド:「!?!!?!?!?!!!」
日高見セシル:顔を上げて窓の方を見る。
篝・コンラッド:ばたばたばたばたと枝が伸び、無数の花が咲き、咲き乱れ顔を覆い、
篝・コンラッド:やがて花が輝く実になって萎びてそれらが床に落ちて枝が枯れる。
日高見セシル:君の顔を……ではなく。
日高見セシル:枝を認めて、手を振る。
篝・コンラッド:文字通り一周季ぶんの動揺を超えると、カーテンを閉めて窓から引っ込む。
篝・コンラッド:ばた。ばたっ。がしゃっ。ばしゃばしゃばしゃばしゃ。ざばー。ごしごし。
篝・コンラッド:……一分ほどの沈黙ののち、アパートの階段を駆け下りてくる。
篝・コンラッド:「こ、こーーーこここここ、こ、こ」
篝・コンラッド:「……ボンジュール?」
日高見セシル:「やあ……ボンジュール?」
篝・コンラッド:「セシル、さま……さん……?」
日高見セシル:「何だっけそれ。地球の古い言語の挨拶だっけ?」
篝・コンラッド:「あ、はい。父が、そういう古い演劇が好きで……」
篝・コンラッド:「じゃなくて! な、なにゆえに!?」
日高見セシル:「へえ。篝さんのお父さんの話、初めて聞いた」
日高見セシル:「え、何が?」
篝・コンラッド:「なにゆえ、貴方様のような高貴なお方が、このような貧相な我が家に……?!」
日高見セシル:「え、だって、言ったじゃない」
日高見セシル:「作戦会議しようって。篝さんちでいい?って聞いたら」
日高見セシル:「綺麗に咲いてたから」
篝・コンラッド:「……!!」
篝・コンラッド:そんなこと聞かれた? 聞かれたかもしれない。聞かれて頭いっぱいになってショートして応えられなかったかもしれない。
日高見セシル:「その服かわいいね。どこで買ったの?」
篝・コンラッド:「え、あう、…………は、母の……」
篝・コンラッド:「母が選んだのを……適当に……」
篝・コンラッド:「はっ!」 と、同時に気付く。学園寮ではないが、学生がうろついていてもおかしくない程度には距離が近い。
日高見セシル:「ふうん」興味深げに見る。
篝・コンラッド:まして、安アパートの他の住人がいきなり私服のセシル様を見たら、陥落、失神、失明危篤!
篝・コンラッド:「と、とにかくその……立ち話もなんですから!」
日高見セシル:「うん。篝さんの部屋見たいな」
篝・コンラッド:「…………!」
篝・コンラッド:「ご、五分……いや」 そのような長い時間、彼女をここで待たせるのか?
日高見セシル:「あんまり人の部屋とか行かないからさあ」
日高見セシル:「気になるじゃない」
篝・コンラッド:「……5……いえ、47秒。お待ちください。それで、全て済ませます」  暗殺者のような目で。
日高見セシル:「うん?分かった」
日高見セシル:「でもなんかそれ、歌詞みたいだ。47秒お待ち下さい」
日高見セシル:「今度そのフレーズ使おうかな」
篝・コンラッド:「ひえ」 恐れ多い! 
篝・コンラッド:と思いつつ、返事を確認すると、部屋に引っ込む。
篝・コンラッド:どたんばたん、と大きな音がしたのは二三度。やがて、静寂が数十秒続く。
篝・コンラッド:小鳥が鳴き、木々がざわめき、どこからともなく吹いた風がセシル様の髪をなびかせ、
篝・コンラッド:…………46秒フラットで、扉が開く。「ど、どうぞ…………」
日高見セシル:扉を開いて。「――わあ」
日高見セシル:「篝さんの匂いだ」
篝・コンラッド:呼吸は一見落ち付いているが、枝には豊富な葉が茂ってめっちゃ光合成している。
篝・コンラッド:セシル様カレンダー、セシル様人形、セシル様スリッパ、セシル様デザインタペストリーなどを全て仕舞うと、
日高見セシル:「草木と花の匂い」
篝・コンラッド:女子にしてはやや物の少ない、シンプルな家具や本棚がある部屋だ。
篝・コンラッド:「ん゛ん゛っ」 胸を抑える。
篝・コンラッド:(セシル様香水、常用してなくて良かった……!)  使ったら耐えられなくて倒れたからだが。
日高見セシル:キョロキョロと部屋を見回す。
日高見セシル:「……ふうん」
日高見セシル:「……ふうん?」
篝・コンラッド:「お、お水を……お水をご用意します!」
篝・コンラッド:「セシル様……さんは、何がお好きですか?」
日高見セシル:「ポスターとか無いの?」
篝・コンラッド:「ありますけど!?!?!!?」
篝・コンラッド:「――――ハッ! 本音が!!!」
日高見セシル:「あ、よかった」
日高見セシル:「いやさ、他の人のとか貼ってあったらショックだなって」
日高見セシル:「別にそれがダメとかじゃないんだけど、なんとなくさ」
篝・コンラッド:「はーーーーーーーあるわけないじゃないですかーーーーーーーはーーーーー」
日高見セシル:「本当?漁っていい?」
日高見セシル:返事を聞かずに引き出しを開け始める。
篝・コンラッド:「んぎゃー!!」
篝・コンラッド:「…………」 すー、はー。胸を抑えて深呼吸。光合成。セシルさんを見る。
篝・コンラッド:「んぎゃー!!」
篝・コンラッド:では、判定は必要ありません。セシル様は、最低限の時間で最大限に丁寧に梱包された
篝・コンラッド:ポスター、ブロマイド、湯呑み、置き畳、ようかんの空き箱などのグッズを見つける事が出来る。
篝・コンラッド:……と、同時に。
篝・コンラッド:それらによって押し退けられた、クロッキー帳、楽譜、あるいは裁縫道具と布……そういうものもある。
日高見セシル:「大丈夫だよ別に……色んなグッズ出てるのは知ってるし」
篝・コンラッド:クローゼットの隙間からは、似合わないエレキギターっぽいものも見えたりするぞ。
日高見セシル:「畳は初めて見たけど……ん」
日高見セシル:楽譜を取り出す。「これ……」
日高見セシル:「僕の曲じゃないな。誰の曲?」
篝・コンラッド:「畳はようかんコラボした和菓子茶花道部が勝手におまけでつけて……」
篝・コンラッド:「ひゅっ」
篝・コンラッド:たたた、と。
篝・コンラッド:無音で近づき、セシル様の……憧れのセシル様の手から、乱暴に引っ張る。
日高見セシル:「ああっ!」
日高見セシル:「いや、違うよ篝さん!」
日高見セシル:「怒ってるとかじゃなくて!気になっただけなんだって!」
篝・コンラッド:「うう……うううう……」
日高見セシル:「怒ってないよ、信じて」
篝・コンラッド:楽譜の端には、篝のサイン? のようなものがある。
篝・コンラッド:「き、」
篝・コンラッド:「気の迷い……ですから……これは……」
日高見セシル:「……」顎に手を当てて。
日高見セシル:「……」考え込むように黙り込む。
日高見セシル:伏し目がちな青い瞳で、彼女の手の楽譜を見る。
日高見セシル:「……自作?」
篝・コンラッド:枝は動かない。
日高見セシル:再び引き出しの中を見る。
篝・コンラッド:しばらく固まって、こくり、と頷く。
日高見セシル:クロッキー帳。裁縫道具。
篝・コンラッド:「そ、その……本気でやったわけじゃなくて」
日高見セシル:クローゼットの隙間のエレキギター。
篝・コンラッド:「……本気でやれたもの、一つもなかったから……」
篝・コンラッド:「何か、何か出来ないかな、って……色んなこと、試して……」
篝・コンラッド:「だから本当に、別に、どうだっていいことですから!」
日高見セシル:「ふうん」す、と楽譜を抜き取る。
篝・コンラッド:「あ!」
日高見セシル:す、と手を伸ばして制止のポーズ。
日高見セシル:もう片手で楽譜をめくって眺める。
日高見セシル:「確かに、構成がちぐはぐだね。賑やかになったかと思えば、急に静かになって」
日高見セシル:「音もまとまりがなくて、高かったり、低かったり、早かったり、遅かったり」
篝・コンラッド:「おぐふっ」
篝・コンラッド:ボディブローでも受けたかのように前かがみになる。
篝・コンラッド:糸こんにゃくのように枝が萎びていく
日高見セシル:「でも、篝さんらしいよ。思いをそのまま形にしたっていうか」
日高見セシル:「ここは適当に済まそうってところがない。最初から最後の一音まで、全部意味を持って置いてる」
篝・コンラッド:「うううう……そ、そんな、無理にお世辞をいわなくてもいいですから……!」
日高見セシル:「僕がお世辞を言うと思う?」
日高見セシル:「あ、絵の方は何が書いてあるか全然わかんない」
篝・コンラッド:「……………」
篝・コンラッド:言わないだろう。何もかも一人でやって、何もかも一人で極めていく。
篝・コンラッド:周囲の全てに対して、たった一人で本気で挑んでいく。その立ち姿をこそ、尊いと、そう思ったのだ。
篝・コンラッド:「はぐっ!」 それはそれとして絵の方に言及されて、顎にクリーンヒットを叩き込まれたかのように床にへたり込む。
日高見セシル:「続かなかったかもしれないけどさ」
日高見セシル:「本気だったんだろ、その時は。じゃあ、それでいいじゃない」
日高見セシル:「僕だって、いつまでこうやって歌ってられるか分からないんだし」
日高見セシル:あ、なるべくずっとやりたいよ、と訂正して。
篝・コンラッド:「だって、どこにもいけなかったんですもん・……」
篝・コンラッド:「何かになりたくて……何にもなくて……今年で卒業だし……」
篝・コンラッド:「あとセシル様は永遠ですもん……」
日高見セシル:「才能なんて、降って湧いたものなんだから」
日高見セシル:「それ自体には意味はないでしょ」
日高見セシル:「与えられたそれを、使うか使わないかだけ」
日高見セシル:「篝さんがなにもないのは嘘じゃない」
日高見セシル:「ステラナイツでしょう。それだってさ」
日高見セシル:「降って湧いた、才能みたいなものだ」
篝・コンラッド:「セシルは、持ててるからそう言えるの!」
日高見セシル:「……」
日高見セシル:「そうかもね。僕は才能あると思うよ」
篝・コンラッド:「ステラナイツでもなんでもいい! 何でもいいから、何かがほしいの!」
日高見セシル:「じゃあ願えよ」
篝・コンラッド:「お父様とお母様みたいに、あなたと同じくらい、輝きたいの!」
篝・コンラッド:「馬鹿みたいに、そればっかりで……!」
日高見セシル:「誰よりも、高く、遠くへって」
日高見セシル:「僕がそうしてやる。篝・コンラッド」
日高見セシル:「何でってよく言うけどさ」
篝・コンラッド:「……!」 見上げた瞳は、もう涙で滲んでいる。
日高見セシル:「僕らがステラナイツであることに、きっと意味なんて無い」
日高見セシル:「そんなのはさ。ただの降って湧いた機会なんだ」
日高見セシル:「僕は全部使うよ」
篝・コンラッド:「…………いいの」
日高見セシル:「君のシースであることに意味を作ってやる」
篝・コンラッド:「だって、私が輝くために振るうのは、敵にぶつけるのは、貴女よ」
篝・コンラッド:「武器にして、踏み台にして、セシルの輝きが少しでも翳ったら……私……」
日高見セシル:「僕が顔を隠したら」髪を寄せ、片目を隠す。
日高見セシル:「僕の輝きは翳る?」
篝・コンラッド:「………………そんなこと」
篝・コンラッド:「あるわけ、ないでしょ……」
日高見セシル:「そんな事はあるわけない。分かってるでしょう」
篝・コンラッド:「分かってる。分かってる。……セシル様なら、肩の端っこから靴先だけで判別できるし」
日高見セシル:「えっ」ちょっと引く。
篝・コンラッド:「……分かってる。けれど」 手を伸ばして、セシルの襟元を握る。
篝・コンラッド:「私は、ほんとに、ほんとに、加減とか、分からないから」
篝・コンラッド:「私がたまたま持ってるのが、『ステラナイツ(これ)』だけなら」
篝・コンラッド:「私の、存在ぜんぶ、ゆびさきからはなびらのひとかけまで」
篝・コンラッド:「それに費やすから。セシルはそれを、受け止めてくれるの?」
日高見セシル:「いいね。とてもファナティックだ」
日高見セシル:「スタア冥利に尽きるよ。全部捧げてもらうよ」
日高見セシル:「仰げよ。星を見せてあげる」
日高見セシル:「枯れない星の輝きを」
篝・コンラッド:「じゃあ、光を頂戴。水を頂戴」
篝・コンラッド:「枯れた大地にも、意地で咲く花があるんだって」
篝・コンラッド:「見せてやるから」
日高見セシル:「うん。一緒に見よう」
日高見セシル:ステラナイツであることは、好きだ。
日高見セシル:普段決して見られない視座を。
日高見セシル:星の輝きを、眺める側になれるから。
篝・コンラッド:戦うのは怖い。挑むのは怖い。自分が何も持っていないと、思い知らされるのが怖い。
篝・コンラッド:それでも、自分は、星に手を伸ばすことをやめられない生き物だ。
篝・コンラッド:ぐっと涙を拭って、歯を食いしばって、立ち上がった。


【ブーケカウント:316(累計603)】

【Scene2-2:香坂マイラ/ジェイド・リー】

ジェイド・リー:この世界に、個人用の自動車や二輪車はごく少ない。人々の移動はその殆どが公共交通機関に依存している。
ジェイド・リー:そして深夜に及ぶ始末書の作成の結果として、統治政府治安維持局の二人の帰宅手段も自ずと確定している。
ジェイド・リー:すなわち、徒歩だ。
ジェイド・リー:オフィス街の一角。まだ明かりのついている窓もいくつか存在するが、それでもやはり地上の人通りは皆無に等しい。
ジェイド・リー:「……疲れた」
香坂マイラ:「お疲れさまです!」 こちらはまったく疲れを見せていない。いつもこうだ
香坂マイラ:「書類もいっぱい直してもらってありがとうございました!」
ジェイド・リー:眼鏡は曇り、肩を落とした姿勢のため高い身長もいつもより低い。
ジェイド・リー:「全体の九割を表現する時は」
ジェイド・リー:「『いっぱい』じゃない。『ほとんど』というんだ」
ジェイド・リー:「なんで始末書の代筆だけじゃなくて報告書もやらなきゃならないんだ?」
香坂マイラ:「ほとんど直してもらってありがとうございました!」 跳ねるように頭を下げて
ジェイド・リー:「お、おう」
香坂マイラ:「また直してもらっちゃいましたね」 屈託なく笑う
ジェイド・リー:「そうだな。まったく……」
香坂マイラ:「適材適所です! でもちゃんといつか、書けるようになりますから!」
ジェイド・リー:「前の部署ではどうやって仕事をしていたんだ?」
ジェイド・リー:「一応、エリートの……学園課の方にいたんだろう」
ジェイド・リー:「僕は一般職で入ったから最初からこっちでやっているが」
香坂マイラ:「えーっ」 少し嫌そうな顔
香坂マイラ:「前の所では……枠? 形式? がすっごいきちきちで。使う言葉なんかも、辞書みたいな説明書があったりして」
香坂マイラ:「それ通りにやれば、オッケー! それからちょっとでも外れたら、ダメ!」
香坂マイラ:「あと字が変だったり字数がズレてても、ダメー! やり直し!」
香坂マイラ:「……で、あと、あれなんですよ。規則が厳しくって、わたしくらいの子は遅くまで働かせられないからって言われて」
香坂マイラ:「もういいからーって言われて、最初っから取り上げられたりしました」
ジェイド・リー:「そうだな。学園課はこっちよりだいぶ労働基準はきっちりしている……」
ジェイド・リー:「規則に厳しいのもそうだ。学園生徒が日々目にする大人になるわけだからな」
香坂マイラ:「制服をぴしーって着るのは、カッコよくて好きでしたけど!」
香坂マイラ:「でもなんか、狭い……鎧……? に、押し込められてるみたいで、狭い……狭かったなあ」
香坂マイラ:「今は広いです!」 ばっと腕を広げる
ジェイド・リー:「オフィスはこっちのほうが狭いだろう」苦笑する。香坂が言わんとしていることは分かる。
香坂マイラ:「でも広いです! えーっと……気持ちが! センパイもわたしに付き合ってくれますし」
ジェイド・リー:「付き合いたくて、付き合ってるわけじゃないんだが……」
香坂マイラ:首を楽しそうに揺らしながら 「普段のお仕事も、いろんな人と話したり、いろんなこと考えながら動いたりで、楽しいです」
香坂マイラ:「えへへ。次はもっと早く上がれるようにガンバります!」
ジェイド・リー:「香坂。僕はな……定時で上がる主義だったんだ。君の上につくまでは」
香坂マイラ:「ていじでですか」
ジェイド・リー:「それなのに君の面倒を見ていると、大体こうだ」
ジェイド・リー:「……前の職場では、遅くまで働けなかったのが不満だと言っていたな」
ジェイド・リー:「もっと働きたいのか?」
香坂マイラ:「はい! わたし、体力ありますから」
香坂マイラ:「学生のときも、いっぱい本読んで勉強してました」
香坂マイラ:「センパイは違うんですか?」
ジェイド・リー:「僕は……」
ジェイド・リー:「……さあ、どうだろうな」
ジェイド・リー:「一応は望んでこの仕事に就いたはずだが、結局は」
ジェイド・リー:「それが正しい人生だから、規則に沿って進んできただけなのかもしれない」
ジェイド・リー:「学生時代に……もう10年以上前の話だが、友達がバンドをやろうと言ってきたことがあってな」
香坂マイラ:「バンド!」
香坂マイラ:「いいですね! センパイ似合いそう。ベースとか」
ジェイド・リー:「僕は、その時は断ったわけだ。勉強の計画をきっちり立てていて、帰宅した後に毎日3時間、休憩が1時間」
ジェイド・リー:「そうでなければ平均点が取れなかった。学園の求める規則に沿えないと思っていたんだろうな」
ジェイド・リー:「だが、今でも思うことがあって……」
香坂マイラ:「?」 首を傾げ、見上げる
ジェイド・リー:視線を空に向ける。ビルの端で点滅する、赤い障害灯。
ジェイド・リー:「……あの時バンドをやっていたらどうなっていたんだろうとな」
ジェイド・リー:「思えば、別に自分で決めた3時間だってずっと勉強をしていたわけではなかった」
香坂マイラ:「……どうだったんでしょう? センパイがバンドしてたら……」
香坂マイラ:「……もしかしたらもっと芸術系の道に行けてたのかも? それとも成績悪くなってただけだったかも」
ジェイド・リー:「学生の時のことを聞かれて、もしも何かをやっていた時の話をするのはおかしいか?」
ジェイド・リー:深夜だから感傷的になってしまっているのかもしれない。そういう自覚はある。
香坂マイラ:「おかしくないですよ」 笑いかける
香坂マイラ:「センパイが話したいって思いながら話したんなら、それは今センパイにとって、なんとなく大事なことで」
ジェイド・リー:だが、香坂が部下になる前までは、そもそも感情を出すこともなかっただろう。特に仕事中は。
香坂マイラ:「それを聞かせてもらえるのは、わたし、嬉しいです!」
香坂マイラ:「センパイのこと、分かる気がしますから。嬉しいです。へへ」
ジェイド・リー:「香坂はいつも楽しそうでいいな……」ため息交じりに言う。
ジェイド・リー:「サッカーは」
ジェイド・リー:「どういう技ができるようになったんだ。いや、技というものがあるのかどうかも知らんが」
ジェイド・リー:「やったことがないからな」
香坂マイラ:「サッカー、やりますか! 楽しいですよ!」 目を輝かせる
香坂マイラ:「えっとですね、こう、こうやってね、ボールをぽんぽんって蹴るんです」 立ち止まって、足首を奇妙に上下させる。リフティングと呼ばれる技法の動きだ
ジェイド・リー:「おお、なんとなく知ってるぞ」
香坂マイラ:「最初はね、全然できなかったんですけど、やってるとできるようになってきて」
香坂マイラ:「で、ほんとのサッカーの時でも、えいっ! て、ボールを取りに来る、相手の選手をね、かわせるんです」
ジェイド・リー:「さっきの話のことなら、相手の選手は子供だろう」
香坂マイラ:「そうですよ! おねーちゃんからボール取るの、マジ勉強になるって言われちゃってます」
香坂マイラ:むふんと得意げに胸を張る 「ディフェンスねーちゃんと近所でも評判です」
ジェイド・リー:(まあ、気にせず遊んでるならいいか……)仕事中にやらなければだが。
香坂マイラ:「ねっねっ、センパイもやりましょうよ! 楽しいですよサッカー! ボールを追いかけるの楽しいです!」
ジェイド・リー:「いや、僕は……」いい、と答えようとしたが、
ジェイド・リー:「……今、バンドに誘ってるわけか」
香坂マイラ:「はい?」 首をかくんと倒す 「サッカーですよ?」
ジェイド・リー:「それは勿論分かっているさ」
ジェイド・リー:「一応、考えておこう。たまには現場仕事以外の筋肉も使わないといけないだろうしな」
香坂マイラ:「ホントですか! やったやった!」
香坂マイラ:子供のように跳ね、そのまま近くの空き地に走っていき
香坂マイラ:「PKやりましょうPK! 2人でもできるサッカーがあるんですよ!」 声を張ってぶんぶんと手を振る
ジェイド・リー:「は」呆れたように笑う。
ジェイド・リー:「今、ここでか?」
ジェイド・リー:「まさかだろ。大の大人が二人も揃って」
香坂マイラ:「?」 「でも、できますよ?」
香坂マイラ:その手には、空き地に忘れられていたであろうボールがある。空気も抜けていて、ボールとして正しく機能するかも怪しい。
ジェイド・リー:「始末書がこの世に存在するのは、本来あってはいけない違反の始末をつけるためだ」
ジェイド・リー:「自動車のタイヤを銃で撃つのも、現実にも可能だからこそ映画にもそういうアクションがある」
ジェイド・リー:「だけど、実際にやるかどうかは話は別なんだよ」
ジェイド・リー:ポケットに手を入れたまま、空き地の中へと踏み込む。
ジェイド・リー:「やろうと思えばやれる。僕だって」
香坂マイラ:「えへへ」 難しいことは分からない。彼の中に渦巻く想いも。でもそれを慮るよりも、センパイが来てくれたことが、今はただ嬉しい。だから笑う
香坂マイラ:「じゃあセンパイはそこに立っててください!」 壁際を指す 「わたしはボールを蹴ります!」
ジェイド・リー:「蹴って、それで僕はどうすればいいんだ」
香坂マイラ:「取るんです! あ、手を使って良いですからね」
香坂マイラ:「こう、ずさーって」 両腕を伸ばし、飛び込んでスライディングをするような動きをして見せる
ジェイド・リー:「そんな簡単なことでいいのか?」スーツ姿のまま準備運動をする。
香坂マイラ:「簡単だって思うでしょー? でもゴールは広いんですからね」
香坂マイラ:「わたしが右に蹴るか、左に蹴るか……もしかしたら真ん中かもしれませんよ」
香坂マイラ:「簡単ですか?」
ジェイド・リー:「僕も香坂も、飛び出してきた犯人を捕らえたことくらいあるだろう。たかがボールより、そっちの方がよほど予測が難しいと思うけどな」
ジェイド・リー:「大体、右に蹴るか左に蹴るかくらいは動作に注目していれば……」
香坂マイラ:「ふふふ」 今までの笑いとは少し違う笑みを浮かべる。どこか悪戯っぽい
香坂マイラ:「それじゃあ今日は、そんなセンパイにサッカーの厳しさを教えてあげましょう」
香坂マイラ:ボールを置き、軽く踏む。空気の抜け方、その感触から、適切な蹴り方を脳内で割り出す
ジェイド・リー:別に、サッカーや香坂のことを舐めているのではなかった。
ジェイド・リー:ただ、そういう気分だっただけだ。
ジェイド・リー:『できる』と断言したい。やろうと思えば、天才のようにできるのだと。
ジェイド・リー:「来い」
香坂マイラ:――――
香坂マイラ:香坂マイラが天才的である所に――その身体の動かし方がある。
香坂マイラ:ともすれば感性や反射に拠りがちな運動という行為を、香坂マイラは理知にて御し、自らの可能と不可能を解し、自らの身体を文字通り『操って』見せる。
香坂マイラ:彼女が勉学を愛好することになった発端も、元はと言えば自分の身体の運動を、それに影響される物理の法則を知るのが、楽しくて仕方がなかったからだ。
香坂マイラ:本人の曖昧な物言いからあまり理解はされないが、その才能は単純な運動よりも、一挙手一投足に技巧を光らせるスポーツの中で輝くものであり……
香坂マイラ:「……あはは!」
香坂マイラ:「お疲れさまでした!」 仕事の終わりと同じように、しかし一層あかるい笑顔で、ぴょんとセンパイに頭を下げる
ジェイド・リー:「ああ、くそっ、はは……」
ジェイド・リー:スーツが砂まみれになっている。最後の方は体ごと飛び込むようなディフェンスを何度かやった。
ジェイド・リー:「だが、二回……二回は止めただろう」
香坂マイラ:「ですね。さすがです! 最後なんか、センパイがあんな、ダイブ! するなんて、思いませんでした!」
ジェイド・リー:「クリーニングで取れるのか?この汚れ」
香坂マイラ:「まあ、13回は通しちゃいましたけど……」 また悪戯っぽく笑う。勝利の喜びが抑えられないのだ
ジェイド・リー:「少しは遠慮をしろ。経験者なんだから」笑うが、自分への呆れも混じっている。
香坂マイラ:「えー、わかんないですけど。血だって落ちるお洗濯屋さんなんですから、砂だって落ちるんじゃないですか? 手洗いとかします?」
ジェイド・リー:「香坂がやってくれるのか?」
香坂マイラ:「ご指名とあればやりますよ!」 ぐっと拳を握る 「家事も好きでしたから! 洗濯だって、ちょいちょいのちょいです!」
ジェイド・リー:「こうなってるのも香坂の始末書のせいの残業帰りで、香坂のサッカーに付き合ったからだぞ」
香坂マイラ:「男の人のスーツは初めてですから、どうなるかは分かんないですけど!」
香坂マイラ:「えへへへえ。そうですねー」 笑いながら、センパイのスーツについた汚れを適当にパンパン叩いて落としてあげる
香坂マイラ:「まさかセンパイとサッカーできるなんて」
ジェイド・リー:「本当は組むのなんて仕事だけで十分なんだがな」
香坂マイラ:「わたしは何でもセンパイと一緒で嬉しいですよ」
香坂マイラ:「治安維持局、ステラナイト、で、今日はサッカー!」
ジェイド・リー:「ステラナイトのことは言うな……」ややげんなりする。
ジェイド・リー:「なんでステラナイトなんだ?君と僕が?」
香坂マイラ:「えへへ、何ででしょうね。神様の考えは分かんないですけど」
香坂マイラ:「なんででも良いです。わたしは嬉しいですから! ……世界を救うときも、センパイが一緒に頑張ってくれる!」
香坂マイラ:「そう思えば、なんのそのです。治安維持局みたいなものですよね、ステラナイトも」
ジェイド・リー:「……」眩しいほどの信頼。本当に、命をこの自分に預けることに全く疑いを持っていない。
ジェイド・リー:「ステラナイトの存在を知ってしまうと……まるで治安維持局の仕事が茶番のように思えたりしないか?」
ジェイド・リー:「それなりに勉強して、努力をしてここに入ったはずだけどな……でも僕らは、一番重要な事件だけは決して解決できない」
香坂マイラ:「? 茶番ですか?」
ジェイド・リー:「あらゆる歴史の中で間違いなく最大の、未解決の大量殺人事件が目の前にあるのに」
ジェイド・リー:「ひったくり犯を追いかけたり、落とし物の調書を作ったりばかりだ」
香坂マイラ:柵に腰を降ろして、ぷらぷらと足を揺らす
香坂マイラ:「でも、ステラナイトってだけじゃ、ひったくり犯を追いかけることも、落とし物の調書を作ることもできないじゃないですか」
香坂マイラ:「盗まれたものを取り返して、喜んでもらったり。なくしたものが見つかって、喜んでもらったり」
香坂マイラ:「わたし、この仕事のそういうところも好きですよ」
ジェイド・リー:「やっぱり、羨ましいな……香坂は」
ジェイド・リー:「ちゃんとしている」普段は彼女に対して決して使わない表現だが
ジェイド・リー:「物事に向き合う時は、そうでありたい」
香坂マイラ:普段なら、その称賛に一も二もなく尻尾を振るところだったが
香坂マイラ:なんとなく、そうではないと感じ取った。栗色の、丸くて大きな目でセンパイを見る
香坂マイラ:「センパイだってちゃんと考えてますから」
ジェイド・リー:「僕が?君がって話じゃなく?」
香坂マイラ:「はい。考えてるから、いつも難しそうな、不機嫌な顔したり、今も何だか、ちょっと大変そうですけど」
ジェイド・リー:「今大変なのは君の始末書を手伝ったからだ……」
香坂マイラ:「サッカーもしました!」
ジェイド・リー:「そうだったな」もはやツッコミは入れない。
香坂マイラ:「……さっき言ってた、あのね、バンドに誘われたのに勉強があったから断ったとか、ひったくりや落とし物の解決が茶番なんじゃないかって」
香坂マイラ:「『どうするのが良いか』とか『こんなことは小さなことなんじゃないか』って、センパイはいっぱい考えてて」
香坂マイラ:「それって『何が大事か』を考えてるってことなんだと思うんです」
ジェイド・リー:「…………」
香坂マイラ:「わたしは、ほら。へへ……あんまりそういうの得意じゃなくて、やりたい! ってなったらそれが一番だから」
香坂マイラ:「センパイ、すごいなって思います」
ジェイド・リー:「まあ、先輩だからな」
ジェイド・リー:「香坂よりは十年くらい長く仕事をやっているんだ。一年や二年で追いつかれたりしたら、僕の立場がないさ……」
ジェイド・リー:遊具に腰掛けて、天を仰いで言う。
ジェイド・リー:「……コーヒーが飲みたいな」
香坂マイラ:「えーっ、今からですか? 寝られなくなっちゃいますよ?」
ジェイド・リー:「いや……コーヒーが飲みたい。砂糖が多くて、甘ったるい缶コーヒーが」
ジェイド・リー:「香坂は飲みたいものはあるか」
香坂マイラ:「わたしですか? んー……あっ!」 ぱっと顔を明るくして
香坂マイラ:「お酒!」
ジェイド・リー:「お酒って顔か」
香坂マイラ:「センパイと飲みに行きたいです!」
ジェイド・リー:「会社の飲み会があるだろう」
香坂マイラ:「顔ですか! うーん、確かに前友達と行った時は注意されましたけど、でも免許見せれば出してくれましたから……」
香坂マイラ:「えー。そういうんじゃないです。それも楽しいけど、センパイと行きたいんです」
香坂マイラ:「ないんですか? 行きつけのバーとか。センパイ、大人なんですから!」
ジェイド・リー:「……まあ、いずれ見つけるさ」
ジェイド・リー:「サッカーみたいにな。大体、男と二人で飲みに行くのに抵抗はないのか」
香坂マイラ:「えー。わたしは全然ないですよ」 にこにこ笑う 「センパイのこと、好きですから」
ジェイド・リー:「好き」
ジェイド・リー:「……僕は好きじゃないが」嫌そうな顔。
香坂マイラ:「えー! 仲良くしましょうよー! 今日は缶コーヒーで許してあげますから!」
ジェイド・リー:「やめろ、くっつくな」
香坂マイラ:「だってセンパイが好きじゃないって言うからー」 ぐいぐい体を揺する
ジェイド・リー:「だから、そういう」
ジェイド・リー:「こう……事あるごとに接触してくるんじゃない。僕の方は気をつけなきゃいけないんだ」
香坂マイラ:「気を付ける?」 上目で見上げる 「気を付けるって何を……あっ!」
香坂マイラ:「自販機!」 センパイの肩越しに、ちょっと離れた所に立っているそれを指差して
香坂マイラ:「缶コーヒー買ってきますね! センパイまだちょっと体温高かったですし、つめたーいの!」
ジェイド・リー:「あ!?」
ジェイド・リー:「おい!なんなんだよ!」走っていった香坂の後ろ姿にキレる。
ジェイド・リー:「はー……」
香坂マイラ:走っていったときと同じように、ぱたぱたと走って戻ってくる
香坂マイラ:ひょいっとコーヒーの缶を投げ 「センパイ、キャッチ!」
ジェイド・リー:「おっ」
香坂マイラ:自分もセンパイの隣に座ると、買ってきたホットココアを開け、飲む
香坂マイラ:「ふー、おいし……寝れなくなったらどうしよう」
ジェイド・リー:「君は大丈夫だろ……ココアだし」
香坂マイラ:「でもコーヒーっぽいじゃないですか」
香坂マイラ:「まあ、コーヒーっぽいから選んだんですけど……おいし……」
香坂マイラ:「もしこれで寝れなかったら、明日のステラバトルで困っちゃうかもですね」
ジェイド・リー:「……」自分も缶コーヒーに口をつける。
ジェイド・リー:「ぶはっ」
ジェイド・リー:「明日!?」
ジェイド・リー:「え!?明日って言ったか!?」
香坂マイラ:「?」 缶に口をつけつつ、首を傾げ
香坂マイラ:「あれっ、言ってませんでしたっけ?」
ジェイド・リー:「いや、全然……」
香坂マイラ:「なんか、明日……」 自分の頭に手を当て
ジェイド・リー:「知らなかった……」
香坂マイラ:「……明後日だったっけ……?」
ジェイド・リー:「おいおいおい、はっきりしてくれ、そこは流石に」
ジェイド・リー:「流石にだぞ」
香坂マイラ:「いえ、多分明日です。そうそう、一昨日の朝、なんか言われて……」
香坂マイラ:「非番でしたから、覚えてます! 間違いなく一昨日で、だから明日!」
香坂マイラ:「非番でよかったあ」
ジェイド・リー:「非番なのは君の問題行動で休日出勤になって」
ジェイド・リー:「その代休だったからだ。何も良くないぞ」
香坂マイラ:「えーっ、じゃあわたしが普通に働いてたら、明日か明後日か確信できなかったってことじゃないですか!」
香坂マイラ:「ラッキーですね!」
ジェイド・リー:「それも君が覚えていてくれればいいだけだったんだが……!」
香坂マイラ:「へへへ、すみません。お仕事だとセンパイが大事なこと、覚えててくれますから」
香坂マイラ:「油断してたかも。センパイと一緒なんですもん、ステラナイトも」
ジェイド・リー:「ステラバトルが始まるって話なら、それなりに心の準備が必要だった」
ジェイド・リー:「難易度は」
香坂マイラ:「……なんか」
香坂マイラ:「すごく重い……苦しいイメージ……みたいなのがありました。悲しい、つらい気持ちになっちゃうみたいな……」
香坂マイラ:ずず、とココアを飲み 「今までで一番つらかったです」
ジェイド・リー:「はは。そんな気持ちになることがあるのか?君でも」
香坂マイラ:「ありますよ! 最近はないですけど……」
ジェイド・リー:だが、彼女がそう直感するのなら、そうなのだろう。
ジェイド・リー:それが自分たちのことか、他の誰かのことなのかは分からないが。
ジェイド・リー:「……どうにかするさ」
ジェイド・リー:「意思決定するのは君だが、攻撃と防御を担うのは僕だ。僕がしっかりしていればいい」
ジェイド・リー:「信じていてくれればいい」香坂とは違って、それでどうにかなるという確証を、持てるわけではないが。
香坂マイラ:穏やかに笑う 「はい」
香坂マイラ:「信じてますから。センパイも信じてくださいね」
香坂マイラ:「センパイと一緒なら、何だってどうにかしてみせます」
ジェイド・リー:(香坂と組んで、分かったことは)
ジェイド・リー:(誰か信じることだけでなく、誰かの信頼を受け止めることにも、才能が必要だということだ)
ジェイド・リー:(……何故、僕がシースなのか)何度か考えた疑問だが、明確な答えがあるわけではない。
ジェイド・リー:(その力があるからだと信じたい。……僕自身を)
ジェイド・リー:飲み終わったコーヒーの缶を、ゴミ箱へと投げる。
ジェイド・リー:「……入った」
ジェイド・リー:とても小さく、子供のように笑う。

【ブーケカウント:209(累計506)】


【Scene2-3:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】

ロシェ・ザ・グレイバード:バタン!
ロシェ・ザ・グレイバード:勢いよく扉を閉めて、息を殺す。暫くして、幾人かの足音が通り過ぎていく。
ロシェ・ザ・グレイバード:……彼のバイトは、機械の整備。非公式で、個人で、子供で、技術は異界の基準だ。
ロシェ・ザ・グレイバード:だから、稀にだが、こういうことはザラにある。時限爆弾に使えるような機材の調整と作成。
ロシェ・ザ・グレイバード:途中で気付いて逃げていなかったら、完成と同時に口封じされていたかもしれない。
ロシェ・ザ・グレイバード:少ないが、珍しくはない。まして、彼のいた世界に比べれば、この世界の住人の悪意など、ママゴトにも近い。
ロシェ・ザ・グレイバード:「すぅ――――、…………」
六条詩絵:「はっ……はあ、ふ」その眼前で、走って荒くなった息を押し殺そうとしている。
ロシェ・ザ・グレイバード:だが、今日は違った。心臓が早鐘を打つ。嫌な汗が滲む。額から流れる血を、拭う。
ロシェ・ザ・グレイバード:……今日だけは、こんなことを起こしてはならなかったのに。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……行ったか」
六条詩絵:人が入る部屋ではない。狭い、器具保管庫のような一室だ。ロシェが流している血もすぐ近くで見えてしまう。
六条詩絵:「先生。痛くはありませんか」
ロシェ・ザ・グレイバード:荒い息遣いが、乱れた黒髪から華やかな香りが、すぐ傍に。
ロシェ・ザ・グレイバード:「掠り傷だ。舐めときゃ治る」 親指で拭う。
六条詩絵:「……ご自分では」
六条詩絵:「舐められない位置ではないのですか。その傷は」
ロシェ・ザ・グレイバード:「真面目か。喩えだよ。それとも、舐めてくれっつったら、そうしてくれんのか?」
六条詩絵:「……」赤面して目を伏せる。
ロシェ・ザ・グレイバード:動揺から、口数も多くなる。押し切られて、連れてきてしまった。
ロシェ・ザ・グレイバード:彼女を背後に、作業の内容に気付いた時の気分は、二度と味わいたくないほど最悪だった。
六条詩絵:「……偽装着信」
六条詩絵:「偽装着信で、官憲との通話を装う。ドローンを操って物音を立てて、仲間がいるように見せる」
六条詩絵:「スモークを焚く。フラッシュを焚く」
六条詩絵:「……いつも、先生のお話で学んでいたはずだったのに」
六条詩絵:「何もできませんでした。詩絵は……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……んなこと、考えてたのか」
六条詩絵:「……このような時のために、先生から教えてもらっていたはずなのに」
ロシェ・ザ・グレイバード:「やめとけ。半可通が一番怖え」
六条詩絵:「先生の足手まといになってしまうのが厭なのです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「悲鳴もあげず、俺の判断に合わせてついてきた。それだけで、十分よくやった」
六条詩絵:「……」
六条詩絵:「……先生の、お取引の相手」
六条詩絵:ロシェのシャツを片手で軽く握る。恐れているのかもしれない。
六条詩絵:「悪い方だったのでしょうか?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「最上層(ここ)じゃねえだろうな。あんなしょぼい機能でここの警邏は欺けねえ、たぶん、下層の奴らだ」
六条詩絵:「……悪い方とは」
六条詩絵:「仰らないのですね」丸い目でロシェの顔を見上げる。
ロシェ・ザ・グレイバード:「生き抜くために、多少以上の暴力と、犯罪が必要な連中だ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「悪だろうがな」
ロシェ・ザ・グレイバード:「俺だって似たようなもんだ」 近くの木箱に、六条さんを座らせる。
六条詩絵:「……ええ」
六条詩絵:「先生だけは違う、などとは思いません。詩絵は、先生の教えならば信じられますから」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……こんな目にあってもか?」
六条詩絵:「こんな目と、言われましても」やや疲れたように笑う。
ロシェ・ザ・グレイバード:壁を背に、床に座る。外に耳を澄ましながら。
六条詩絵:「世界が滅びてしまう以上の目なんて、世界のどこにもないではありませんか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………。そりゃ、そうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:立てた膝に肘を載せる。 
六条詩絵:「……生きていくために、暴力と犯罪が必要なら――」
六条詩絵:「お料理を美味しく作れることは必要ですか?」
六条詩絵:「お琴を弾くことは?踊りを正しくできるようになることは?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……。」
ロシェ・ザ・グレイバード:「必要じゃない。全部、無駄だ、」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……そう、思ってんのか?」
六条詩絵:「詩絵は、最初は本当に不器用でした。お料理を練習して……それがお嫁に行くのに必要なことだからと」
六条詩絵:「……何度も繰り返して、正しい手順を体で覚えて。お食材を駄目にしてしまった時は、何度も悲しい気持ちになりました」
六条詩絵:「けれど、そのうち」
六条詩絵:「世の中にこのように言う方が出てきたのです。『女性にだけ台所を任せるのは間違っている』と……」
六条詩絵:「『男性が料理をしてもよい』『無理して作る必要もない』という方が、詩絵の家とお付き合いする方の中にも、少しずつ」
六条詩絵:「……では、詩絵が生きてきて、積み重ねたことはなんだったのでしょう?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………、」
六条詩絵:「本当に必要だったのは、ドローンのアンテナ調整の方法や、発煙薬剤がどこで調達できるのかとか」
ロシェ・ザ・グレイバード:口を開いて、何か言いかけ、また閉じる。
六条詩絵:「そういった知識……では、なかったのでしょうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………弁当」
ロシェ・ザ・グレイバード:不意に、口にする。「弁当。持ってきてただろ。飲み物も」
六条詩絵:「……はい」
ロシェ・ザ・グレイバード:「食うぞ。どうせ暫くはここに籠もる」
六条詩絵:「先生は立ったままではないですか」二人が座れるほどのスペースがない。
ロシェ・ザ・グレイバード:ぐっと壁から身を離す。「そっち寄れ」
六条詩絵:「分かりました」
ロシェ・ザ・グレイバード:ほとんど密着する形で、並んで座る。
六条詩絵:「ふふ」
六条詩絵:「くすぐったいです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……そうかよ。俺は埃っぽいだけだけどな」
ロシェ・ザ・グレイバード:包みを取って、弁当箱を開く。逃走の中で、かなり揺らしてしまったが、零れている様子はない。
六条詩絵:「五目ご飯と、花蓮根と、昆布と里芋の煮物と、鮭の塩焼きと……」
六条詩絵:「こちらが、さつま揚げで、それと、小松菜の胡麻和えです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……ああ」 箸を持って、ぎこちなく開閉させて、。
六条詩絵:並んだ膝の上で開かれた弁当箱の中を見る。ずっと練習してきたように、綺麗に盛り付けた料理だ。
ロシェ・ザ・グレイバード:……揃えた箸で突き刺して、口に運ぶ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……美味い」 何度か食べるうちに。
ロシェ・ザ・グレイバード:前よりも少しだけ、味が分かるようになっていた。
ロシェ・ザ・グレイバード:分厚いコンクリートで固められていたような味覚が、本来の機能を、少しずつ。
六条詩絵:「……嬉しく思います」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……俺が、ああいう連中を、相手にしてるのはな」
ロシェ・ザ・グレイバード:「ああいう連中にしか、相手にして貰えねえからだ」
六条詩絵:「……そうなのでしょうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「管理局だの、貴族だの、そういう奴らにも、機械整備の需要はある」
六条詩絵:「先生には優れた技術があります。もし能力が認められる場があるなら、もっと、フィロソフィアの研究機関などにも」
ロシェ・ザ・グレイバード:「異界出身の後ろ盾のないガキだぞ。飼殺されるのが席の山だ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……けど、そういうのを埋めるのが」
ロシェ・ザ・グレイバード:「礼儀作法とか、相応しい外見も、芸事の話題とか……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「こういう、美味い料理とか。……じゃねえのか」
六条詩絵:「……ああ」
六条詩絵:「と胸を衝かれる答えでした。先生は、やっぱり」
六条詩絵:「……優しい」
ロシェ・ザ・グレイバード:「気遣いみたいに、言ってんじゃねえよ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そもそも、そういう打算もあったんだ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そっちが依頼してきた癖に、俺と対面した途端に、見下してくるような奴ら」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そういう奴らでも、お前が一緒にいりゃ、そうはならねえだろうって」
六条詩絵:「それでも、先生は」
六条詩絵:「最初に出会って……詩絵が、教えを請うた時にも」
六条詩絵:「詩絵を笑いませんでした」
六条詩絵:「故郷のことについて、『世界が悪かった』といつも仰っていても、『誰が悪かった』とは仰いませんでした」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……お前が、あんまりにも真剣に言ってくるもんだったから」
ロシェ・ザ・グレイバード:「笑い飛ばすタイミングを、逃しちまったんだよ」
ロシェ・ザ・グレイバード:鮭の塩焼きを、頑張って箸で挟みこんで
ロシェ・ザ・グレイバード:す、と詩絵さんの口元に差し出す。
六条詩絵:「……あ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「ん」
六条詩絵:目を閉じて、鮭を口にする。
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前はどう思う? この弁当を食って」
六条詩絵:「美味しいと、思っております」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そうだろ。……押し付けられた技術なのは、俺だってそうだ」
ロシェ・ザ・グレイバード:あの世界では、何か一つでも出来なければ、生きていけなかった。
ロシェ・ザ・グレイバード:だが、誇りはある。勝手に呼ばれていた肩書を、この世界での苗字に遺すくらいには。
ロシェ・ザ・グレイバード:「今、身に着いてるものを、どう思って、どう生かすかだ」
六条詩絵:「ええ。そう思えるように……なりたいのです。詩絵も」
ロシェ・ザ・グレイバード:「なれるよ。あんたは真面目で、努力家だ」
六条詩絵:「世界が滅んで……信じてきたものが全て、一場の夢であったように消えてしまって」
六条詩絵:「未来の見えない、塗炭の苦しみの中を生きていかなくてはならないのだとしても――」
ロシェ・ザ・グレイバード:「それは違う、詩絵」
六条詩絵:「え」俯いたままだが、目を丸くする。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……世界は滅んだ。お前の、俺の世界も」
ロシェ・ザ・グレイバード:「けど、まだこうして続いてる。」
ロシェ・ザ・グレイバード:「馬鹿みたいな話だが、『滅んでも続く』んだ」
六条詩絵:「……今」
六条詩絵:「『詩絵』と仰いました」
ロシェ・ザ・グレイバード:「それがある限り、未来は――」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」言葉が途切れる。言ったか? 言ったかもしれない。
ロシェ・ザ・グレイバード:「言ったか? いや、つか、そっちか?」
六条詩絵:「そうです」すぐ近く、ロシェの顔に顔を近づける。
六条詩絵:「初めてかもしれません」
ロシェ・ザ・グレイバード:「うお」身を離そうにも、すぐ壁に当たる。「そうか?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「いや、それがなんなんだよ」
六条詩絵:「先生。どうして、詩絵達がステラナイトなのでしょうか?」ロシェが引いた分、身を乗り出している。
六条詩絵:「詩絵は、先生を好いていると思われますか?」
ロシェ・ザ・グレイバード:暗がりの中できめ細やかな肌や、黒い瞳に、うっすら緑がかかっているのに気付く。
ロシェ・ザ・グレイバード:「好っ………は!?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「なん、なんでそういう話になるんだ」
六条詩絵:「学園で会った時に、お話ししたではありませんか」
六条詩絵:「ステラバトルまで、あと二日とないのです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「それは、そういやそう言ってたけどよ」真っ正面から見据えられて、目を逸らせない。
六条詩絵:「……本庶のおじ様と、戦わなければならないのだと。ステラナイトの中で一頭地を抜いていた、とても強いお方が、エクリプスに」
六条詩絵:「まだ、分からずにいるのです」
六条詩絵:「恋をすれば、より強いステラナイトになれるのでしょうか?」
六条詩絵:「――滅んだ世界を続けられるほどの」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 強力なステラナイトが敵になるのは聞いている。
ロシェ・ザ・グレイバード:「恋だの、愛だので、ステラナイツが強くなるかはともかく」
ロシェ・ザ・グレイバード:片手を、詩絵さんの頬に当てる。半ば睨むように、目を見つめ返す。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……もしも、そうなったら、相手は変えられなくなる」
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前が離れたくなったとしても、……俺が、離さなくなる」
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前は、それでもいいのか?」
六条詩絵:ロシェをじっと見つめ返していたが、
六条詩絵:「……………あ」
六条詩絵:「うあ」突然目を逸らす。
六条詩絵:「し、詩絵は」
六条詩絵:「……と、友達がおりませんでした。同じ年頃の、が……学校で話したり」
六条詩絵:「外で遊んだり……するような」
ロシェ・ザ・グレイバード:……手に力を込めて、向き直させようかと、一瞬思うが。
ロシェ・ザ・グレイバード:細く息を吐いて、黙って少女の言葉を効く。
六条詩絵:「でも――友達。友達だと、先生は……思って、くださっているでしょうか」
六条詩絵:顔を手で覆う。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 
六条詩絵:「な、何故でしょう。たった今。今の言葉のせいなのでしょうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「――――はぁ………………」 思いっきり、溜息をつく。
六条詩絵:「熱くて、切なくて、焦っている時のような……考えたこともなかったような、気持ちが」
六条詩絵:「万感交々……至る思いで、ございます………………」
ロシェ・ザ・グレイバード:「俺に、友達なんざ不要だ。昔も今もいなかった」
ロシェ・ザ・グレイバード:「居るとしたら、一緒に戦う相手だ。仲間ってほどじゃねえ。同僚だの……あるいは、戦友か」
ロシェ・ザ・グレイバード:「それでいいか?」
六条詩絵:「そ、それも、厭です」
ロシェ・ザ・グレイバード:「おい」 がくりと肩を下げる。
六条詩絵:「ステラバトルで共に戦うからなどと、それも、詩絵は厭で」
六条詩絵:「……どうすればよいのでしょう……?」子犬のような目。
ロシェ・ザ・グレイバード:「友人。友達、学友……」 何度か反芻する。
ロシェ・ザ・グレイバード:「たとえば、」……と、ぼそぼそと、聞き取れない程度の小声で呟く。
ロシェ・ザ・グレイバード:身を寄せないと聞き取れないほどの。
六条詩絵:「はい」体を密着させるようにして、顔を近づける。
ロシェ・ザ・グレイバード:そのまま、手を背中に回して、片腕で抱き締める。
六条詩絵:「あっ」吐息。
ロシェ・ザ・グレイバード:吐息と、高めの体温。触れるだけで穴が空いてしまいそうな柔らかさ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……ときどき」耳元で囁く。「こういうことしても、それでもいいか?」
六条詩絵:「え、ええ」普段の落ち着きが嘘のように、声が上ずっている。
ロシェ・ザ・グレイバード:声が掠れる。動悸が激しい。極限の戦場に、生身でいるような。
六条詩絵:「して、いただきたいです」
ロシェ・ザ・グレイバード:ぎゅ、とより強く力を込める。
ロシェ・ザ・グレイバード:反射的な行動だった
六条詩絵:(――これが)
六条詩絵:存在することを知っていたのに。
六条詩絵:ステラバトルに必要なことだとすら思っていたのに。
六条詩絵:自分にも、本当に起こる気持ちだとは、想像すらしていなかった。今の瞬間まで。
ロシェ・ザ・グレイバード:(これが、友達、っつうかはともかく……)
ロシェ・ザ・グレイバード:ふっと、吹きだすように笑う。「……お前が、そのあたりの判断がつくようになるまでは、付き合うさ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「詩絵」
六条詩絵:「ならば教えて下さい。……あなたは詩絵の先生なのですから」
六条詩絵:「ロシェ」
ロシェ・ザ・グレイバード:とんだ生徒を持っちまったもんだ。
ロシェ・ザ・グレイバード:そう思いながら、しばらくの間、そのまま少女を抱きしめていた。


【ブーケカウント:276(計656)】

【Scene2-4:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】

ユセリア・フィエ:朝。
ユセリア・フィエ:昨日の昼、秋風が吹いていた窓は閉ざされ、薄いカーテン越しに、朝日が部屋を仄かに照らしている。
ユセリア・フィエ:静かで穏やかな白い時間。近くで鳩が、自問するように鳴いている。
ユセリア・フィエ:ソファでユセリアが目を覚ました時には、既に台所から料理の音が立っていた。
ユセリア・フィエ:眠たげな目のまま、ぽてぽてとそちらへ歩いていく。
ユセリア・フィエ:「慶一郎ー」
ユセリア・フィエ:ひょい、と顔を覗かせ 「おはよう」
本庶慶一郎:「……早いね、ユセリアちゃん」
本庶慶一郎:「ゆっくりしてていいのに」
ユセリア・フィエ:「そんな早い僕より早い慶一郎」
ユセリア・フィエ:乱れた髪を手で擦りながら、ぼんやりと笑う 「一人じゃ寂しいでしょ?」
本庶慶一郎:「まあ、食べる時に一緒に居てくれればね」
本庶慶一郎:「棒振りしてるところ見せても仕方がないし」
本庶慶一郎:朝食を作り始める前は、自己鍛錬している。
本庶慶一郎:日に日に鈍る自分の感覚を、手放すのを惜しむように。
本庶慶一郎:起床時間が早まりつつあるのは、老いのためか。
本庶慶一郎:未練の大きさに、無意識に鍛錬時間を増やしているためか。
ユセリア・フィエ:「よく続くよ。偉いな、慶一郎は」 まだ少し眠たげに目をこすり
ユセリア・フィエ:「健康のためだからってねえ」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃんが早いのだって、感じてるからでしょ」
本庶慶一郎:「ステラバトルが近いって」
ユセリア・フィエ:目を閉じ、眼尻をこする 「まあね」
ユセリア・フィエ:「戦うことそのものにはもう慣れたけど、やっぱりそれとは別に、気分が落ち着かなくなるよ」
ユセリア・フィエ:「遠足前の子供?」 くすりと笑う
本庶慶一郎:「子供って歳かよ」
ユセリア・フィエ:「ご覧の通り。身も心もいつまでも10代です」
ユセリア・フィエ:「……もしかしたら、これが終われば、願いが叶うかもしれないんだから」
本庶慶一郎:「知ってる。綺麗なまんまだ」
ユセリア・フィエ:「登山みたいなものだよ。ほら、やっぱり遠足!」
本庶慶一郎:「……どうしても戦いにはリスクがある」
本庶慶一郎:「歪み……そしてエクリプス。あれになれば、全てを失う」
本庶慶一郎:「その前に願いを叶えなきゃなあ」
ユセリア・フィエ:「……そうだね。願い」
ユセリア・フィエ:「叶えなきゃあ。僕と慶一郎のさ」
ユセリア・フィエ:声色は穏やかだが、それはもう眠気によるものではない。
本庶慶一郎:「ああ。あと幾つかもわからないけど」
ユセリア・フィエ:ずっと変わらぬ、静かで確かな決意と、薄く冷たいささやかな諦念。
本庶慶一郎:「そう長くはないだろうから」
本庶慶一郎:それが指すのはステラバトルのことか、それとも。
ユセリア・フィエ:「……昨日」
ユセリア・フィエ:ぽつ、ぽつ、と歩み寄る 「病院行ってたんでしょ。僕が来る前に」
ユセリア・フィエ:珍しいことだった。『その話題』に触れることは、この数十年、滅多となかった。
ユセリア・フィエ:今、その目は真剣である 「どうなの、体」
本庶慶一郎:「……ああ、うん」
本庶慶一郎:「昨日はかなりキツかったんだけど」
本庶慶一郎:「今日は、かなり調子がいい」
本庶慶一郎:「やっぱり騎士であることが染み付いてるんだなあって思うね、つくづく」
本庶慶一郎:「“戦いがある”と分かった時点でこれだ」
本庶慶一郎:「遠足前の子供か?こっちも」笑う。
ユセリア・フィエ:「……騎士であること、だって」
ユセリア・フィエ:眼尻を下げて笑う。安堵と悲しみを滲ませて
本庶慶一郎:「死ぬまで騎士だよ」
ユセリア・フィエ:「死なないでよ」
ユセリア・フィエ:「一人は寂しい」
本庶慶一郎:「死なない」
本庶慶一郎:「約束を破ったことが、一度だって……」
本庶慶一郎:「いや、たくさんあるけど……でも」
ユセリア・フィエ:「……分かってる。もう」
本庶慶一郎:「これだけはね」
ユセリア・フィエ:振り払うように笑う。眼尻を指で拭い
ユセリア・フィエ:「真剣に取り合わないで! 分かってるんだから」
ユセリア・フィエ:「ずっと前から分かってたことだよ」
ユセリア・フィエ:「……分かってるんだ」
本庶慶一郎:「みんなね、分かってるって思ってたんだよ」
本庶慶一郎:「第1世代の先輩から聞いた話だ。ロアテラがやってきて、世界が滅んだ日」
本庶慶一郎:「誰もが、もう、当然のように分かった。この世界は滅ぶと。救いはないと」
本庶慶一郎:「分かってるって思わなかったやつが居て、それを分かろうとせずに」
本庶慶一郎:「立ち向かって、この世界が――俺たちがある」
本庶慶一郎:「それが星の騎士だ。不朽の願いの体現者」
本庶慶一郎:「最後まであがいてみせるから」
ユセリア・フィエ:「……『この世界に光を』」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃんも、ね」
ユセリア・フィエ:「僕だってそう思ってる……そう思ってるんだ」
本庶慶一郎:「ああ。俺たちに光を」
ユセリア・フィエ:「でも。……でも……」
ユセリア・フィエ:俯きがちに首を振って 「……ごめんね。一回だけ弱音言わせて」
ユセリア・フィエ:慶一郎の胸の中に飛び込む
ユセリア・フィエ:「……怖い……」
本庶慶一郎:「一回じゃなくてもいいのに……怖い?」
ユセリア・フィエ:問いかけるその言葉に、返事はない。何が、とも、何故、とも。
ユセリア・フィエ:歳の割には若々しく、それでも昔に比べれば随分薄くなった彼の身体も、また怖ろしくはあったが。
ユセリア・フィエ:ただ一人で震えるよりは、ずっと温かい。
ユセリア・フィエ:また目をこする「……ごめん。もう大丈夫」
ユセリア・フィエ:虚勢ではない。この世界は、程ない未来に横たわる事実は、何も変わっていなくても。
ユセリア・フィエ:大丈夫になれる。彼さえいれば。
本庶慶一郎:離れようとする彼女を引き寄せる。
ユセリア・フィエ:「あっ……」 されるがままだ
本庶慶一郎:「じゃあ今度は、こっちが大丈夫じゃない」
ユセリア・フィエ:「慶一郎」
本庶慶一郎:「何かあれば、傷つくのはユセリアちゃんだ」
本庶慶一郎:「それが悔しい」
本庶慶一郎:ステラバトルでもそうだ。そして。
本庶慶一郎:自分が居なくなったあともそうなる。
ユセリア・フィエ:「……僕は」
ユセリア・フィエ:大丈夫、と繰り返すように言う。そこに意味は伴わない。空虚な音の繰り返し
本庶慶一郎:それでいい。
ユセリア・フィエ:「……だって、もしかしたら何とかなるかもしれない」
本庶慶一郎:同じでいい。
本庶慶一郎:同じことの繰り返しでいい。
ユセリア・フィエ:何か驚くような奇跡が起こるかもしれない。最先端の技術が、目覚ましい延命を実現するかもしれない。
ユセリア・フィエ:揃えた勲章が、願いを叶えるかもしれない。
ユセリア・フィエ:――明日全てが滅ぼされるかもしれない。
ユセリア・フィエ:だから 「……大丈夫」
本庶慶一郎:「……うん」
ユセリア・フィエ:「一緒に戦おう」
本庶慶一郎:「ああ、ずっと、一緒に」
ユセリア・フィエ:「何があろうと、僕は慶一郎。君だけの剣で鎧だから」
ユセリア・フィエ:「これからもずっと」
本庶慶一郎:「すべてと戦おう。障害となるものは、退ける」
本庶慶一郎:もしも、等しく訪れる死という、理こそが立ちはだかるものだとしたら。
本庶慶一郎:それを形作る元を、切ってしまえば、どうなるのだろう?
本庶慶一郎:悪いことを思いついた子供のように。
本庶慶一郎:無邪気に笑う。
ユセリア・フィエ:その顔を見上げ、手を添わせる。
ユセリア・フィエ:指先に触れる頬は昔よりずっとかさついて、頬を撫でる指は昔からずっと変わらない。
ユセリア・フィエ:「頼りにしてるよ。騎士殿」
本庶慶一郎:「仰せのままに、我が女神よ」
本庶慶一郎:「これより先は」顔に精悍さが戻る。
本庶慶一郎:「ただ一つの騎士として。剣のみを振るう修羅となろう」
本庶慶一郎:「元より、それだけの男だ、私は」
ユセリア・フィエ:(……そんなこと、ないんだけどな)
ユセリア・フィエ:口をついて出そうになった無意味な否定を、そっと飲み込んで、目を細めて笑う。
ユセリア・フィエ:朝の日差しが静かに降り注ぐ。二人をこの世界から照らし出すように、白く。


【ブーケカウント:229(計579)】

【幕間】

【Scene3-1:篝・コンラッド/日高見セシル】

日高見セシル:【イデグロリア総合芸術大学附属高等部 旧校舎小ホール跡】
日高見セシル:今では使われてはおらず、取り壊しが予定されている旧校舎。
日高見セシル:その中でも最も小さなステージ。
日高見セシル:日高見セシルが、日高見セシルとして、最初にライブを行った場所。
日高見セシル:そこに2人の少女の姿がある。
篝・コンラッド:上と、下ではない。
篝・コンラッド:緊張しきった呼吸で、震える足で。
篝・コンラッド:だけど、逃げだすことなく、セシルの隣に立っている。
日高見セシル:「さあ、篝さん」
日高見セシル:「踊ろう。僕らの舞台で」
篝・コンラッド:「はい。……私たちの、舞台を……!」
日高見セシル:曲を流し始める。
日高見セシル:歌い始める。それは、いつものライブで歌う曲ではない。
日高見セシル:このステージで歌っていたもの。
日高見セシル:まだ、拙いままに、彼女が初めて作った曲。
日高見セシル:「――深く黒き 堕落の 誘いから」
日高見セシル:「逃れて 逃れ続け 此処まで来た」
日高見セシル:歌を向ける先は、今は唯一人。
篝・コンラッド:ステップを踏む
篝・コンラッド:ぎこちない。見ていることと、踊ることは別だ。
日高見セシル:「暗がりの 吸血鬼 血を求め」
日高見セシル:今ではライブでも歌っていない。
日高見セシル:「温もりへと 惑い 陽に灼かれた」
日高見セシル:このためだけのステップ。
篝・コンラッド:必死に、彼女の鏡合わせになるように。身体能力だけは、かろうじて、人より優れている。
日高見セシル:「痛みの 先の空へと すみやかに逝け」
日高見セシル:「剣もて 駆け廻れ ソラをさえ 血で穢し」
篝・コンラッド:喉の震えを。足先の移動を。指の差す先を。
篝・コンラッド:同調させていく。十秒も経たないうちに、玉のような汗が浮かぶ。
日高見セシル:「その罪が 騎士(ナイト)のたしなみ だとすれば」
日高見セシル:「ただ黒き 絢めきは 刃のごとく」
日高見セシル:そこまで歌って、マイクを向ける。
篝・コンラッド:「――――」
日高見セシル:ここから先を、歌い上げるのは君だと。
篝・コンラッド:ほんの一瞬。足が止まる。荒い呼吸が途絶える。
篝・コンラッド:(――うん。)
篝・コンラッド:(花は咲けど)
篝・コンラッド:(私は、根は、生えてないんだから……!)
篝・コンラッド:足を浮かせる。手を伸ばして、マイクを受けとる。
篝・コンラッド:「――ただ進んで 選び抜いて 振り返らず 進もう……!」
篝・コンラッド:「涙も 血も 想いも 今は邪魔なだけ」
篝・コンラッド:キラキラと、光が散り始める。セシルから篝へと、流れ込むような光。
日高見セシル:合わせて踊る。同調が進み、同じになる。
日高見セシル:この場にアイドルは常に一人。
篝・コンラッド:……衣装の色は、憧れの相手の対になるような、黒。
篝・コンラッド:「いずれ逢う 誰かのため 今は悼む」
篝・コンラッド:堅かった動きは、光の収束と共に、華やかに、軽やかになっていく
篝・コンラッド:マイクが消える。光を纏い、手の中に現れるのは、どこか中世じみた金属質の、巨大な刃。
篝・コンラッド:深い木々を、枝を、蔦を、切り裂き剪定する、大鋏。
篝・コンラッド:「――真白い十字架で 僕を 裁いて……!」
篝・コンラッド:最後の歌詞を歌い上げる。
篝・コンラッド:大鋏が、中心でがこりと分たれ、二振りの湾曲した刃となり。
篝・コンラッド:伸びやかな歌の、余韻を切り裂くように、左右に振りおろされた。
篝・コンラッド:「…………はあっ、はあっ、はあっ……!」
篝・コンラッド:荒い呼吸で、自分の衣装を見る。
篝・コンラッド:軍服めいた質感の、黒いワンピース。
篝・コンラッド:スカートの丈は短く、すらりとした細い足が覗いている。
篝・コンラッド:かなり恥ずかしい。
篝・コンラッド:「かなり恥ずかしい……。」
篝・コンラッド:口に出した。
篝・コンラッド:「けど……行くよ。セシルさ……」
篝・コンラッド:「……行こう、『セシル』。どこまでも、高く、遠くに!」


【ブーケカウント:116(計719)】

【Scene3-2:香坂マイラ/ジェイド・リー】

香坂マイラ:【統治政府治安維持局 広域課 オフィス裏】
香坂マイラ:日暮れ。あのサッカーから、まだ24時間も経っていないが、
香坂マイラ:予測通り、戦いに赴く時が来た。既に人けのないオフィスを背に、居住まいを正す。
香坂マイラ:「じゃあ行きましょう、センパイ!」
香坂マイラ:「あれするんですよ、あれ!」
ジェイド・リー:「分かった分かった。手短に行くぞ」職員手帳を開く。
ジェイド・リー:治安維持局職員共通の職員手帳。だが、ステラナイトの二人にだけは追加の条項が存在する。
ジェイド・リー:「香坂マイラ、ジェイド・リー両名は乙の移譲に」
香坂マイラ:「……あれっ?」
ジェイド・リー:「え?なんだ」
香坂マイラ:「あっ、すみません! えっと……大したことじゃないんですけど」
香坂マイラ:手帳を見ながら 「この前、この『乙』っていうのは、女神様のことだって聞いたじゃないですか」
香坂マイラ:「……でも、あれ? そもそもなんで『乙』なんですか?」
香坂マイラ:「女神様じゃダメなんですか?」
ジェイド・リー:「それは……いや、いきなり『女神』って書いてあったら変だろう……」
香坂マイラ:「それとも女神様は乙っていう名前なんですか?」
ジェイド・リー:「それに乙女の乙ってことでもあるんじゃないか……」
ジェイド・リー:「僕に聞くなよ」
香坂マイラ:「乙女の乙……なるほど……」
ジェイド・リー:「いいか?大丈夫だよな?」
香坂マイラ:「メモっときます!」 小さな字で自分の手帳に書き込んでいる
ジェイド・リー:「乙の移譲によりステラナイトとしての実力行使権限を一時的に有するものとする」
香坂マイラ:「香坂マイラ、ジェイド・リー両名は乙の移譲により」
香坂マイラ:「ステラナイトとしての実力行使権限を一時的に有するものとする」
香坂マイラ:「……実力行使権限……」
香坂マイラ:「つまり、この間であれば、もし犯罪が起きたら」
香坂マイラ:「ステラナイトとしての力で、バーン! ってやっていいってことでしょうか」
ジェイド・リー:「やめろやめろ」
ジェイド・リー:「やりたいのか?ステラナイトの力でバーンと」
ジェイド・リー:「本当にやりかねないからな」
香坂マイラ:「え? でもじゃあ、力を使わなきゃ逃しちゃう~って時だったら」
香坂マイラ:「使わなきゃダメじゃないですか? 力」
ジェイド・リー:「そういう異常なレアケースは考えなくていいんだよ」
香坂マイラ:「今度、イベントごとの時に合わせてステラナイトにできるように、女神様にお祈りしてみましょうか」
香坂マイラ:「検挙率アップするかも……」 メモしている
ジェイド・リー:「あるか?ステラナイトへの変身が完了して、決闘場に転送されるまでの僅かな時間で」
ジェイド・リー:「偶然現行犯が目の前で繰り広げられていて、僕らが取り押さえなきゃいけない状況が?」
香坂マイラ:「逆に、もしそのタイミングに合わせられれば、ステラナイトの力で解決できるってことじゃないですか!」
香坂マイラ:「試す価値はあると思います! お願いするの!」
ジェイド・リー:「そんなことに願いを使わないでくれ……」
ジェイド・リー:「本当にやりかねないからな」
ジェイド・リー:「もういいだろ。続きを普通に読むからな。僕の後で復唱するんだぞ」
ジェイド・リー:「その間、両名は共に世界の守護および脅威排除の義務を課せられるものとする」
香坂マイラ:「えー。むー」 ぶーたれつつも反抗はせず、自分の手帳に目を落とす
香坂マイラ:「……ほらセンパイ!」
香坂マイラ:「『世界の守護および脅威排除』!」
ジェイド・リー:「ま~~た!」
ジェイド・リー:「なんなんだ今度は!?」
香坂マイラ:「やっぱり犯罪への対応も義務じゃないですか!」
香坂マイラ:「ステラナイトの力、使ってもいいでしょ!」
香坂マイラ:「権限があって、義務があるんだから、できるようにしなきゃ!」
ジェイド・リー:「なんでそこに固執するんだ!映画か?」
ジェイド・リー:「なにか……映画で、そういう変身ヒーローのやつを見たからか?」
香坂マイラ:「そうなんですよね。結構、こう、ヒーローが個人から組織に属するようになるタイミングっていうのが、時代的にあったりして……」
香坂マイラ:「あっ、関係ない話ですねこれは。えーと、『その間、両名は共に世界の守護および脅威排除の義務を課せられるものとする』」
香坂マイラ:「やっぱりお願いしなきゃ……犯罪が起きるタイミングでステラナイトにしてもらうように……」 メモを重ねている
ジェイド・リー:「すごい適当になってきたな。えー、脅威排除の義務を課せられるものとする。白のヒルガオの花章のもとに――」
香坂マイラ:「……あれっ」
ジェイド・リー:「もう!」
香坂マイラ:「治安維持局の紋章って、全然白のヒルガオとかじゃないですよね? なんていう花でしたっけあれ。わかんないですけど……」
ジェイド・リー:「白のヒルガオの花章のもとに!」強引に続けようとする。
ジェイド・リー:「後で調べてくれそういうのは!」
香坂マイラ:「この場合って、わたし、治安維持局じゃなくて……」
香坂マイラ:「む、むー。気になる……えーと、『白のヒルガオの花章のもとに』」
ジェイド・リー:「本条項は治安維持局の他の全ての活動に優先するものと」
香坂マイラ:「えっ!?」
ジェイド・リー:「もうちょっと我慢できないのか!?」
ジェイド・リー:「あと二文字のところなんだが!」
香坂マイラ:「だ、だって『治安維持局の他の全ての活動に優先する』って、冷静に読んでみたら」
香坂マイラ:「重要じゃないですか!? もし、じゃあ、今、ステラナイトになって、犯罪が起きたら」
香坂マイラ:「取り締まれないんですか……!?」
ジェイド・リー:「それは……そうだろう。そもそもステラバトルしている最中に僕らが活動できるわけがないじゃないか」
香坂マイラ:「でも転送されるまでに時間があります!」
ジェイド・リー:「おう、それで」
香坂マイラ:「今もし、そのへんで、あの……泥棒とかいたら」
香坂マイラ:「スルーしなきゃなんでしたっけ……?」
香坂マイラ:「『世界の守護および脅威排除』……」 ぶつぶつと手帳の文言を睨む
ジェイド・リー:「わかった。わかった。もうわかった」
ジェイド・リー:「じゃあ、本当に泥棒が通りすがったら確保していい。いいが」
ジェイド・リー:「全部混ぜっ返すのはやめてくれ」
香坂マイラ:「ホントですか!」 パッと笑って
香坂マイラ:「ありがとうございます! じゃあ安心です」
香坂マイラ:「さすがセンパイ! 現場主義ですね!」
ジェイド・リー:「現場主義、そういう意味か……?」
ジェイド・リー:「はい残り二文字!する!他の全ての活動に優先するものとする!」
香坂マイラ:「はい! よーし、じゃあ……あれ、どこまで読んだっけ。この辺ですよね……」
ジェイド・リー:「………」待っている。
香坂マイラ:「……『本条項は治安維持局の」
香坂マイラ:「他の全ての活動に優先するものと」
香坂マイラ:「する』」
ジェイド・リー:「は――――—っ…………」長いため息をつく。
ジェイド・リー:「やっと全部言えたな……」
香坂マイラ:襟元を正して 「はい! じゃあセンパイ、行きましょう」
香坂マイラ:「世界の平和のために!」
ジェイド・リー:「……やるか」ネクタイを締め直す。
香坂マイラ:腕を曲げて、ぐっと拳を突き出す
ジェイド・リー:ジェイドの姿が書類じみた無数の紙片に分解される。
香坂マイラ:突き出された拳から、紙片が次々マイラの身体を覆っていく。そして順に、紙は風と共に消え、黒だけが残る。インクの黒。
香坂マイラ:その黒を基調に、内側から白い線が機械的に浮かび上がる。ブーツ。ズボン。ジャケット。ネクタイ。ピン。
香坂マイラ:マイラの身体にぴったりと沿い纏われるそれは、男性物の治安維持局制服だ。本来、マイラの体格に合う寸法のものはない。
香坂マイラ:胸元には、今までの勝利と同数の、ささやかな数の勲章。続き、白いヒルガオの花章が揺れる。そして、
香坂マイラ:そんな彼女を覆うような、黒いオーバーサイズの外套。雨雪を弾く袖のないクローク。
香坂マイラ:最後に警帽。ピンとした新品で、治安維持局を示す桜の紋章は、金色に、誇らしく煌めく。
香坂マイラ:「……よしっ」
香坂マイラ:きゅ、と帽子を押さえるように被り直し、クロークの下の武器――種類の違う三挺の拳銃を確かめて。
香坂マイラ:「一緒に行きましょう、センパイ」
香坂マイラ:「帰ったら祝杯、おごりですからね」


【ブーケカウント:160(計666)】

【Scene3-3:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】

六条詩絵:【アーセルトレイ公立大学付属高校 中庭花壇】
六条詩絵:無数の学生が在籍するアーセルトレイ公立大学付属高校は、アーセルトレイ第一層屈指の大型施設だ。夜間も完全に無人となるわけではない。
六条詩絵:だが、中庭花壇付近は限りなくそれに近い。中央部に立つ、背の高い庭園灯だけが周囲を照らしていて、
六条詩絵:他に見える光は、非常口や火災報知器の緑や赤の光だけだ。
ロシェ・ザ・グレイバード:少女と二人、向き合うように立っている。
六条詩絵:「――こんな深夜に外出をすることなんて」
六条詩絵:「昔の世界の詩絵には、考えられないことでした」
六条詩絵:胸に手を当てて、向かい合うロシェを見ている。だが、
六条詩絵:以前よりも真っ直ぐに見られなくなったような気がする。それは、何故か悪い心地ではなかったけれど。
ロシェ・ザ・グレイバード:「そりゃ、そうだろうな」
ロシェ・ザ・グレイバード:「おうちの方が心配する前に、カタつけるぞ」
六条詩絵:「心配などしませんよ」寂しげに笑う。
ロシェ・ザ・グレイバード:冗談めかして言って、手を伸ばす。
六条詩絵:「けれど、昔の……いつか、詩絵を心配してくれていた世界のためにも」手を取る。
六条詩絵:「力を、どうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:触れた瞬間、指が僅かにぴくりと跳ねる。以前なら何も考えずに出来たことが、素直に出来ない。
ロシェ・ザ・グレイバード:……ここからの、ことも。
ロシェ・ザ・グレイバード:「――――『世界(わたし)は、知る』」 
ロシェ・ザ・グレイバード:「『世界(わたし)をあがなうものは、生きておられると』」
ロシェ・ザ・グレイバード:ざ    り
六条詩絵:「『後の日にあなたは必ず地の上に立たれる』」
ロシェ・ザ・グレイバード:厳かに告げられる、祝詞。それと同時に、
ロシェ・ザ・グレイバード:ロシェの足元から伸びた影が、周囲の景色が、変換される。
六条詩絵:葬送の聖句。人の場合は、滅んだ後に見出す神という希望についての言葉を紡ぐことができる。
六条詩絵:けれど。
ロシェ・ザ・グレイバード:石畳は、壊れた兵器の、瓦礫の山に。花壇は、並び立つ稚拙な、廃材の十字架に。
六条詩絵:世界が死んでしまった場合には、誰がその言葉を言うべきなのだろう。
六条詩絵:髪をまとめていた簪を抜く。
ロシェ・ザ・グレイバード:「『世界(わたし)がこのように滅ぼされたのち』」
六条詩絵:長い黒髪が、無数の細かな筋となって広がる。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………『世界(わたし)は、あなたを見送るであろう』」
ロシェ・ザ・グレイバード:十字架が、浮かぶ。それは灰色の嘴を持つ鳥となって、詩絵の元へと跳ぶ。
ロシェ・ザ・グレイバード:飛び、――貫き、吸い込まれ、突き立っていく。
六条詩絵:鳥は飛ぶ間に羽を散らせ、十字架となる。十字架と羽が無数に纏われていく。
ロシェ・ザ・グレイバード:ただ一人の男の、身に合わぬ大望を。
ロシェ・ザ・グレイバード:咎を負うのは、ブリンガーである少女のほうだ。
六条詩絵:肩に羽織っていた学生の制服を、地面に落とす。
六条詩絵:ネクタイと。そしてブラウスをも。灰色の羽で全てが覆われていく。
六条詩絵:「……『しかも世界(わたし)の味方として見るであろう』」
ロシェ・ザ・グレイバード:合わせた指を、握る。傷つけない程度に、しかし、己の重さを押し付ける少女を、支えるために。
ロシェ・ザ・グレイバード:「『世界(わたし)の見る者は』」
ロシェ・ザ・グレイバード:十字架が嵐のように舞う度に、ロシェ自身の姿も、足元から消えていく。
ロシェ・ザ・グレイバード:「『これ以外の、ものではない』」
六条詩絵:髪を下ろし、嵐の目の中で、ロシェを見ている。
ロシェ・ザ・グレイバード:嵐そのものの中から、詩絵を見ている。
ロシェ・ザ・グレイバード:「――――『世界(わたし)の、』」
ロシェ・ザ・グレイバード:「『俺の心は、過去(これ)を望んで焦がれるだろう』」
六条詩絵:「『私の心は、』」
六条詩絵:「『未来(これ)を望んで焦がれましょう』」
ロシェ・ザ・グレイバード:奪われた全ての過去を、取り返さんとする男は。
ロシェ・ザ・グレイバード:「――行くぞ。詩絵」  その言葉を最後に、無数の十字架片となって、少女を覆う嵐へと変わる。
六条詩絵:そして、風がやむ。墓地のような荒涼とした静寂の中。
六条詩絵:フード付きの紫色のローブを纏った、聖女じみた姿。肩から下に纏われたシンプルな白色のドレスは、
六条詩絵:襟と、裾。その境界が羽のようでもある。白とのグラデーションを成す、灰色の羽だ。
六条詩絵:そして華奢な出で立ちには全く不釣り合いな武器を持っている。
六条詩絵:そもそも武器ではないのかもしれない。それは黒く重い十字架であるからだ。
六条詩絵:六条詩絵を旋回するように浮遊する、無数の小さな十字架群の中心。それが世界の墓標。
六条詩絵:「……先生」十字架を抱きしめるようにしながら、呟く。
六条詩絵:「詩絵は未来が欲しいと思いました。けれど、今は」
六条詩絵:「取り戻したいからだけではないのかもしれません」
六条詩絵:「――行きます」
ロシェ・ザ・グレイバード:ごう、と軽く揺らすだけで大気を乱す十字架は、詩絵にとってのみ、羽のように軽い。
六条詩絵:再び、十字架の嵐。それが止んだ時、中庭にはもう誰の姿もない。


【ブーケカウント:126(計782)】

【Scene3-4:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】

ユセリア・フィエ:陽が沈む。
ユセリア・フィエ:太陽はオレンジの残光を残し、夜の紺と混じり合って、紫に淀む。
ユセリア・フィエ:なるほどそれは女神たちによって再現された空模様ではあったが
ユセリア・フィエ:同時にかつて地球という惑星が始まり、目を持つものすらいなかった時代からの繰り返しでもあったに違いない。
ユセリア・フィエ:二人にとってもそうだ。生まれて、同じ時間を過ごす長い間、星は巡り、空は繰り返され
ユセリア・フィエ:この紫の空、隣で星を見上げていた。
ユセリア・フィエ:その間、誰か別の者が共にあることもあったが
ユセリア・フィエ:今は二人。ただ二人だけだ。
ユセリア・フィエ:「……そろそろかな」
本庶慶一郎:今では、全て。星となった。
本庶慶一郎:「……うん」
本庶慶一郎:ステラバトルは、必ず、夜だ。
本庶慶一郎:それはロアテラが最も“近く”なるのが、夜であるためと言われているが
本庶慶一郎:実際のところは、定かではない。
本庶慶一郎:たかだか数十年の経験則に過ぎない。
本庶慶一郎:まだ、そうと決めてしまうためには
本庶慶一郎:あまりにも時間が足りない。
ユセリア・フィエ:……思う所は幾らでもある。この空と同じように、今まで数え切れぬほど繰り返してきた戦いの兆しと比較して、今回の『違い』を、直感が告げている。
ユセリア・フィエ:だが、それを敢えて口にはしない。星を前に語るようなことじゃない。
ユセリア・フィエ:「……勝てば願いに近づいて、負ければ世界の終わりに近付く」
ユセリア・フィエ:薄く笑う 「最初はすごく緊張したよね」
本庶慶一郎:「そりゃそうだよ」
本庶慶一郎:「剣なんて握ったこともない」
本庶慶一郎:「ただの学生に、何をさせるんだって思ったよ」
ユセリア・フィエ:「僕もさ。いきなり剣になれなんて、ホントとんでもない」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃんは、剣だって綺麗じゃない」
ユセリア・フィエ:「ロアテラだとか、世界を守るだとか、なんとか。……でも、まあ」
ユセリア・フィエ:「それはきっと、慶一郎が握ってくれるからだよ」
ユセリア・フィエ:「大体、『世界を守る』っていうのはずるいよなあ。それ言われたら、訳わかんなくても」
ユセリア・フィエ:「頑張らなきゃってなるに決まってる」
本庶慶一郎:「不満?これまでの道行きが」
ユセリア・フィエ:「僕が生きて、」 「慶一郎が生きてる世界なんだから」
ユセリア・フィエ:「……どうだろ。不満っていうのも違う気がする」
ユセリア・フィエ:「やっぱり、慶一郎が一緒だったから」
ユセリア・フィエ:「……慶一郎が、一緒だったからだよ」
本庶慶一郎:「……うん。これからもだ」
本庶慶一郎:幾千の夜を越えて、朝を迎えてきた。
本庶慶一郎:そして、これからは。
ユセリア・フィエ:「…………」
ユセリア・フィエ:彼の言葉に返事はない。手を背で組み、ぽつぽつと歩いて、その正面に向き直る。
ユセリア・フィエ:夜空を背に、金の髪が流れる。表情は逆光で薄暗く、ただ瞳だけは、輝く星のように目の前の騎士へと向けられていて。
ユセリア・フィエ:幾度となく唱えてきた言葉を、唇は唄う。
ユセリア・フィエ:「――願いあるならば()を執れ」
ユセリア・フィエ:「そして世界を、この僕を以て白き旭光に満たせ」
ユセリア・フィエ:白い手を差し出す。
本庶慶一郎:ステラナイツの変身文言は、代を重ねるごとに長くなるとも言われている。
本庶慶一郎:彼らのような古兵の場合は、ただ一つの応答であることが多い。
本庶慶一郎:その先に続く言葉はこうだ。
本庶慶一郎:――君を()う。そして満たされぬ世界に、我らの白き旭光を。
本庶慶一郎:「君を()う」手を伸ばし、言葉を紡ぐ。
本庶慶一郎:「そして満たされぬ我々(せかい)が」手を取る。
本庶慶一郎:「世界(すべて)に赤き落日を」
ユセリア・フィエ:――ああ。
ユセリア・フィエ:これが最後の戦いだ。
ユセリア・フィエ:僕らの願いは、きっと――
ユセリア・フィエ:――その身が光に還元されていく。星のように大小瞬き、そのたびに身体は粒子と還元され、
ユセリア・フィエ:堅強なる装甲と化し、大事な人を守るべく、鎧われていく。
ユセリア・フィエ:そしてその心臓は、一際強く、白く輝き、騎士を待つ。
ユセリア・フィエ:一振りの剣。
本庶慶一郎:月光を体現するかのような、白い鎧。
本庶慶一郎:それは幾千の戦いを経てなお、不凋の美しさを損わぬ。
本庶慶一郎:そして、肩から、背から。
本庶慶一郎:赤きマントが広がり、背負うように覆う。
本庶慶一郎:夜風にゆらゆらと、弱々しくはためく。
本庶慶一郎:彼の負う花章は、赤のオダマキ。
本庶慶一郎:――花言葉は“心配して震えている”。
本庶慶一郎:肩に手を当てて、その震えを、押さえつける。
本庶慶一郎:それで、ぴたと止む。
本庶慶一郎:そして、その手に佩くは魔を祓う、燦めく不疵の直剣。
本庶慶一郎:その剣に宿る白き旭光を以て、彼はこう渾名されることもある。
本庶慶一郎:“銀剣”、と。
本庶慶一郎:本庶慶一郎は/ユセリア・フィエは、銀剣のステラナイツだ。
本庶慶一郎:そして、今は。


【ブーケカウント:191(計770)】


【Scene4:最終章/ステラバトル】

監督
https://www.youtube.com/watch?v=Awk8vCbvZ9k (戦闘曲)
監督:アーセルトレイ最上階。その中央に位置する願いの決闘場(フラワーガーデン)
舞台の幕は上がらない
喝采の声はない
これより始まるのは、世界を喰らう侵略者との戦い
 
異端の騎士が現れる
心と願いを歪ませた、星喰の騎士が現れる
此度の決闘、願いの決闘場(フラワーガーデン)に咲き乱れるは、
黒のコスモス、白のヒルガオ、紫のヒガンバナ
そして舞台の中央に咲くは、一輪の歪な赤のオダマキ
 
銀剣のステラナイツ
 
願いあるならば剣をとれ
二人の願い、勝利を以て証明せよ
篝・コンラッド:「っわ、と、ととっ!」
篝・コンラッド:膝を揃えて曲げた姿勢で、低空に現れる。着地が乱れそうになるが、
篝・コンラッド:左右の鋏剣が、自らバランスを取るように動き、制動を操って着地する。
篝・コンラッド:「うう、……あれ、私だけなの?」
香坂マイラ:僅かな紙片が中空に舞い、クロークの裾をはためかせ、小さな人影が膝をついた姿勢で姿を現す。
香坂マイラ:転送を終えるや否や、ば、と立ち上がり、手を前に出して。
香坂マイラ:「統治政府治安維持局広域課、香坂マイラです!」
篝・コンラッド:「おおう」 大きな声にびっくりする。 「あ、こ、こんにちわ」
香坂マイラ:「あ、ステラナイトでもあります! っていうか今はステラナイトで……」
香坂マイラ:「あれ。今は治安維持局の業務より優先されるんだっけ……?」
香坂マイラ:うーんと首を傾げるが、声をかけられればそれに応じます
篝・コンラッド:「イデグロリア高等部三年、コンラッドです。お願いします」
香坂マイラ:「こんにちは! 高校生さんですか!」
香坂マイラ:「早く敵をやっつけて、明日以降からの学生生活に支障が出ないように頑張りましょう!」
篝・コンラッド:「は、はいっ。治安維持局の方には、いつもお世話になっています」 イベント警備の手伝いなどをしている。
六条詩絵:タン
六条詩絵:花園の一角に、巨大な十字架が突き立つ。極めて重いように見えるが、音は静かだ。
六条詩絵:そして小さな十字架の嵐がその周囲で渦を巻き、中から出現する。
香坂マイラ:「それはそれは……」 話を続けようとしたが、その音に振り向く
六条詩絵:「……ごきげんよう。六条詩絵と申します」
六条詩絵:「あ」
六条詩絵:「香坂のお姉さま」
香坂マイラ:「詩絵ちゃん!」 クロークの隙間から手を振って
六条詩絵:その動きに応じて、深くお辞儀をする。
香坂マイラ:「今回も一緒ですかっ。心強いです!」
篝・コンラッド:(うわ。すごい雰囲気ある人……シトラの学生かな)
六条詩絵:「そちらのお方は……」頭から生えている枝に目を留める。
香坂マイラ:篝さんを手で差して 「こちらはコンラッドさん! 高校生さんですね!」
六条詩絵:「素敵なお枝です。初対面の方でございますね」
篝・コンラッド:「えっ?! あ、ありがとうございます!」
篝・コンラッド:「イデグロリア三年の篝・コンラッドです。今日はよろしくお願いします」
篝・コンラッド:言いながら、六条さんの髪を見て、自分の髪を弄る。
篝・コンラッド:(艶が全然違う……)  
篝・コンラッド:(だ、駄目駄目! 弱気にならない! 今日のわたしはセシル様みたいに輝くんだから)
香坂マイラ:「……さて、ステラナイトは人数的に揃った感じでしょうか」
六条詩絵:「……ええ。けれど――あまり喜ばしい戦いでは、ないかもしれません」十字架を縦に抱えるように持つ。
香坂マイラ:真剣に周囲の様子を伺っている 「そろそろ来るはずです。……多分、ステラナイトだった人が」
篝・コンラッド:「え?」
香坂マイラ:「詩絵ちゃんももうご存知なんですね?」
六条詩絵:「詩絵は花壇を見ました。赤のオダマキ……慶一郎のおじさまと、戦うことになるはずです……」
篝・コンラッド:「エンブレイスじゃないんですか?」
六条詩絵:「いいえ。ステラナイトでした。もしかしたら、今でも……ステラナイトであることには変わらないのかも」
六条詩絵:「そうした者はエクリプスと呼ばれるのです。コンラッド様はご存知なかったのですね」
篝・コンラッド:「そ、そんなことが……あるんですか」
 :風が舞う。
 :中央に咲く、赤いオダマキ。
 :一際大きいそれが、さらに歪む。
 :瞬間、夜闇の中に、花畑が広がる。
 :視界を埋め尽くすような、色とりどりの花。
 :その全ては、踏みつけられ、萎れている。
 :再び風が舞う。
本庶慶一郎:兜で顔を隠した、赤い外套の白い騎士が立っている。
本庶慶一郎:顔は伺い知れないが、その鎧を。何より。
本庶慶一郎:その銀剣を。知るものであれば、見まごうことはない。
香坂マイラ:クロークの下で銃に手を置きながらも、痛々しげに目を細める。
香坂マイラ:「あれは……」
篝・コンラッド:「…………!」 事情は知らない。だが、優れた感性が捉える。
篝・コンラッド:……巨大な荒野を相手にしたような。あまりにも強く、恐ろしく、寂しい気配。
六条詩絵:「ああ……なんという、こと」
本庶慶一郎:「……3体とは珍しいですね」ひどく嗄れた……というよりも、ひずんだ声。
六条詩絵:分かってはいたが、それでも。「この目で見たくはありませんでした。慶一郎のおじ様」
本庶慶一郎:「はてさて、どれほどの艱苦になりますやら」剣を握る力を強めて。
本庶慶一郎:君たちを見ては居ない。正確には。
本庶慶一郎:ただの立ちはだかる壁の一つだと。
香坂マイラ:「お知り合い……いえ、わたしも一方的には知ってるんですけど」
篝・コンラッド:「なん……なんですか、この……!」
香坂マイラ:「確かにこれは、今までで一番大変、かもしれませんね」 警帽を被り直す。油断はない。全神経を研ぎ澄ます
篝・コンラッド:盾のように、鎬を掲げる。自ら引く足だけは、なんとか抑え込んだ。
本庶慶一郎:歪められたステラナイト、エクリプス。
本庶慶一郎:堕ちてしなお、彼らの使命は変わらない。
本庶慶一郎:ロアテラの抹殺。
本庶慶一郎:ただし、彼らにとってのロアテラは、今。
本庶慶一郎:目の前に立つ、君達(すべて)であると言うだけだ。
六条詩絵:未来は、恐ろしい。こうした絶望もあり得る。誰も、女神でさえ保証してくれはしない。
六条詩絵:(だから、詩絵だけが)十字架を地に突き立て、立つ。
六条詩絵:(折れてしまってはいけないのです)
とうとう来たわね、ロアテラに支配されし者
そしてよく来てくれたわ、星の騎士たち
剣をもって示しなさい この世界はまだ戦えるのだと
――いざ開け、願いと可能性の舞台
監督:ステラバトルを開始します。
監督:戦闘について。
監督:ラウンドは【セット】・【チャージ】・【アクション】・【カット】の順に進行します。
監督:【セット】の処理を順に。
監督:・エネミーの配置
監督:エネミーをガーデン1~6のどこかに配置します。
監督:ガーデンは1~6が円周上に繋がっており
監督:隣り合うマスに移動することが可能です。
篝・コンラッド:ほむほむ
監督:エネミーをガーデン5に。
監督:・ステラナイトの配置
監督:次にステラナイトのコマも1~6のガーデンのいずれかに配置してください。
監督:攻撃範囲は指定がない限り、同マスと隣のガーデンまでとなるので
監督:それも加味して配置をお願いします。
珪素:アタッカーなら移動+攻撃射程で届く圏内である
篝・コンラッド:ガーデン1に移動します
珪素:2マス以内に配置するのがいい感じかもしれませんね
六条詩絵:でも私純粋サポーターだから遠慮なく2に行くわ
監督:そういうこと!ただし行動はエネミーからなので
監督:逃げられる可能性もあります
香坂マイラ:ふーむふむ
香坂マイラ:『舞い踊るヒルガオの花』で隣接ガーデンまで防御できる可能性もあるので、6に配置しよう
篝・コンラッド:こいつは最大2マス移動攻撃ができるのでここだ
 
 香坂[16/-]

 Garden6 

 篝[16/-]

Garden1

 本庶[?/E]

Garden5

願いの決闘場(フラワーガーデン)


 六条[16/-]

Garden2



Garden4



Garden3
監督:では配置はこう
監督:次にステラナイツの行動順を決定してください
監督:ここで選んだ順番に、毎ラウンド行動することになります
六条詩絵:質問があるのですが、例えば自分以外にチャージをするスキルがあるとします
六条詩絵:行動後に追加でチャージを得たとして、手番が終了していた場合はそのターン中には使えないということですよね?
監督:タイミング次第ですね
監督:あなたのターンと書かれたものは次以降です
六条詩絵:そうか、オートアクション相当のやつもあるから
監督:サポートとかギャンビットの中にはタイミングがあれば仕えるものもあります
六条詩絵:一概に無理というわけではないのか
六条詩絵:でもあなたのターンにあたった場合のことを考えると
六条詩絵:詩絵は先に動きたいタイプですね
香坂マイラ:詩絵→コンラッド→香坂!
監督:OK!
 
 香坂[16/3]

 Garden6 

 篝[16/2]

Garden1

 本庶[?/E]

Garden5

願いの決闘場(フラワーガーデン)


 六条[16/1]

Garden2



Garden4



Garden3
監督:この順!
六条詩絵:詩絵一番乗り
監督:次は舞台のセットルーチンです。
監督:ステラナイツでは、舞台と呼ばれるギミックがあり
監督:セットアップに発生する効果と、
監督:ステラナイトの行動ごとに発生する効果が決められています。
監督:セットルーチンは即時
監督:アクションルーチンは行動前に予告され、
監督:行動後に効果を発揮します。
監督:場合によっては対応の可能性があるということですね。
監督:舞台のセットルーチン発動。
【嗚呼、遠く聞こえるのは】
カットのタイミングで効果を発揮。
最もエネミーから遠いステラナイト1体に【アタック判定:3+現在のラウンド数】
監督:即時と言っておきながら
監督:こいつはラウンド終了時に効果を発揮するやつだった
監督:とにかく今は何も起きません
香坂マイラ:詩絵ーッ
六条詩絵:最もエネミーから遠いステラナイト……どなたでございましょう
六条詩絵:詩絵じゃねーか!
篝・コンラッド:俺が護るよ
篝・コンラッド:篝じゃん! マモレナカッタ
監督:次!チャージ判定!
六条詩絵:いえ……これは表記的にどなたかが受けなければならない攻撃
六条詩絵:どうにかいたしましょう
監督:自分のチャージの数字+ラウンド数の1d6ダイスを振ってください。
監督:あ、1d6っつったけど
篝・コンラッド:4d6
DiceBot : (4D6) → 19[3,6,5,5] → 19

六条詩絵:3d6
DiceBot : (3D6) → 17[5,6,6] → 17

監督:個数b6のほうがいいかな
六条詩絵:よしでございます
監督:まあどっちでもいいです 合計しないだけ
香坂マイラ:3d6
DiceBot : (3D6) → 7[1,5,1] → 7

篝・コンラッド:はいな
香坂マイラ:おっ、これは分かりやすいのが引けたぞ……
監督:で、要はこの出た目のスキルを
監督:自分の手番に出た個数だけ使えるんですね
篝・コンラッド:ブーケ使用します。プチラッキー
六条詩絵:チャージダイス数は行動回数でもあるということ
監督:なお、ブーケの効果を使用することで、この出目を操作することが可能です。
六条詩絵:これは一個だけですよね?
監督:・プチラッキー(3枚消費) 出目一つの数値を1だけ増減する。
監督:・リロール(5枚消費) 全てのダイスを振り直させる。1回の判定に1回まで。
監督:プチラッキーは、数字は幾つ増減させてもいいですが
監督:もちろん個数分消費は増えます
監督:ダイスは1個だけ
六条詩絵:つまり3個のチャージダイスがあるとして
香坂マイラ:増減は慎重にしなきゃだぜ!
六条詩絵:移動できるのはそのうち1個ということですね
監督:そういうこと!
六条詩絵:慎重とはいっても
本庶慶一郎:4d6
DiceBot : (4D6) → 15[5,6,2,2] → 15

篝・コンラッド:プチラッキー! 出目5の一つを4にする  ブーケ719→716 
監督:エクリプスはブーケを使えないのでこのまま。
六条詩絵:こんなブーケ数、6のやつを1まで動かしてまた6に動かし直しても
監督:カスみたいな消費量
六条詩絵:余るんじゃねーのか……
篝・コンラッド:ブーケ、なくならないように慎重に使わなきゃな
篝・コンラッド:これで出目が3・4・5・6になった バランスがいい数字
香坂マイラ:リソース管理が重要だぜ
六条詩絵:悲哀の毒花で反撃できるからよしと思ったのですが
監督:では出た出目のダイスを作って
監督:マスに置いておくと良いでしょう
六条詩絵:これステージ攻撃には使えないのですよね。リロール致します
香坂マイラ:私も使ってみよう。プチラッキーで出目1の一つを2にします。防御手段の確保!
六条詩絵:六条詩絵のブーケを+-5した (ブーケ:782->777)
篝・コンラッド:なんだこのコマ・・・ダイス?
六条詩絵:六条詩絵のブーケを+-5した (ブーケ:777->772)
六条詩絵:あ、二回やっちゃった
六条詩絵:ブーケは777。
六条詩絵:3d6
DiceBot : (3D6) → 7[1,1,5] → 7

香坂マイラ:香坂マイラのブーケを-3した。{4]
監督:自分の駒があるところの
六条詩絵:うーん、騎士のたしなみは使えるかどうか微妙だな
監督:1~6にダイスを作って置いてください
六条詩絵:プチラッキーで、出目1のうち一つを出目4にいたします。
珪素:六条詩絵のブーケを-3した (ブーケ:772->769)
六条詩絵:六条詩絵のブーケを-3した (ブーケ:769->766)
六条詩絵:六条詩絵のブーケを-3した (ブーケ:766->763)
監督:みんなOKかな
香坂マイラ:OK!
六条詩絵:OKでございます
篝・コンラッド:OK
監督:では、まずはエクリプスの行動から。
本庶慶一郎:スキルNo.5を使用。
本庶慶一郎灯散らす赤き花輪(フローラル・リング)
本庶慶一郎:火炎カウンターを1個取得します。
本庶慶一郎:ダメージを受ける度ダメージを受けるたび、ダメージを与えたキャラクターに1点のダメージを与えてもよい という効果を持ちます。
香坂マイラ:セルフバーニングとはね
本庶慶一郎:スキルNo.2を2回使用。
本庶慶一郎断固として勝利せよ(フラワーガーデン・アキレギア)
本庶慶一郎:対象全てに【アタック判定:5ダイス】。[使用した回数]のダメージを受ける。どのガーデンのキャラクターにも使用可能
監督:全体攻撃するね
六条詩絵:え~~っ そんなあ
香坂マイラ:では使いましょう。舞い踊るヒルガオの花(カリステギア・スフィア)
香坂マイラ:香坂とコンラッドの防御力を+1!
六条詩絵:香坂お姉様大好き!
篝・コンラッド:ありがとうございます!
香坂マイラ:詩絵ちゃんは離れてるのでダメ……
本庶慶一郎:OK!使用したダイス目は宣言して破棄してね
六条詩絵:あっ詩絵は隣接してない!
六条詩絵:ファックでございます
香坂マイラ:なるほど。スキルNo.2ですね。破棄!
監督:後これは最初の一撃にしかかからないから注意してね
監督:1回のアタックだからね
本庶慶一郎:判定します。エクリプスはアタック判定に常時1個の補正があるため
本庶慶一郎:アタック判定ダイスは6個。
本庶慶一郎:6b6
DiceBot : (6B6) → 1,2,6,1,2,3

本庶慶一郎:うわ低!
監督:ダメージ算出ですが
監督:「防御力以上の出目のダイス」の数をカウントします
六条詩絵:ありがたい
監督:その分がダメージ。
香坂マイラ:『以上』だぜ
六条詩絵:詩絵の防御力は4点ですので、この場合は1点のダメージを受けるわけです
香坂マイラ:こちらは現在防御力5なので1ダメージだ。
篝・コンラッド:防御力4! 同じく1点!
篝・コンラッド:マイラ様~
監督:OK!では続けてもう一撃!
本庶慶一郎:6b6
DiceBot : (6B6) → 4,4,5,3,1,4

六条詩絵:慶一郎さんは反動ダメージ1点受けるのでお得な好感だった
六条詩絵:ウワーッ!
監督:お、これはいいんじゃないか
篝・コンラッド:ウワッ
六条詩絵:こっちが最初の攻撃ならよろしかったのですが
香坂マイラ:防御力4なので4点受ける……! こっちが防御できていれば!
篝・コンラッド:防御力3なので
篝・コンラッド:5点ダメージ
篝・コンラッド:合わせて6点。HP16点→10
篝・コンラッド:え
篝・コンラッド:死ぬのでは
監督:結構もりもり削るゲームよ!
香坂マイラ:香坂マイラの耐久力を-5した。(耐久力:16->11)
六条詩絵:同じく防御力4ですので4点が貫通致します……が、
六条詩絵:《悲哀の毒花》。5のダイスを取り除いて
六条詩絵:4点ダメージをお返しいたしましょう。
本庶慶一郎:痛すぎる
本庶慶一郎:スキル使用と合わせて7点食らった
六条詩絵:六条詩絵の耐久力を-1した (耐久力:16->15)
六条詩絵:六条詩絵の耐久力を-4した (耐久力:15->11)
本庶慶一郎:耐久度が変化したため公開します。
本庶慶一郎:耐久31→24に。
篝・コンラッド:強
本庶慶一郎:6のダイスは残して、手番は以上。
監督:残したダイスは
監督:使わない限りはいつまでも持ち越せます
篝・コンラッド:手札が増えるようなもんだな
 
 香坂[11/3]

 Garden6 

 篝[10/2]

Garden1

 本庶[24/E]

Garden5

願いの決闘場(フラワーガーデン)


 六条[11/1]

Garden2



Garden4



Garden3
本庶慶一郎:剣を抜く。
本庶慶一郎:その場で振り抜く。
六条詩絵:(遠い)
本庶慶一郎:それだけだ。
香坂マイラ:「……来ます!」 声を張り上げる
本庶慶一郎:かつての彼は、出力で怖れられたステラナイトではない。
六条詩絵:後方で戦況を俯瞰している自分はおろか、近接距離にいる香坂やコンラッドにすら届かない距離。
本庶慶一郎:あらゆる手管を使う、老獪さ。
本庶慶一郎:逃げを厭わぬ判断力。
本庶慶一郎:工夫と戦技を凝らした、熟練の手管。
本庶慶一郎:これはそうではない。
篝・コンラッド:「え……」
本庶慶一郎:単純な、大出力と長射程の斬撃。
香坂マイラ:クロークを翻せば、その両手には二挺拳銃。どちらも治安維持局に配備されている最新鋭の拳銃だ。右手には大口径、左手には少し小さな口径のもの。
香坂マイラ:ド ドドドド ド! 激しい連射は、斬撃の衝撃という埒外の現象を、幾ばくかばかり相殺してみせる。だが
本庶慶一郎:斬り上げたはずの剣先は、
香坂マイラ:(……強い!)
六条詩絵:「え」ザン!
本庶慶一郎:今や下に降りている。
本庶慶一郎:一撃ではない。
六条詩絵:反応できないまま、その場で、横殴りに吹き飛ばされている。
本庶慶一郎:二撃だ。一瞬の出来事。
六条詩絵:小さな十字架の破片が散る。それは、ローブの中で六条詩絵を護っていた防具でもある――が。
香坂マイラ:その防御行動にどれだけの意味があったか。一撃を僅かに逸らしただけで、想定外の第二撃にはまるで対応しきれなかった。
六条詩絵:(遅れてしまった)(全く反応……できなかった)
篝・コンラッド:「んぎ、あああーーーっ!?」
六条詩絵:「けほっ!」
香坂マイラ:クロークを盾に斬撃を受け、殺しきれない衝撃を転がるような受け身で抑え込む。 「くう……っ!」
篝・コンラッド:まともに切り裂かれた身体から、木の葉と花弁が散る。
六条詩絵:地面に手を突き、それでも視線を本庶慶一郎へと向けている。そうしなければならなかった。
六条詩絵:(香坂のお姉様が……防いでいなかったなら!)
篝・コンラッド:ステラナイツに、肉体的な傷はつかない。ただし、「斬られた」という感覚と喪失感は本物だ。
六条詩絵:小型の十字架は、衝撃で飛び散っただけではない。今、エクリプスを取り囲んでいる。
六条詩絵:「今!」
六条詩絵:ザザザザザザザザッ!!
六条詩絵:一つ一つはごく弱い刺突だが、たった今の負傷を返すかのように殺到する。
本庶慶一郎:鎧の隙間からそれを受けて。瞬間。
本庶慶一郎:燃え上がる。
本庶慶一郎:赤いマントは今や、炎のように燃え盛っている。
本庶慶一郎:それが飛び火して、ドレスの一部である十字架を焼く。
本庶慶一郎:火炎カウンターの効果。
本庶慶一郎:ダメージを与えた相手に1点のダメージを。
六条詩絵:しまった!カウンターダメージにもさらにカウンターが来るのか
六条詩絵:あれ?でもその場合、質問なんですけど
六条詩絵:火炎カウンターが乗ったキャラクター同士がダメージを与えた場合どうなるんですか?
監督:無限ループするな……ちょっとFAQみるね
監督:ダメージを与えてもよいなので
監督:使用者が望む限りは起き続けるとしましょう
六条詩絵:選択権のある無限ループということですね
六条詩絵:六条詩絵の耐久力を-1した (耐久力:11->10)
六条詩絵:ではさらに耐久力が1減少。しかも今回の予兆、詩絵が食らうんですよ!助けて!
監督:あ、いえ、これは予兆じゃなくて
監督:舞台のセットルーチンが、カット後をタイミングとして指定しているので
監督:全員の行動が終わった後の発動です。
六条詩絵:なーんだ
六条詩絵:どっちにしろ詩絵が食らいそう……
六条詩絵:「っ、あ!」
六条詩絵:十字架を通して伝わる熱に苦悶する。
六条詩絵:それは本来物理的にあり得ないことだが、それでも、強い思いを抱くステラナイトの力であるなら……
六条詩絵:「それほどまでに、強い望みを」
六条詩絵:「一体……慶一郎おじ様。何を」
香坂マイラ:(超歴戦のステラナイト、"銀剣"の本庶慶一郎……)
本庶慶一郎:「異なことを」
本庶慶一郎:「敵に目的を明かす者などおりますまい」
六条詩絵:「敵ではないのです」土を掴む。
六条詩絵:「敵では。敵では」
六条詩絵:「……ああ」
監督:六条さんの手番へ。その前に
監督:舞台の予兆が発生。
【大いなる真実】
任意のスキルにダイスを1個置き、即使用。
このアクションのアタック判定ダイスを+2個。
六条詩絵:キャアー
監督:これが、六条さんの行動終了後に発生します。
香坂マイラ:オエーッ
篝・コンラッド:避けようがないじゃん
香坂マイラ:殺意がヤバい
篝・コンラッド:っていうか
監督:好きな順番でスキルを使ってください。取っておいてもいいよ
篝・コンラッド:これさっきの使われたら死ぬ
篝・コンラッド:ん
篝・コンラッド:あ、これプレイヤー側が出来るの?
監督:あ、違います違います
監督:エクリプスの行動ね
篝・コンラッド:ですよね!
監督:これを踏まえて、六条さんが行動していいよ~ってこと
六条詩絵:詩絵に残された行動は二つ……ダイス1の《騎士のたしなみ》は対角線の慶一郎おじ様には射程外だし
六条詩絵:残されたダイス4の最強スキル!《闇夜に並ぶ九つの塔》しかございません!
六条詩絵:《闇夜に並ぶ九つの塔》、発動致します!効果に同意する任意のキャラクター全員が、【チャージ判定:[現在のラウンド数]ダイス】を行い、そして[現在のラウンド数]ダメージを受けるという最強スキル
六条詩絵:自分も含めた味方ステラナイト三名を対象にするよ
篝・コンラッド:同意する! 1ダメージ受けて、追加で1ダイス!
篝・コンラッド:1d6
DiceBot : (1D6) → 5

香坂マイラ:ありがたい。チャージします!
香坂マイラ:1d6
DiceBot : (1D6) → 1

監督:当然このチャージにも
六条詩絵:詩絵も!
六条詩絵:1d6
DiceBot : (1D6) → 5

監督:リロールやプチラッキーは使用可能です
篝・コンラッド:プチラッキー使用
六条詩絵:引き当ててしまったぞ《悲哀の毒花》……!これは、ワンチャンございます!
篝・コンラッド:5→4に
監督:いやこのブーケならリロール意味ないな
監督:嫌なの補充しやがって!
香坂マイラ:プチラッキー使用。1個切り上げて《舞い踊るヒルガオの花(カリステギア・スフィア)》をセット。
香坂マイラ:香坂マイラのブーケを-3した。(ブーケ:663->660)
香坂マイラ:香坂マイラの耐久力を-1した。(耐久力:11->10)
篝・コンラッド:耐久力10→9  ブーケ716→713
監督:では、以上かな?
六条詩絵:以上でございます……
監督:舞台の予兆が発生。
本庶慶一郎:好きなスキルを追加。
本庶慶一郎:当然《断固として勝利せよ》を使用。
本庶慶一郎:アタック判定は強化を受けて8個!3人を攻撃します。
香坂マイラ:《舞い踊るヒルガオの花(カリステギア・スフィア)》!
香坂マイラ:香坂とコンラッドさんの防御力を+1!
篝・コンラッド:マイラ様~~~~~!
本庶慶一郎:8b6
DiceBot : (8B6) → 6,5,3,6,2,3,2,4

香坂マイラ:防御力5なので6,5,6。3点!
篝・コンラッド:4以上なので、4つ!
六条詩絵:防御力4で4点ダメージ!さっきと同じか……!
篝・コンラッド:HP 9→5
香坂マイラ:香坂マイラの耐久力を-3した。(耐久力:10->7)
六条詩絵:しかしこれ以上の好機なし!再び《悲哀の毒花》!ぶちかまします!
六条詩絵:六条詩絵の耐久力を-4した (耐久力:10->6)
本庶慶一郎:火炎カウンターで1点返す!
六条詩絵:きゃっ
六条詩絵:六条詩絵の耐久力を-1した (耐久力:6->5)
本庶慶一郎:こちらはスキル使用回数の3点+毒花の4点で
本庶慶一郎:また7点減った。残り耐久10になりました。
六条詩絵:こちらも死にそうでございますがあちらも死にそうでございます!
香坂マイラ:ダダダダダダダ!
香坂マイラ:エクリプスの攻撃初動を見切り、再び二挺の拳銃を連射。
香坂マイラ:乱射、ではない。全ての銃撃は、怪物じみたその斬撃を少しでも逸らすべく、計算された軌道と威力で放たれている。
六条詩絵:「香坂のお姉様」
六条詩絵:「……ありがとうございます!」周囲をよく見て、機に先じて支援を行ってくれている。
六条詩絵:尊敬すべき先達だ。本庶慶一郎もそうだった。
六条詩絵:二重のリングのように詩絵を取り巻く十字架の嵐を
六条詩絵:庭園全体に広げる。大地の、枯れた花々。
六条詩絵:その一つ一つの墓標のように、小さな十字架が無数に突き立っていく。
六条詩絵:「――まだ、詩絵にも手助けすることができます!あと、一度!」
本庶慶一郎:再びの愚直な斬撃。好んで使っていた、フェイントも何もない。
本庶慶一郎:そんなものは威力を減じるだけだ。その必要はない。
六条詩絵:だが、それ故に。
六条詩絵:三撃目が来ることは読めた。次は意図して行う。
六条詩絵:破壊。十字架を構成する石が、鉄が砕け、あるいは骨までも砕かれる音。
六条詩絵:「うっ、あああっ……は!」
六条詩絵:斬撃を自分の身体で受けた!敢えて!
六条詩絵:「ドローン……の……操作チャンネルを」
香坂マイラ:「……詩絵ちゃん!」
六条詩絵:白魚のような指で、本庶慶一郎を照準している。
六条詩絵:「切り替える、ように……!」
六条詩絵:――ド
六条詩絵:ガ  ッ  ! !
六条詩絵:天から降り注いだ
六条詩絵:先程まで詩絵が抱えていた、巨大な一つの十字架が
六条詩絵:斬撃直後の本庶慶一郎を強襲する。
本庶慶一郎:それをまったく回避することもできない。
本庶慶一郎:本来の――かつての本庶慶一郎であれば、あるいはどうか。
本庶慶一郎:その仮定に意味はない。
本庶慶一郎:ただ、残火が燻る。
六条詩絵:嵐を広げたその時に、天へと射出していた。まるでロシェ・ザ・グレイバードが用いるような、
六条詩絵:そしてかつて“銀剣”が用いていたような、フェイントの技。
六条詩絵:「……ああ」
本庶慶一郎:それが触れるものを、常に焼き苛むだけ。
本庶慶一郎:彼自身も例外ではない。魂を燃やしている。
六条詩絵:ローブの端に燃え移る炎を見る。赤く、暗く、しかし強い炎。
六条詩絵:「これで……詩絵には、精一杯かもしれません」
本庶慶一郎:「……手間をかけてくれますね」
監督:次は篝さんの手番!
監督:舞台の予兆が発生。
No2【歪みの解体者】
ステラナイトは、ガーデンと同じ出目を出すたびに[現在のラウンド点]ダメージ。(永続)
香坂マイラ:ヒエエ
監督:これが篝さんの行動の後に適用されます。
篝・コンラッド:行動の後! 良かった!
篝・コンラッド:このラウンドで殺し切る……!
六条詩絵:お頼みします!
篝・コンラッド:スキルを使う順番は自由で良いんですよね?
監督:自由です!
篝・コンラッド:まずNO.5【痛みの先の空】。
篝・コンラッド:耐久力を-1し、詩絵さんとマイラさんのHPを4回復する。
六条詩絵:やったー!
香坂マイラ:ありがたの神……
六条詩絵:六条詩絵の耐久力を+4した (耐久力:5->9)
香坂マイラ:香坂マイラの耐久力を+4した。(耐久力:7->11)
六条詩絵:これは次ラウンドの生存もワンチャンございます!
篝・コンラッド:死なせやしねえ……! 続いて、NO.3【黒き堕落の誘い】!
篝・コンラッド:本庶さんを5→6に移動させたあと、アタックします。OK?
篝・コンラッド:こういう使い方で良いんだよね?
監督:OK!
監督:引き寄せパンチだね
六条詩絵:おお、敵の方を動かした!
六条詩絵:これならガーデン1にいるまま攻撃できますね
篝・コンラッド:アタック数は2だけど、ブーケを使用します
監督:ブーケはアタック時に使えるからねえ
六条詩絵:詩絵にも支援させてくださいませ!
香坂マイラ:じゃあ支援! ブースト!
六条詩絵:ダイスブーストは全体で3回使えるので
篝・コンラッド:ブーケ4つ使用。ダイス+1。713→709。
六条詩絵:詩絵と香坂お姉様とコンラッド様で分担するとよろしいでしょう
六条詩絵:六条詩絵のブーケを-4した (ブーケ:763->759)
篝・コンラッド:つまりアタック数は2から5に!
香坂マイラ:香坂マイラのブーケを-4した。(ブーケ:660->656)
篝・コンラッド:というわけでまずは一度目の攻撃だ! オラー!
監督:来い!
篝・コンラッド:5b6
DiceBot : (5B6) → 3,6,3,4,3

六条詩絵:あっやや低!
監督:こいつの防御は3なので
監督:5点丸々うけますね……
篝・コンラッド:マジで?
監督:攻撃特化なんだよな赤
香坂マイラ:紙!
六条詩絵:やった~!
本庶慶一郎:耐久10→5になりました
香坂マイラ:生きることを考えていない
六条詩絵:老い先短くて助かる!
篝・コンラッド:そしてこの効果、与えたダメージ点だけ回復しますね。
本庶慶一郎:ダメージを与えられたので火炎カウンターで1点は返す!
篝・コンラッド:wwwww
監督:めっちゃ回復されちゃった
篝・コンラッド:HP5回復して1ダメ
六条詩絵:クソ強いんですよねこのエフェクト
篝・コンラッド:HP4→8
篝・コンラッド:更にNO.4【暗がりの吸血鬼】!
篝・コンラッド:アタックダイス3で攻撃するが
篝・コンラッド:ブーケ12個使用して、ダイス+3。
篝・コンラッド:709→697
篝・コンラッド:6b6
DiceBot : (6B6) → 5,5,6,6,3,5

監督:高くない……?
篝・コンラッド:高いね
篝・コンラッド:あと、こっちはHP2回復します
本庶慶一郎:ええと……6点くらいます
本庶慶一郎:火炎カウンターで1点返して
本庶慶一郎:耐久度0。
本庶慶一郎:スキルNo6を発動。
本庶慶一郎:《たとえこの身が散ろうとも(システム:アキレギア)》。
篝・コンラッド:カウンター食らうのでHP8→9
本庶慶一郎:耐久力5点で復活し、
本庶慶一郎:キャラクター1体に[取り除いたセットダイスの個数]点ダメージ。
本庶慶一郎:もう1点食らわせてやる
篝・コンラッド:6を消費したのに1食らうの?
監督:ダイスの個数です
監督:これを使うと、6に乗ってるダイスを全部消費するスキルなので
監督:今は1個だけ取り除いたから1点です
篝・コンラッド:そういう意味か
六条詩絵:ダイスナンバーじゃなくて、ダイスの個数を参照なので
篝・コンラッド:なるほど
篝・コンラッド:では9→8
篝・コンラッド:プラマイゼロじゃん
篝・コンラッド:だが俺のターンはまだ終了してねえぜ!
篝・コンラッド:もう一発、NO.4【暗がりの吸血鬼】!
篝・コンラッド:ブーケ12個使用!
篝・コンラッド:697→685
篝・コンラッド:6b6
DiceBot : (6B6) → 4,2,5,4,2,4

篝・コンラッド:……4ダメ!
篝・コンラッド:更にHP2回復!
本庶慶一郎:では1残る!
本庶慶一郎:火炎カウンターで1点を返す!
篝・コンラッド:8→10→9
篝・コンラッド:削り合いと行こうじゃねえか……!
篝・コンラッド:No.6【駆け廻れ宇宙を】。
篝・コンラッド:PC2人に1マス移動権を与えます。
香坂マイラ:やった! その効果でガーデン5
香坂マイラ:へ移動!
篝・コンラッド:ガーデン2へ移動!
篝・コンラッド:演出!
篝・コンラッド:「く、うう…………!」 刃の雨に打たれながら、マイラさんと六条さんの、防御と支援の加護を感じる。
篝・コンラッド:(強い。怖い。痛い。情けない……!)  周りがただ凄くて、自分がここにいることが、不可思議に思える。
篝・コンラッド:「――でも!」 それでは、普段と同じだ。今は違う。今はステラナイツで、世界を守る星の騎士で、
篝・コンラッド:セシルに認められた、輝く花なのだから!
篝・コンラッド:「惑星、の、砕け散ったあの日」
篝・コンラッド:「交わした、誓い、だけが――」
篝・コンラッド:か細い歌。傷口から、輝く花弁がつむじ風のごとくに舞い散り、仲間の傷を癒し。
篝・コンラッド:そして、直立不動の白き騎士を、こちらへと引き寄せる。
本庶慶一郎:それを受けて、蹌踉めく。
本庶慶一郎:足許は、往時のようには動かない。
篝・コンラッド:「「ひとつでも救えるもの あるのなら」と――」  駆け抜ける。逆手に構えた右の刃を、振り抜く。
本庶慶一郎:鎧が拉げる。破片が炎となって散る。
篝・コンラッド:切り裂き、溢れる敵の暗き炎を、セシルの両刃が吸いこんでいく。
篝・コンラッド:暗くても。熱くても。身を焦がすようでも、関係ない。
篝・コンラッド:輝きは全て、彼女(わたし)を彩るものなのだから。
篝・コンラッド:「――光れ」
篝・コンラッド:輝かせながら、背後から、左の刃を。
本庶慶一郎:彼の纏う赤いマントが、千切れて落ちる。
篝・コンラッド:「引かれ、魅かれ。惹かれ。(ひか)れ。(ひか)れ――――――!」
本庶慶一郎:落ちた先で、燃えて。萎れた花を焼き広がる。
篝・コンラッド:ステージ全ての輝きを集めるような二撃目を放ち、反動でふっ飛ばされる。「っああああっ!」
本庶慶一郎:その残火が、周囲を下から照らす。
篝・コンラッド:スポットライトめいて、その炎の光が、空中の篝を照らし――
篝・コンラッド:「み゛ぁっ!」 限界! 詩絵さんのすぐ傍に半ば墜落着地!
篝・コンラッド:「うううう……」 両の鋏に急かされるように立ち上がり、なんとか構える。
本庶慶一郎:限界。鎧が光と消える。
本庶慶一郎:鎧の下の、老剣士が姿を表す。
本庶慶一郎:もはや身を守るものはない。その手に掴む、銀剣のみを支えに。
本庶慶一郎:そこに立ちはだかる。
本庶慶一郎:「……なあ」
本庶慶一郎:「君たちは若い」
本庶慶一郎:「未来がある。たとえ、世界が滅んでも」
本庶慶一郎:「いくらでも、生きていける」
本庶慶一郎:「どうか、世界(ここ)は。年寄りに譲ってもらえないかな?」
六条詩絵:「……慶一郎おじ様」
六条詩絵:「後悔なさることが、あったのですか」十字架を支えにして、辛うじて立っている。炎が裾から燃え上がりつつある。
六条詩絵:「そこまで生きて、戦い続けて、まだやり残したことが」
本庶慶一郎:「六条のお嬢さん。違うんだよ」
六条詩絵:「過去を……過去を、取り戻したいのですか」
本庶慶一郎:「これからあるんだ」
本庶慶一郎:「未来を掴みたいんだよ」
六条詩絵:――未来が欲しい。
六条詩絵:これから、なにかがあるということを。
六条詩絵:素晴らしい可能性が、自分にも残されているのだということを。
六条詩絵:それは自分と同じ願いだ。
六条詩絵:けれど。いや、だからこそ。
六条詩絵:「それは……慶一郎おじ様……」
六条詩絵:「詩絵も……詩絵も、欲しいのです!」
本庶慶一郎:「話をしたことがあるね」
本庶慶一郎:「戦いは、奪い合いだと」
本庶慶一郎:「ロアテラもきっと、恐らく」
六条詩絵:奪わなければ生きていけない世界があった。
本庶慶一郎:「欲しいものが、この基底世界にあるのだろうと」
六条詩絵:自分が生きるために、他者を踏みにじって、泥を啜らなければならない世界が。
本庶慶一郎:「ここもそうだ」花畑が燃え盛る。
六条詩絵:「ええ。ええ。覚えております」
本庶慶一郎:火だ。
本庶慶一郎:火は、それ自体では存在できない。
本庶慶一郎:燃やすものが要る。奪うものが。
本庶慶一郎:奪って、奪って。照り続ける。
六条詩絵:「――いいえ。違います。慶一郎おじ様」
六条詩絵:「慶一郎様の未来は……詩絵達から奪って、継ぎ足そうとしている、未来は」
六条詩絵:「奪わなければ得られないものではなかった」
六条詩絵:「誰もが持っていたはずの、ものなのです」
六条詩絵:自分も。ロシェも。自分への期待を失った家族も。取引でロシェを裏切ろうとした男も。死んでいった何人もの人たちも。
六条詩絵:「それは……未来というものは」
六条詩絵:「誰もが生まれた時に与えられた、ひとつなぎの切手のようなもので」
六条詩絵:「使い切ってしまったその時が」
六条詩絵:「おしまいなのです。慶一郎様」
本庶慶一郎:「足りないんだ。俺の出す葉書には」
本庶慶一郎:「ちっとも」
篝・コンラッド:「自分では」
篝・コンラッド:「……絶対に叶えられない願いが、あるんですか」
篝・コンラッド:「身の丈を、越えるような…………あ」 思わず、口を挟んでいた。
篝・コンラッド:恐ろしい騎士の中にいた、あまりにも穏やかな、普通の老人の姿に、言葉を失っていた、はずなのに。
本庶慶一郎:「ああ。俺はね」
本庶慶一郎:「なりたいんだ。この永遠の剣が、似合うようにね」
本庶慶一郎:「それだけなんだよ」
篝・コンラッド:「似合う、ように……」
六条詩絵:分かっている。六条詩絵は本庶慶一郎を見てきたのだ。
本庶慶一郎:銀の刃持つ、美しい金の鍔に口づける。
六条詩絵:愛こそがステラナイトを強くするのだと、それが分かっていたのは
六条詩絵:彼を見ていたからなのかもしれなかった。
篝・コンラッド:「それ、」……ある言葉を、応えようとして、息が止まる。
篝・コンラッド:それが、おこがましいことだと。分かっている。積み重ねた願いの強さも、永さも、切実さも。
篝・コンラッド:きっと、とても比べ物にならないことは分かっている。けれど。……けれど。
篝・コンラッド:…………耳から伸びる枝に、火の粉が振りかかる。そのまま燃えかけて、
篝・コンラッド:それを、鋏の輝きで振り払う。
篝・コンラッド:「それなら、……退けません」
篝・コンラッド:「――わたしだって、そうだから……!」
篝・コンラッド:鋏の輝きを抱き締めるように重ねて、おこがましい台詞を言い放った。
本庶慶一郎:「そうか、ならば」剣を構え直す。
本庶慶一郎:「願いあるならば剣を取れ」
本庶慶一郎:銀剣が燦めく。
本庶慶一郎:それは果たして、最後の命の輝きか。
監督:舞台の予兆が発生。
監督:残火マーカーを全ガーデンに配置。
監督:ステラナイトは、ガーデンと同じ出目を出すたびに[現在のラウンド点]ダメージ。
監督:香坂さんの手番へ。
監督:舞台の予兆が発生。
No3【無限の飢餓】
ガーデン1、3、5のステラナイトに【アタック判定:4ダイス】。
 
 本庶[1/E]

 Garden6 



Garden1

 香坂[9/3]

Garden5

願いの決闘場(フラワーガーデン)

 篝[9/2]
 六条[11/1]

Garden2



Garden4



Garden3
監督:では、改めて手番を。
香坂マイラ:容赦なし。決着しましょう。《閃光の突撃(フラッシュ・アサルト)
香坂マイラ:2マス移動してガーデン1へ。そしてアタック判定:[1+移動したマス数]ダイス】です。
香坂マイラ:ダイスブーストを……おくれ! 自分でもするけどね!
香坂マイラ:香坂マイラのブーケを-4した。(ブーケ:656->652)
篝・コンラッド:ダイスブースト!
六条詩絵:ダイスブーストでございます
篝・コンラッド:697→693
六条詩絵:六条詩絵のブーケを-4した (ブーケ:759->755)
香坂マイラ:素の3にブーストの3で6。行くぞ……!
香坂マイラ:6b6
DiceBot : (6B6) → 1,6,6,3,3,1

本庶慶一郎:残火マーカーが1の出た回数のダメージを与える。
香坂マイラ:2点。甘んじて受け取りましょう
香坂マイラ:香坂マイラの耐久力を-2した。(耐久力:11->9)
本庶慶一郎:4ダメージを受け、ダメージを受けたので更に火炎カウンターで1点。
本庶慶一郎:そして耐久度は1→0。
香坂マイラ:香坂マイラの耐久力を-1した。(耐久力:9->8)
本庶慶一郎:これ以上の復活手段はない。
本庶慶一郎:戦闘終了です。
香坂マイラ:治安維持局は、法の下の執行機関である。
香坂マイラ:『家族を助けるため』『友の命を救うため』『明日を生きていくため』……だとしても。
香坂マイラ:罪は糺され、罰は下される。情状酌量はその罰の調整弁に過ぎず、罪は変わらないし、重い罰を免れることはできない。
香坂マイラ:……治安維持局は、執行する。法の下に人を罰するのも本来は罪であり、それが罷免されているのが治安維持局だ。
香坂マイラ:それはきっと、どんな事情であれ、誰かを罰するということが、少なからずその手を下した人に負荷をかけてしまうからだと思う。
香坂マイラ:(……わたしが、執行する)
香坂マイラ:――眼前に、3人のステラナイトがいた。その問答を聞いた。駆け出している。
香坂マイラ:クロークの裾から二丁の拳銃。駆けながら銃撃を放つ。まずは線を引くのだ。二人と一人の間に。
香坂マイラ:「……"銀剣"のステラナイト!」 そして、声を張り上げる
本庶慶一郎:剣を構えて、そちらへ向き直る。
香坂マイラ:「この決闘場において、わたしは"犯人"を捕縛することはできません!」
香坂マイラ:「『世界の守護および脅威排除』! ……今のわたしは、それを何より優先しなければいけませんから……」
香坂マイラ:「……あなたを守り、法でその罪を管理して、適切な罰を下すことはできない」
香坂マイラ:駆ける。弾雨はやがて、慶一郎、彼の周囲へ。
香坂マイラ:「わたしは未来を守ります。誰もの未来を守る! ……あなたの望みが」
香坂マイラ:「どれほど切実で、取り返しのつかないものだったと……しても!」
本庶慶一郎:その弾幕を、銀剣が薙ぎ払う。
香坂マイラ:「……世界を蝕むものであるのなら!」
本庶慶一郎:不壊の剣は、銃弾を受けてなお、一切刃毀れすることがない。
本庶慶一郎:変わらず、美しいままだ。
香坂マイラ:クロークを翻す。右手の銃を捨て、三挺目の銃を抜く。
香坂マイラ:飾りの多い、骨董品のような銃だった。実用兵器ではなく芸術品に近い。ロアテラに滅ぼされる地球と呼ばれる惑星においても、およそ実用されることのないだろう、趣味の一本。
香坂マイラ:それは、かつて治安維持局員であった祖父が、その殊勲として授けられた勲章そのものであり、香坂マイラを駆り立てたもの。
香坂マイラ:「わたしはそれを討ってでも」
香坂マイラ:「……未来を繋ぎます」
香坂マイラ:引き金を引く。尋常の銃であれば、ただの鉛玉が吐き出されるだけだろう。だがここは願いの決闘場であり、彼女はステラナイトだ。
香坂マイラ:逆である。今までの銃は全て布石に過ぎず、この一挺に、ステラナイトとしての破壊の力を全て込めている。
香坂マイラ:法の下で罰を執行する、治安維持局の銃ではなく、香坂マイラの誇りの弾丸が、
香坂マイラ:威力の概念を伴い、その剣を越えて、慶一郎を撃ち貫かんと迫る。
本庶慶一郎:それにも反応している。剣で、確と受け止め。
本庶慶一郎:折れ、吹き飛ぶ。
本庶慶一郎:剣がではない。
本庶慶一郎:それを支える使い手の腕。
本庶慶一郎:永遠の剣を支える力は、もう残されていない。
香坂マイラ:「…………」 哀しげな眼
香坂マイラ:(わたしの聞く限り、彼の強みは『こう』ではなかった。卓越の戦技、死を遠ざける戦術。それだからこそ、歴戦として戦い抜くことができたはず)
香坂マイラ:(……彼はそれを捨てた。エクリプスの力があれば、あの暴力的な攻撃こそが、わたしたちを打ち倒すには最善で……)
香坂マイラ:(だから、止められない)
本庶慶一郎:「……ああ」威力をモロに受けた、身体が崩れる。
本庶慶一郎:「そうか。こんなに」
本庶慶一郎:「こんなにも、衰えたか……いや」
本庶慶一郎:「若い力が、育っているのか」
本庶慶一郎:「……まあ、どっちでも、結果は同じか」
香坂マイラ:銃口から硝煙を吹く銃を、静かにホルスターへ戻し
香坂マイラ:(……わたしたちは執行する。執行された者を救うことはできない)
香坂マイラ:(だから、せめて……)
香坂マイラ:「ごめんなさい」 警帽を取り、頭を下げる
香坂マイラ:「わたしは、あなたの願いを摘み取った。……わたしはあなたにとって、永遠に罪人になるかもしれません」
香坂マイラ:「恨んでくれても構いません。でもできれば……許してください」
香坂マイラ:彼らが少しでも、新しい方へ向かえるように。そう願いながら、しっかりと言葉を紡ぐ。
本庶慶一郎:「……誰も、恨むようなものじゃない」
本庶慶一郎:「……これは、俺が」
本庶慶一郎:「持っていくべきものなんだ」
本庶慶一郎:「君でなければ、誰かがやった」
本庶慶一郎:「……それだけなんだ」
香坂マイラ:「……でも、わたしがやりましたから。だから、ごめんなさいです」
香坂マイラ:顔を上げて 「今度、会いに行きますから」
香坂マイラ:「話、聞かせてください。わたし全然ダメで、いつも叱られてばっかりだし、役に立つかわかんないですけど」
香坂マイラ:「……でもきっと、ね?」
本庶慶一郎:「……ああ」
本庶慶一郎:「ああ。そうしてやってくれ」
本庶慶一郎:「きっと、喜ぶ」
本庶慶一郎:その体が崩折れて。星と消える。
監督:それで、ステラバトルは終わりだ。
香坂マイラ:しばらく、消えた星の残光を眺めているが
香坂マイラ:やがて、駆けながら拳銃を拾い、二人の元へ
香坂マイラ:やがて、駆けながら捨てた拳銃を拾い、二人の元へ
香坂マイラ:「お疲れ様っ」 明るく笑いかける
六条詩絵:「……」俯いて、はらはらと涙を流している。
六条詩絵:「香坂のお姉様」
香坂マイラ:「うん」
香坂マイラ:少し背伸びして、その頭を撫でてあげる 「お疲れ様」
篝・コンラッド:「………………」 剣を抱えたままへたり込む。一度だけ、鼻をすするような音。
篝・コンラッド:「ふへぇあ……」
六条詩絵:「本庶のおじ様は、報われなかったのでしょうか?」
香坂マイラ:「コンラッドさんも、大丈夫? ケガしてない? なんか力出しすぎちゃった~とか」
篝・コンラッド:(私が泣くのは違う)
六条詩絵:「あれだけ戦って、努力して……誰よりも、ステラナイトであった方だったのに」
六条詩絵:「最後まで願いは叶わなかったのでしょうか?」
香坂マイラ:「……どうかな」 困ったように、あるいは誤魔化すように笑う
篝・コンラッド:(私が泣くのは違う)「ぐすっ。だ、大丈夫ですっ。気が抜けちゃって……」 
香坂マイラ:「分かんないよ。そういうのって、きっと……本人が満足するかどうかで」
六条詩絵:傷ついて、つらい思いをして、それでも先に進んできた者にこそ
六条詩絵:未来が欲しかった。願いが報われる未来が。
香坂マイラ:「わたしたちは、離れた所から、なんとなく想像するしかなくて……」
香坂マイラ:「きっと、あんまり思い悩んでも、苦しいだけなんだろうけど」
香坂マイラ:へたりこんだコンラッドさんの頭も撫でてあげる 「割り切れないよね、全然」
六条詩絵:「悲しいです。詩絵は」
篝・コンラッド:「あっ、わっ」
篝・コンラッド:「あ、ありがとうございます。香坂さん……六条さんも……」
香坂マイラ:「……悲しいよね。うん、ほんとそう」
篝・コンラッド:「お二人がいなかったら、どうしようもなかったです……」
香坂マイラ:「だからせめて、その悲しいを忘れないようにしよう。割り切っちゃわないでさ」
香坂マイラ:「コンラッドさんこそ! 頑張ってたよ。キレイだったし」
六条詩絵:「う、うううう……」
香坂マイラ:「内気な子かなーって思ってたけど、全然そんな感じしなかった。頑張ったね!」 またよしよしと頭を撫でて
篝・コンラッド:「も、勿体ないです、そんな……!」
篝・コンラッド:「……六条さんも。元気出して下さいね」
篝・コンラッド:「いえ、その、なにも知らないのに勝手に感情移入しちゃって、ごめんなさいなんですけど……!」
六条詩絵:「……コンラッド様」俯いたままだが、彼女の手を取る。
六条詩絵:「願いを、叶えてくださいね」
篝・コンラッド:「……!」ちょっとびっくりするが、気丈に笑ってみせる。「……任せて下さい」
六条詩絵:「こんなことを……感傷的な……期待を、勝手に押し付けてしまって、申し訳ありません」
六条詩絵:「けれど……正義を為すためにいる香坂のお姉様でもなく」
六条詩絵:「形のないものを取り戻したい、私達でもなく――」
六条詩絵:「貴女こそが、きっとステラバトルをすることで」
六条詩絵:「何かを手に入れられるのだと思いますから」
篝・コンラッド:「任せてください。……ひとの期待に、期待以上に応えるのが本懐だって、私のシースなら、そう言うと思います」
篝・コンラッド:「……お二人が普段いる場所にも届くくらいの、輝きを」
六条詩絵:「……ありがとう」涙が流れたままだけど、笑う。
六条詩絵:昔の自分もそうだっただろうか。自分を見る大人たちも、きっと。
六条詩絵:子供である自分を通して、未来の希望を見ていたのだろうか。
篝・コンラッド:手を握り返して、笑ってみせる。
六条詩絵:未来があってほしい。ステラバトルが絶望で終わっていくだけでは
六条詩絵:救われないから。
六条詩絵:「また、お会いしましょう。コンラッド様。香坂のお姉様」
香坂マイラ:「うん。そうだね! 一緒にスイーツ食べたりしよう」
篝・コンラッド:「はい! また一緒に会えたら、仲良くして下さいね」
六条詩絵:「……ええ。とても、楽しみです」
六条詩絵:「未来が。ごきげんよう」
六条詩絵:現れた時と同様に、羽と十字架の風に包まれ、消える。
香坂マイラ:「……未来か」
香坂マイラ:また少し、眩しそうに、悲しそうに目を細めるが、すぐに首を振る
篝・コンラッド:きゃりん、と分割していた鋏を元に戻して、腰に佩く。
香坂マイラ:「楽しみにしなきゃね。勝ち取った……うん。勝って、取ったものなんだから」
篝・コンラッド:「…………」 周囲を見渡す。
篝・コンラッド:やがて、消滅していく身を、そのまま振りわけるように。
篝・コンラッド:炎に焼き払われた花々を、ステラナイツの輝きで癒していく。
篝・コンラッド:(――あのひとの、犯した罪が、これで少しでも和らぐなら……なんて)
篝・コンラッド:(……ううん。感傷ですね) 
篝・コンラッド:やがて、綺麗に、元通りに咲いた花々を見て。
篝・コンラッド:「……よし」 にっこり笑って、最後に枝に咲いた花弁を残して、消滅する。
香坂マイラ:それを見届け、自らもこの場を後にする前に、空を見上げる。
香坂マイラ:夜天。旭光は遠く、けれど星は無数煌めいて。
香坂マイラ:うん、と頷くと、警帽を被り直す。
香坂マイラ:「……世界の守護および脅威排除、完了」
香坂マイラ:「治安維持局の活動に戻ります」
香坂マイラ:そう呟いて、インクの霧のように姿を変じ、立ち去る。


【カーテンコール】

【Scene5-1:本庶慶一郎/ユセリア・フィエ】

ユセリア・フィエ:望ましい形の決着だった。
ユセリア・フィエ:エクリプスとして歪められた自分たちは、今まで自分たちが守ってきた世界を焼き滅ぼさずに済み
ユセリア・フィエ:ロアテラの干渉は失われ、救出された——そう、エクリプスとなったステラナイトを討つことは『救出』と呼ぶのが通例なのだ。
ユセリア・フィエ:……救出?
ユセリア・フィエ:僕らが何にどう救われたっていうんだ?
ユセリア・フィエ
ユセリア・フィエ:夜。
ユセリア・フィエ:慶一郎の家だ。戦いは終わり、温め直した食事を二人で囲んでいる。
ユセリア・フィエ:「……調子はどう?」 普段とそう変わらぬ様子で問う
本庶慶一郎:「ごめんね、ユセリアちゃん」
本庶慶一郎:「新しく作れればよかったんだけど」
本庶慶一郎:「ちょっと疲れちゃった」
ユセリア・フィエ:「気にしないよ、別に」
ユセリア・フィエ:「作ったのを放ったらかすのも勿体ないし」
ユセリア・フィエ:ぱくりと口に運ぶ 「うん、いつもの味」
本庶慶一郎:「そう?じゃあ、よかった」
ユセリア・フィエ:「……」 もう一口食べて、もぐもぐと飲み込み
ユセリア・フィエ:「調子はどう? って聞いたのは」
ユセリア・フィエ:「答えたくない?」
本庶慶一郎:「……」
本庶慶一郎:「騎士であることが染み付いてたんだなあって思うね、つくづく」
本庶慶一郎:「直接、言ったら」
本庶慶一郎:「かっこ悪いだろ」
ユセリア・フィエ:「ふふっ」
ユセリア・フィエ:「子供の頃とか、さんざんカッコ悪い所見せてたくせに」
本庶慶一郎:「あの頃は別に好きでもなかったからなあ」
ユセリア・フィエ:「男の子はニブいからなあ」
本庶慶一郎:「綺麗な女の子よりはさ」
本庶慶一郎:「カッコいい剣に憧れてたんだよ」
ユセリア・フィエ:「あーあ! どうしようもないよ、男子って」
ユセリア・フィエ:「ホント、どうしようもない」
ユセリア・フィエ:身を寄り添わせ、その手を……今までずっと、ステラナイトとして戦い、剣を握り続けた手をそっと握る。
ユセリア・フィエ:がさがさと皺走り、女の自分よりもなお小さく感じられる。
本庶慶一郎:「どうしようもないぼくに、付き合ってくれてありがとう」
ユセリア・フィエ:「ありがとう、って」
ユセリア・フィエ:「言えるんだ」 半ばもたれかかるように、甘えるように擦り寄る
ユセリア・フィエ:今までにこんなことは、記憶の限り滅多になかった。それこそ、子供の時分以来か
本庶慶一郎:「言える時に言っておかなきゃあ」
ユセリア・フィエ:「……わかんない、んだよね。僕は」
ユセリア・フィエ:「僕と同じ願いを持って……今まで付き合ってくれて」
ユセリア・フィエ:「僕に付き合ってくれてありがとう、って言うべきなのか、僕に付き合わせてごめん、って言うべきなのか」
ユセリア・フィエ:「……どっちも違うんだよな。だってどっちも、『最後』に言う言葉じゃないか」
本庶慶一郎:「最後に言う言葉がほしい」
本庶慶一郎:「今は、そういう調子だ」
ユセリア・フィエ:その胸に顔を埋める。声を微かに震わせて
ユセリア・フィエ:「やめてよ」
ユセリア・フィエ:「行かないでよ」
ユセリア・フィエ:「……行かないで」
本庶慶一郎:「ユセリアちゃんの我儘はさ」後ろ髪を撫でる。
本庶慶一郎:「大体、何でも聞いてきたけど」
本庶慶一郎:「どうして、どうして」
本庶慶一郎:「これが聞けないんだろうね、ぼくは」
ユセリア・フィエ:かすかに鼻をすするような音を立てて、強く慶一郎の胸に閉じた目を擦りつけて
ユセリア・フィエ:「……ごめん。困らせて。分かってるんだ」
本庶慶一郎:「いいよ。困りたい」
ユセリア・フィエ:「ふふっ。ズルいなあ」
ユセリア・フィエ:「そういう所が好き」
ユセリア・フィエ:「……それでも、でも、僕はさ」
ユセリア・フィエ:「良かったって思ってる。……どうあれ僕は、最初から、いつか独りになることは分かりきってて」
ユセリア・フィエ:「その割には、うん。長い間、夢を……見続けられた」
ユセリア・フィエ:「良い夢を、好きな人と。……慶一郎は?」
ユセリア・フィエ:「『良かった』って言ってくれる?」
本庶慶一郎:「……うん。それは」
本庶慶一郎:いい響きだと思う。
本庶慶一郎:最後に告げるには、とても。
本庶慶一郎:「良かった。君と居られて良かった」
ユセリア・フィエ:「……うん」
ユセリア・フィエ:ありがとう、とか、ごめんなさい、とか、ましてやさようなら、とか
ユセリア・フィエ:そんな言葉よりもずっと、僕にとっては救われる言葉で。
ユセリア・フィエ:また少し慶一郎の胸元に顔を擦り付けると、目元を拭って、顔を離す
ユセリア・フィエ:「へへ」 誤魔化すように笑う 「ごめんね、ご飯中に」
ユセリア・フィエ:「食べよ。一緒にさ。残したらもったいない」
本庶慶一郎:「うん。そうしたら、TVを見ようね」
ユセリア・フィエ:「うん。今日は面白いのやってると良いね」


-:……擦れ合う葉音と、秋の涼風が君を出迎える。
-:開かれた窓。揺れるカーテン。差し込む日差しの下、年老いた男が穏やかに眠っている。朽ちかけた肉体に、しかし表情はどこか幼く。
-:覚めることのない眠りだ。赤いブランケットがいたわるようにその身体にかけられていて、それを為したはずの者は、もういない。
-:この部屋にはもう、誰もいないし、誰も訪れることはないだろう。
 :そのはずだった。
 :眠る老人のように見えるそれの前に、2人の人物がある。
 :仮面を付けた2人。
仮面の人物:「本庶慶一郎氏。我々は誓約生徒会(カヴェナンター)です」
仮面の人物:「貴方なら、ご存知でしょう。一度願いを喪った騎士も、再起の手段があると」
仮面の人物:「代償は、女神の尖兵となること。ステラバトルのみでない、あらゆる世界の危機に召喚され」
仮面の人物:「――“ロアテラとの最後の決戦に、必ず参加すること”」
仮面の人物:「これを受ければ、貴方は、それまでの間」
仮面の人物:「永らえることを約束しましょう」
仮面の人物:「まだ願いを追う意志があるのならば、この仮面を執りなさい」
仮面の人物:機械仕掛けの仮面を取り出し、それに近づいて。
仮面の人物:「――ああ」
仮面の人物:「遅かったようですね」

【Scene5-2:篝・コンラッド/日高見セシル】

篝・コンラッド:アーセルトレイ第一層 スイーツカフェ「フラワーズ・ゼニス」
篝・コンラッド:学園生徒の、特に女子の間で大人気の大規模チェーンであり、
篝・コンラッド:ここでのお茶は一種のステータス、憧れでもある。
篝・コンラッド:広い店内の、窓際の席。窓から差し込む温かな日差しの中、
篝・コンラッド:篝は、巨大なキャスケットにサングラス、体型を隠すぶかぶかのコートを身につけて、ジュースを呑んでいる。
篝・コンラッド:「…………!」 ビクビクと周囲を見回す。完全に不審者だ。
日高見セシル:「篝さん、それ」向かいの席に座る少女。
日高見セシル:「怪しい」赤いダッフルコートに、伊達メガネだけの簡素な変装。
篝・コンラッド:「メガネのセシル様も素敵です!」
篝・コンラッド:「……じゃない! 私はこれくらい必要なんです……!」
篝・コンラッド:小声で叫ぶという器用なことをしている。
日高見セシル:「何で?」ミルクを入れすぎてほぼ白いコーヒーを飲んでいる。
篝・コンラッド:「だって、セシル様が、こんな、こんな、誰かとお茶なんて……」
篝・コンラッド:「あっ無理 しんどい 駄目 枯れそう」
篝・コンラッド:相手が自分だとしても解釈違いなのだ……!
日高見セシル:「別に、お友達と出かけたっていいじゃない」
日高見セシル:「ええ……」
篝・コンラッド:一度は、彼女の隣に並ぶ覚悟を固めたのだが……固めたのだが
篝・コンラッド:常にそう居られるわけでもないのだ。むしろステラバトルで頑張った分、反動でより一層ファンに戻ってきている。
日高見セシル:「ていうかさ、せっかくの祝勝会なんでしょ」
篝・コンラッド:(いや反動って何……?)
日高見セシル:「篝さんにはもっと楽しそうにしてて欲しいんだけど」
日高見セシル:机に肘をついて、頬を置いて眺める。
篝・コンラッド:「勿論めちゃくちゃ嬉しいのは嬉しいので……」
篝・コンラッド:(アアアアア顔がいい)
篝・コンラッド:「過度な栄養分は吸収するのも大変なんです……!」  ホールのフルーツタルトを切り分ける。
篝・コンラッド:半分をセシルの方に。
日高見セシル:「わあ……」
日高見セシル:「これ、すっごい食べたかったの」
日高見セシル:「でも一人じゃ食べ切れないからさあ」
日高見セシル:「篝さんと来れてよかったなあ」
日高見セシル:変装だが、ある意味当然、
篝・コンラッド:「ホール丸ごと、憧れですよね……」
日高見セシル:思い切り目立っている。
日高見セシル:日高見セシルを知る知らないに関わらず、ひどく目立つ立ち振舞だからだ。
篝・コンラッド:(ああ、店内に照明が一つ増えたかのよう)
日高見セシル:「どうだった。今回」
日高見セシル:ケーキを口には運びながら聞く。
篝・コンラッド:「…………」 イチゴを口にしつつ。「セシル様……セシル、は……」
篝・コンラッド:「自分がステージに立つために……他の候補を落とさなきゃいけないことを」
篝・コンラッド:「どう、考えてる?」
日高見セシル:「んー」
日高見セシル:「そりゃ全員立てるのが一番いいけど」
日高見セシル:「そうだなあ。落とした分は頑張ろうかな、か」
日高見セシル:「引かないで聞いてほしいんだけどさ」
日高見セシル:「何かに選ばれるのって、気持ちいいじゃない」
日高見セシル:「自分は特別なんだぞー、みたいなさ」
篝・コンラッド:「それは……」あまり経験が多くはないけど。「……分かる、けれど」
日高見セシル:「自分じゃなきゃ良かったって思うのは」
日高見セシル:「傲慢でしょ。選考に後悔があるとすれば」
日高見セシル:「選ばれた側でも、選ばれなかった側でもないでしょ」
日高見セシル:「選んだ側がすることだ」
篝・コンラッド:「はう」
篝・コンラッド:自分じゃなきゃ良かった、とまではいかないが
篝・コンラッド:自分が相応しいのか、とはいつも考えている。
篝・コンラッド:「……セシルは」
篝・コンラッド:「強いね…………」
日高見セシル:「うん?」
日高見セシル:「でしょ?だってその方が」
日高見セシル:「カッコいいじゃん」
日高見セシル:「カッコつけたいんだよね僕」
篝・コンラッド:「カッコつけなくてもカッコいいでしょ」
篝・コンラッド:「カッコつけてるともっとカッコいいけど……」
日高見セシル:「じゃあもっとカッコいいを選ぶよ、僕」
日高見セシル:「……ん」ケーキを食べて。
日高見セシル:「ん~!」
日高見セシル:「んんん~!うわ美味しっ!」
日高見セシル:「選んでよかったな~これ」
篝・コンラッド:(ああああ笑顔が百億万点!)
篝・コンラッド:「ああああ笑顔が百億万点…………」
日高見セシル:「え」パッと向いて「あ、変な顔してた?」
日高見セシル:「キャラじゃないなあそれ」
篝・コンラッド:「ううん」 苦笑しつつ、自分もタルトをフルーツごとざっと救う。
篝・コンラッド:食べ辛いから、自然とサングラスを外す。 「色んな顔が見れて、嬉しい。素敵だよ、セシル」
日高見セシル:「あは」笑う。「なにそれ、口説き?」
日高見セシル:「どうしようかな、篝さんみたいな人にそんな事言われたら」
日高見セシル:「照れちゃうね」
篝・コンラッド:「え」 ひとくち食べて、そう言われて。ひとこと前の自分の言葉を思い出す。
篝・コンラッド:「――――~~~~ぇ、あ」 かあ、と頬が赤くなる。ぱたぱたきらきらと、フードの下で花弁が、玉の枝が煌めく
篝・コンラッド:「ちがっ、いまっ、そのっ、……!」
日高見セシル:「わ~」フードの下を覗き込むように机に顔をつけている。
日高見セシル:「見たことない花だ」
篝・コンラッド:「み゛ゃあああ……!?」
篝・コンラッド:色とりどりの、七色の花。今までは、咲き乱れても控え目な、咲く端から散る小さなものばかりだったが。
篝・コンラッド:今は、サザンカのような、大輪の花が何個も揺れている。
日高見セシル:「フード取っちゃダメ?」
篝・コンラッド:「わっ、わっ、なにこれ……」 自己主張の強い花が、セシルの鼻先に一つ落ちる。
篝・コンラッド:流石に抑えつけることも難しく、勢いでフードを外してしまう。
日高見セシル:「あはははっ!」笑う。
日高見セシル:「篝さん、周り見てよ」
日高見セシル:「みんな君を見てる」
日高見セシル:「君をね」
篝・コンラッド:「わ、笑い事じゃないよ! セシル…………え?」
篝・コンラッド:慌てて周囲を見回す。
日高見セシル:その殆どは奇異の目だが。
日高見セシル:どこかで、「綺麗……」とつぶやく客の声が聞こえたような。
篝・コンラッド:「あう…………うううう…………」
篝・コンラッド:注目を集めるのには、慣れてない。……ましてや
篝・コンラッド:想像できるだろうか。今、この瞬間は確かに、
篝・コンラッド:周りの目は、セシルよりも、自分の方に向かっている。
篝・コンラッド:>六条詩絵:「貴女こそが、きっとステラバトルをすることで」
篝・コンラッド:>六条詩絵:「何かを手に入れられるのだと思いますから」
篝・コンラッド:不意に、麗しい少女に言われたことを思い出した。
篝・コンラッド:「…………」 綺麗、と呟いてくれた客に向いて、せいいっぱいの微笑みを返す。
日高見セシル:きゃあ、と小さな嬌声を上げて。どこかへと去ってしまう。
日高見セシル:スタアに向けるファンのように。
篝・コンラッド:その反応に、どうしてもびっくりしてしまう。不意に、おかしさを覚える。
篝・コンラッド:くすくすと笑って、その様子を見送ると、セシルに向き直る。
篝・コンラッド:「……まずは、第一歩、なのかな」
篝・コンラッド:「ありがとう、セシル。……これからも、よろしくね?」
日高見セシル:「ああ。君にとっては大きな一歩」
日高見セシル:「うん、篝。言っておくけど、僕」
日高見セシル:「君に負けないからな」そう言って笑って。
日高見セシル:誤魔化すようにケーキをつついた。

【Scene5-3:香坂マイラ/ジェイド・リー】

ジェイド・リー:以前の世界がそうであったように、オフィス街のほど近くには、そこで働く者をターゲットにした飲食店が集まっている。
ジェイド・リー:その中には居酒屋やバーなどもあり、アーセルトレイの大人にとっての発散の場となっているが。
ジェイド・リー:「……待て。やはりさっきの路地を曲がった方が正しかったかもしれん」
ジェイド・リー:携帯端末を睨みながら足を止める。
香坂マイラ:「えー! 戻るんですか?」
香坂マイラ:「ホントに合ってます? 間違ってるお店見てるとかしません?」
ジェイド・リー:「道が複雑なんだ……この辺りは立体交差とかしていて細い横道も多いし……」
ジェイド・リー:「まだ予約の時間までは10分あるからな。想定内だ。大丈夫だ」
香坂マイラ:「ホントですか? 大丈夫かなあ……」
香坂マイラ:普段は制服を着替えても機能的でシンプル、有り体に言って色気のない恰好をしているが、
香坂マイラ:今日、業務を終えた香坂マイラは、黄色を基調とした、ふわっとしたデザインの少し華やかなワンピースを着ている。
香坂マイラ:「多分そういう時は下見とかするべきなんですよ、センパイ」
ジェイド・リー:ジェイドの方はいつも通りのスーツのままだ。だが、ネクタイは外している。
ジェイド・リー:「確かに僕が入局したばかりで、幹事をやってた頃はそうしていたが」
ジェイド・リー:「……時間がなかったんだ!なんで窃盗の事情聴取であんなに時間がかかるんだ!?」
香坂マイラ:「だって話はちゃんと聞かないと正確な調書が書けないじゃないですか!」
香坂マイラ:「だからちゃんとこう、どうしてそういうことをしなきゃいけなくなったのかとか聞き出して書きました! 矛盾してる所はちゃんと事実確認をして……」
ジェイド・リー:「いや、まあ、今回はいい。怒らん。おかげで別の詐欺事件が発覚したわけだ」
ジェイド・リー:「だが、僕が下見に行けなかったことについても……酌量してほしい!」
香坂マイラ:「えへへ。やっぱり話はちゃんと聞かなきゃです!」
香坂マイラ:「しょうがないですねーセンパイは」 褒められたのでむふふと笑っている 「酌量します。だから早く見つけましょ?」
ジェイド・リー:「線路がここだから、多分ここから手前のどこかで曲がるはずだが……」
ジェイド・リー:「……香坂」
香坂マイラ:辺りをひょこひょこ見回していた 「はい!」
ジェイド・リー:「家族は今どうしてる?」
ジェイド・リー:「いや……脈絡がないような質問だが」携帯端末を見ながら言う。
ジェイド・リー:「家族は酒が飲める方か聞こうと思ったら」
香坂マイラ:「へ?」 こくり 「家族ですか」
ジェイド・リー:「君の家族の話はあまり聞いたことがなかったと思ってな」
香坂マイラ:「うーん、お父さんは弱いけどお母さんは強いです。お父さんの方のおじいちゃんとおばあちゃんはどっちも強くって、お母さんの方はおばあちゃんが飲まなかったかな」
ジェイド・リー:「親戚づきあいが広いんだな」
香坂マイラ:指折り数えながら 「で、お父さんの方のおじいちゃんのひいおじいちゃんはまだ元気で飲んでて、お父さんのおばあちゃんの方のひいおじいちゃんとひいおばあちゃんはどっちも飲んでて……」
香坂マイラ:「お母さんの方のひいおじいちゃんと……あ、はい! 結構集まりますね!」
ジェイド・リー:「……だから社交的なのかもな。僕は一人っ子だった」
香坂マイラ:「いとこの子で成人してる子は5人いて、1人だけべろべろに弱いんですけど、他の子はみんな強いです! それから……」
香坂マイラ:「あっ、そうなんですか」
ジェイド・リー:「多いなおい」
ジェイド・リー:「この辺で止まると思ったところから三倍くらい続いたぞ」
香坂マイラ:「え、まだおじさんとか大おじさんの話がありますよ? あのですね、お父さんの方のおじいちゃんのお兄さんがお酒のメーカーの社長で……」
ジェイド・リー:「待て待て、本当に長くなるなその話は!?」
香坂マイラ:「そうですねー。確かに親戚づきあいは結構いっぱいです。あ、わたしも一人っ子なんですけどね」
香坂マイラ:「センパイは弟とか妹とかいるかと思ってました」
ジェイド・リー:「いや。そんなことはなかったな……だから後輩の扱いにも苦労するもんだ」
ジェイド・リー:「でも、人間関係が広いというのはいいな……安心だ」
香坂マイラ:「えー。わたしは苦労してませんよ。センパイ、優しいですし……」
香坂マイラ:「? 安心、ですか?」
ジェイド・リー:「ああ。僕達ステラナイトは、なまじ特別な関係で結ばれている分」
ジェイド・リー:「お互いだけが、と考えてしまいやすいのかもしれない」
ジェイド・リー:「だが人間である限り、そういうことはない」
香坂マイラ:「……」 ぱちぱち目を瞬かせながら 「……今回のエクリプスさんのことですか?」
ジェイド・リー:「——彼らを見て考えたことでもあるが、近い将来僕ら自身に関わることでもある」
ジェイド・リー:「香坂。この部署にいる限りいずれ配置換えはあるし、互いが別の先輩や後輩を持つことになるだろう」
香坂マイラ:「そうですねえ」
香坂マイラ:「センパイは出世したいんですよね?」
ジェイド・リー:「君はいつもこう……僕が見ていないと駄目だと考えていたし、今も正直そう思っているが」
ジェイド・リー:「そうじゃないようにしなければな」
ジェイド・リー:「出世……は、どうだろうな。出世すれば良いことがあると思うか?」
香坂マイラ:「わかんないですけど、でも出世すれば、なんていうか、もっと広く人を守れるっていうか」
香坂マイラ:「そういうことになるんじゃないかと思ってます」
香坂マイラ:「あっ、あとお給料も増えますし!」
ジェイド・リー:「それに、もっと広く人に関われるか」
香坂マイラ:「はい! いろんな人と仲良くして、もっとこうしたら良いよーっていうのがあれば、伝えられたりなるのは」
香坂マイラ:「良いことなんじゃないでしょうか」
香坂マイラ:「今のわたしが何を言っても、話も聞いてくれない、みたいなこと、結構多いと思いますし……えへへ」
ジェイド・リー:「それはいいな。出世したくなってきた」
香坂マイラ:「でも、お仕事も大変になりそうですからね」
香坂マイラ:「センパイとも会えなくなっちゃうのかな」
ジェイド・リー:「ふ。そうなると寂しいか?」
香坂マイラ:「寂しいですよ! センパイは治安維持局に入って……うーん、もっと前から数えても」
香坂マイラ:「一番わたしのこと、なんていうか……」
香坂マイラ:「……ちゃんと見てくれてる気がしてて」
香坂マイラ:「だから寂しいです。一緒にサッカーとかバンドとかしましょうよ」
ジェイド・リー:「家族や親戚もたくさんいるだろう。僕なんて大したヤツじゃあない」
ジェイド・リー:「つまらない先輩だと思わなかったか?」
香坂マイラ:「あっ、それはちょっと思いましたけど」
香坂マイラ:「っていうか今もちょっと思ってはいますけど」
ジェイド・リー:「思ってはいるんだな」
香坂マイラ:「でも別につまらないって、そんなおっきなことじゃないっていうか」
香坂マイラ:「その人がつまんないかどうかは、そんな重要じゃなくって……」
香坂マイラ:「……わたしの話をちゃんと聞いてくれたり、わたしの言うことに付き合ってくれたり」
香坂マイラ:「サッカーしてくれましたし、こうやってお酒飲みにも連れてきてくれますし」
香坂マイラ:「センパイはそういうことしてくれるから、つまんなくても、好きです。えへへ」
ジェイド・リー:「……」
ジェイド・リー:「まあ、今の部署にいる間は付き合ってやるさ」
ジェイド・リー:「僕以外にも、そうやって甘えられるような先輩を見つけていくことだな」
ジェイド・リー:「それを広げていくのが人生だ」
香坂マイラ:「いれば良いんですけどね」
香坂マイラ:「いるかなあ、センパイくらい面倒見の良い人」
ジェイド・リー:「君がもう少ししっかりやりさえすれば」
ジェイド・リー:「治安維持局の中にだってそれくらい面倒見てくれる先輩はいる」
ジェイド・リー:「だから、成長してくれよ。これからもだ」
香坂マイラ:「はーい。……あっ、でも」
香坂マイラ:「もし本当にそうなっても、センパイとわたしはステラナイトじゃないですか」
ジェイド・リー:「そうだな」
香坂マイラ:「そしたら、センパイとの付き合いは結局続く訳で……」
ジェイド・リー:「……そうだな」嫌そうな顔。
香坂マイラ:「……もしセンパイじゃなくなったら、センパイのこと、なんて呼べば良いんでしょう」
香坂マイラ:「ジェイドさん?」
ジェイド・リー:「……後輩でもないのに」
香坂マイラ:「リーくん?」
ジェイド・リー:「面倒見なきゃならないのか……」
ジェイド・リー:コンクリート壁に片手を突いて、項垂れている。
香坂マイラ:「わ、わっ、元気だしてください、ジェイドくん!」
ジェイド・リー:「ジェイドさんもリーくんもやめてくれ。特にリーくん。どういうつもりだ」
ジェイド・リー:「先輩!先輩でいい!」
香坂マイラ:「成長しますから! わたしもちゃんと……あっ、ホントですか?」
香坂マイラ:「やったやった、じゃあセンパイはずっとわたしのセンパイですね!」
ジェイド・リー:「……と、いうか……こういう話を」
香坂マイラ:「セーンパイ!」 空いている腕にしがみつく
ジェイド・リー:「本当は店でやるつもりだったんだよ!もう予約の時間を過ぎてる!」
ジェイド・リー:「急ぐぞ!」
香坂マイラ:「わっ、わっわっ、そうでしたね!」
香坂マイラ:「急ぎましょう! お酒お酒!」
ジェイド・リー:他者との関係は、いつまでも続けられるわけではない。
ジェイド・リー:(……センパイ、か)
ジェイド・リー:だが、それでも誰かに認められ、頼られるということが嬉しい。
ジェイド・リー:だから自分も香坂も、人を助ける仕事をしているのだろう。
ジェイド・リー:店に向かって駆け出しながら、香坂の低い頭に手を置く。
香坂マイラ:「?」 見上げる
ジェイド・リー:「なんでもない。なんか……」
ジェイド・リー:「置きやすくてな」
香坂マイラ:「えーっ、何ですかそれ!」 不服そう
香坂マイラ:「初めて言われた! どうせなら置くだけじゃなくて撫でてくださいよー」
ジェイド・リー:「褒められるようなことができたらな」
香坂マイラ:「分かりました! じゃあ今度から、仕事で褒めてくれるようなことしたら、撫でてくださいね!」
ジェイド・リー:「またそういうことを言う……」
ジェイド・リー:「……大したやつだよ、お前は」笑う。
香坂マイラ:「だーってそういうことじゃないですかぁ」 楽しそうに笑いながら
香坂マイラ:跳ねるようにセンパイに続く。いずれの話があるとしても、今はまだまだ、この心地良い関係が良い。
香坂マイラ:「あっ、そういえば言ってなかったと思うんですけど」
ジェイド・リー:「なんだ」
香坂マイラ:「わたしお酒、そこそこ飲めますが、ライン超えるとんでもなくなると友達にも評判なので」
香坂マイラ:「何かあったらよろしくお願いしますね、センパイ!」
ジェイド・リー:「嫌なこと言うなよ!直前になって!」

【Scene5-4:六条詩絵/ロシェ・ザ・グレイバード】

六条詩絵:高級住宅街の一角。その家は外の者の視界から隠れるように長い塀に囲まれている。無機質なコンクリート塀だ。
六条詩絵:与える印象ほどに大きな家ではない。六条家が所有しているのは今はこの持ち家だけだ。三階の窓に面する位置に、六条詩絵の部屋がある。
六条詩絵:綺麗にファイリングされた楽譜がある。海外から取り寄せた絵画の技法書がある。そして学術の多種多様な参考書が。
六条詩絵:部屋の二面を埋め尽くす本棚に揃えられた本も、今は使われることもない。
六条詩絵:窓の側に置かれたやや大きめの書斎机に向かって、小説を読んでいる。夕暮れの陽射し。電気スタンドを灯す。
六条詩絵:小説の内容は、ごくありふれた、恋愛に関するものだ。
六条詩絵:どういう気持ちになるのだとか、どういう人を好きになるのかとか。
六条詩絵:そうしたことを、知識として読んだことがある。何度も。
六条詩絵:けれど。
六条詩絵:(もしも、本当に恋をするとしたなら)
六条詩絵:(もしかしたら、詩絵があの時感じたように……切なく)
六条詩絵:(本庶のおじ様達がそうであったように……烈しくて)窓の向こう、遠くの雲を見る。黄金色に光を反射している。
六条詩絵:(そして、悲しいものなのでしょうか――)
六条詩絵:物憂い。苦しい。けれど、ずっと未来が見えずにいた苦痛とは、違う種類のような気がする。
六条詩絵:“銀剣”の末路を見てしまってから、ずっと思い悩んでいる。
六条詩絵:外に出ることもなく。
:不意に、窓から差し込む斜光に、、揺れが生じる。
:パカパカと、点滅するような。切れかけた街灯でもあるかのような。
:詩絵さんの読書を、揺らぎがしつこく邪魔をする。
六条詩絵:「……」
六条詩絵:「……『Q』」
六条詩絵:「『Q』『O』『T』……『Q』『O』『T』」
六条詩絵:小説の本を閉じる。
六条詩絵:「――『そちらはこちらの呼び出しを聞いていますか』」
:消えるでも、戻るでもない。……終わらない点滅には、規則性がある。
六条詩絵:知っている。これはモールス符号だ。前の世界にも存在していた。
六条詩絵:けれどこちらの世界でそれを習った相手は。
六条詩絵:夜着を着替えるかどうか迷う。コートだけを上に羽織って、急ぎ家から出る。
六条詩絵:「……先生!」
:ひゅん、と窓近くに滞空していた小さなドローンが、音もなく戻っていく。
六条詩絵:その飛び去っていく先へ走る。鳥を追うように。
:住宅街の路地の一つに入りこみ、
ロシェ・ザ・グレイバード:少年が一人。戻ってきたそれを、鷹匠のように掴み取った。
六条詩絵:「先生」
ロシェ・ザ・グレイバード:「チッ。やっぱハズレ……」 愚痴るように言いかけて、少女に気付いた
六条詩絵:普段は制服でしか出会ったことがない。身元が分からないように、前の世界のどこかの学校の制服で。
六条詩絵:「……わかっていたのですか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……っ、俺を、誰だと思ってる」
ロシェ・ザ・グレイバード:驚きに見開いた目と、思わず駆け寄りかけた足を止め、すぐに自慢げに唇を釣り上げる。
六条詩絵:「欺こうとしたわけでは、なかったのです。けれど、もし……」
六条詩絵:「もしも、詩絵のことをわかってしまったら」
六条詩絵:「もう、仲良くしてはいただけないのかもと……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「どんな戦場の混沌にも紛れて、財宝だけを掻っ攫う。《灰色の鳥》……」
ロシェ・ザ・グレイバード:(…………確証はなかったけどな!)
ロシェ・ザ・グレイバード:名前と、伝え聞いた生い立ちで、おおよその候補は出して、あとは虱潰しだ。
ロシェ・ザ・グレイバード:夕闇に紛れて光を点滅させるだけのドローンなら、見咎められることもない。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……そこそこ元気そうじゃねえか。ったく」
六条詩絵:「怒ってはおられませんか」
六条詩絵:「先生に……お会いするのが厭だったわけではないのです」
六条詩絵:「ただ、わからなくなってしまって……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「何が?」
六条詩絵:「――願いが」
六条詩絵:「詩絵は、未来が欲しくて……けれどそれは、誰かを打ち倒してまで叶えたとしても……」
六条詩絵:「取り戻すだけの意味があるものだったでしょうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」
ロシェ・ザ・グレイバード:シースとなっているとき、彼の意識はけして明瞭ではない。
六条詩絵:「ステラナイトとして、詩絵は何人かのエンブレイスを救うことができたかもしれません。けれど、同時にいずれ」
六条詩絵:「本庶のおじ様のような方をも、敵として倒し続けなければならないのかもしれません」
ロシェ・ザ・グレイバード:無数に分割されるカタチゆえか。感知できるべき、声も、光景も。ブリンガーの様子も、飛び飛びの録画映像のようになる。
ロシェ・ザ・グレイバード:「ステラバトルが、嫌になったか?」
六条詩絵:「ええ」
ロシェ・ザ・グレイバード:少女を見る。息を切らせた、上気した頬。
六条詩絵:「そのせいで……こうして、先生に素性も知られてしまいました」
ロシェ・ザ・グレイバード:「素性を、知ろうが、知らなかろうが」
ロシェ・ザ・グレイバード:「別に、俺にとってのお前は変わらねえよ」
六条詩絵:「詩絵の家は、とうに世界も、力も失ってしまっても、なお辺幅を飾うとしています。……詩絵自身もそうです」
六条詩絵:「本当に、心から先生に師事したいと望んでいたなら、堂々と教えを乞えばよかったのです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」
六条詩絵:「もしかして……この詩絵の胸の内にだって、まだ」
六条詩絵:「他の誰かを見下す心があったからなのかもしれません」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………」 腕を組んで、黙って聞いている。
六条詩絵:「あの、詩絵……詩絵は」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……問題は、それで全部か?」
六条詩絵:「先生と仲良くしたいのに……でも、あるのです…………そんな心が……」
ロシェ・ザ・グレイバード:緩やかに近づいて、指の背で、詩絵さんの頬に触れる。
六条詩絵:「……あ」
ロシェ・ザ・グレイバード:……戦闘中の様子は、飛び飛びの録画映像のようになる。だが、彼が持つ機能の発露だけは、明確に分かる。
ロシェ・ザ・グレイバード:「火傷は?」
六条詩絵:「ご、ございません」
六条詩絵:「先生の……おかげで」
六条詩絵:「……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「骨とか、筋とか。鈍い痛みが残ったりとかは?」
六条詩絵:「……ございません」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……、……」 ステラバトルの内容は、既に理解している。それでも
ロシェ・ザ・グレイバード:「っ、はぁあああああああ……」深く息をついて、詩絵さんの肩元に、下げた頭を乗せる。
六条詩絵:「ああっ」ロシェの頭を慌てて支える。
六条詩絵:「まさか……それ」「それを、詩絵に尋ねるために?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「当たり前だろが…………お前…………戦闘の翌日から……出て来ねえんだから……」
ロシェ・ザ・グレイバード:恨み心底と言った様子で、少女に応える。
六条詩絵:「ご」
六条詩絵:「ごめんなさい……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「二度は言わねえぞ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……心配した」
六条詩絵:「………」
六条詩絵:――誰も、詩絵を心配しない。
六条詩絵:「ああ」
六条詩絵:涙を落とす。
六条詩絵:「あの日から……ずっと、先生のことを想うと、熱くて、切なくて、不安にもなっていたのに」
六条詩絵:ロシェの胴に腕を回して、抱きしめる。
六条詩絵:「今、現実でお会いして」
六条詩絵:「温かいです」
ロシェ・ザ・グレイバード:「そりゃ、生身だからな。……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前が俺を、何億分の一でも見下してようが、ステラナイトを辞めたくなろうが、何だっていい」
ロシェ・ザ・グレイバード:腕を回して、抱き返す。下から、黒髪に、指を絡めるように。
ロシェ・ザ・グレイバード:「お前が痛くなきゃ、何だっていい」
六条詩絵:「……好きです」
六条詩絵:先生として。友として。シースとして。それとも、それとも。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……そうかよ。今回は、こっちに聞かねえんだな」
六条詩絵:どの気持ちであるのか、理解できていなくとも。
六条詩絵:「好きです。好きなのです。先生」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………、……」
ロシェ・ザ・グレイバード:答えようとして、言葉に窮する。ロシェには、彼女のような豊富な語彙もない。
ロシェ・ザ・グレイバード:こんな感情を、誰かに向ける時が、来るとは思わなかったから。
ロシェ・ザ・グレイバード:少しだけ身を離して、少女を見つめて、その顎を取る。
六条詩絵:「せ、せ、先生」
六条詩絵:「いや」
六条詩絵:それでも、ロシェの服を強く掴んだままだ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………。」 相変わらずの様子に、少しだけ冷静になる。
ロシェ・ザ・グレイバード:肩をすくめて、指を離す。「……ガキかよ……」
六条詩絵:「先生……」気恥ずかしさで、深く俯く。
六条詩絵:「いや、って」服を引っ張る。
六条詩絵:「いや、って、言っているのに」
ロシェ・ザ・グレイバード:「聞こえてるよ。俺も別に、無理やりは……」
六条詩絵:「そうではなくてっ」
六条詩絵:「いやって。言っているのに」
ロシェ・ザ・グレイバード:「?」
六条詩絵:「う、うう
六条詩絵:「詩絵は、はしたない娘です……」
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………雪かよ」
ロシェ・ザ・グレイバード:まだ誰も踏んでいない新雪。瓦礫も墓標も関係なく、平らに、真白にしてくれるもの。
ロシェ・ザ・グレイバード:見かけ次第、踏みしめて跡をつけるのが趣味だというものはいた。ロシェはそうではなかった。
ロシェ・ザ・グレイバード:どうせ、誰かが踏み躙るか、溶けて消える。少しでも長い間、白く、綺麗なままであれ、と……
ロシェ・ザ・グレイバード:「−−−−」 もう一度、手を動かす。
ロシェ・ザ・グレイバード:俯く少女の顔を、すっと上向かせて、唇を重ねた。
六条詩絵:「ああ……」
六条詩絵:「いや……」
六条詩絵:唇を重ねたまま、強く抱きつく。
ロシェ・ザ・グレイバード:白い平原に、自身の靴跡がついた。
ロシェ・ザ・グレイバード:「――…………」
六条詩絵:「……先生。先生、は」
六条詩絵:唇を一度離し、近い距離から問う。
六条詩絵:「まだ、ずっと戦い続けるおつもりですか」
ロシェ・ザ・グレイバード:ぎゅう、と抱きしめられる感覚。薄い夜着越しに、少女の体温を感じる。
ロシェ・ザ・グレイバード:「…………ああ」
六条詩絵:「世界を悼んで弔う願いのために、ずっと」
六条詩絵:「もしもそうなら……」
六条詩絵:「詩絵は、先生を一人にはしません」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……何度も。今回みたいなことが、あってもか」
六条詩絵:「詩絵の願いだけでは戦えないのです」
六条詩絵:「先生の願いも、詩絵の支えとしてお貸しくださいませ」
ロシェ・ザ・グレイバード:戦いで、他人の願いを踏み躙ることなど、ロシェにとっては覚悟以前の前提だ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「……俺の願いだけじゃ、先には進めない」
ロシェ・ザ・グレイバード:「だから、詩絵の願いで、俺の行き先を示してくれ」
六条詩絵:夕陽。落日。世界が滅びていくあの日も、このような空だった。
六条詩絵:「……ずっと昔、詩絵が子供だった頃」
六条詩絵:「アリとキリギリスのどちらが悪いのかを、考えさせられたことがあります」
六条詩絵:「未来に備えることなく放蕩していたキリギリスが悪いのでしょうか」
六条詩絵:「それとも、持てる者なのに助けを拒むアリの非情さが悪いのでしょうか」
六条詩絵:「詩絵は……その時に、答えて」
六条詩絵:「どちらも悪くないのだとか……そんな答えを、家庭教師の方は期待していたのかもしれませんけれど」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……なんて言ったんだ?」
六条詩絵:「詩絵は……あのお話には、本当に悪いものがいて」
六条詩絵:「冬が」
六条詩絵:「冬が、悪いのだと言いました」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……ああ」
六条詩絵:「そんなものが来なければ、誰も未来に備えることも、過去の報いを受けることもなかったのだと」
ロシェ・ザ・グレイバード:似たような話題は、こちらの世界でも聞いたことがあった。
ロシェ・ザ・グレイバード:異なる歴史を歩んだ並行世界ならば、同じところもあるのだろ。
ロシェ・ザ・グレイバード:「気持ちの良い答えだな。お嬢様らしくもない」
ロシェ・ザ・グレイバード:小さく吹きだす。
六条詩絵:「だから、詩絵は戦いたいと思っていて……きっと、だから、ステラナイトなのです」
六条詩絵:「……立ち向かいたい。人々の世界を滅ぼして、本庶のおじ様の願いを穢したものに」
六条詩絵:「だから……」
六条詩絵:「どうか、一緒に」
ロシェ・ザ・グレイバード:「過去を正しく悼んで、正当な未来を掴み取るために」
ロシェ・ザ・グレイバード:「――ああ。笑っちまうくらい、良い指針だ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「戦ってくれ。……ああ、っと……」
ロシェ・ザ・グレイバード:家の表札を確認するのを忘れていた。
六条詩絵:「六条詩絵」
六条詩絵:「私の名前は、六条詩絵です」
ロシェ・ザ・グレイバード:「−−戦うぞ。六条詩絵」
ロシェ・ザ・グレイバード:「このロシェ=《ザ・グレイバード》が、俺の世界の全てを以て、お前の力になってやる」
六条詩絵:「ええ。喜んで。ロシェ」
六条詩絵:「灰色の鳥の、ロシェ」
六条詩絵:天頂は暗く、ちかちかと星が灯り始める。
六条詩絵:色とりどりの花畑のような、あるいはその一つ一つに灯った火のような
六条詩絵:「――ああ。けれど」
六条詩絵:「これから詩絵はどういたしましょう」
ロシェ・ザ・グレイバード:「どうする、ってのは?」
六条詩絵:「何も考えずに飛び出してきてしまって、どこに行ったらよいのか分からないのです」ロシェの手に、そっと手を添える。
ロシェ・ザ・グレイバード:「んなことか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「これから、冬の空を陥としに行くんだ。今更、鳥籠の一つ二つ」
ロシェ・ザ・グレイバード:「片足ひとつで蹴り壊しても釣りがくる。……別に不便してないってんなら」
ロシェ・ザ・グレイバード:「鍵だけこっそり壊しておいて、そこに帰ってもいいがな」
六条詩絵:「詩絵が、いやと言ってもでしょうか」
ロシェ・ザ・グレイバード:「さっきはどうだった?」
ロシェ・ザ・グレイバード:握った手を、詩絵の口元に。
六条詩絵:「さっき……さっきは」
六条詩絵:「い……」
六条詩絵:赤面する。
六条詩絵:「……いや、です」
ロシェ・ザ・グレイバード:「何が?」
ロシェ・ザ・グレイバード:少し楽しむように。
ロシェ・ザ・グレイバード:「一緒に戦うんだ。そのくらい言ってみな」
六条詩絵:目を逸らす。
六条詩絵:「いや……でした、けれど」
六条詩絵:「ときどき、そういうことをしてもよいと……」
六条詩絵:「答えました、ので」
ロシェ・ザ・グレイバード:「……あー。」
ロシェ・ザ・グレイバード:首を軽く傾げ、瞬きする。
ロシェ・ザ・グレイバード:「悪い。そこを、遡って答えられるとは思ってなかった」
ロシェ・ザ・グレイバード:「つまり、家に帰りたくないんなら、そう言ってくれりゃあそうする、と言いたかった」
六条詩絵:「えっ、えっ」さらに赤面する。
六条詩絵:「し、詩絵は」
六条詩絵:「先生のばかっ!」走り出します。
ロシェ・ザ・グレイバード:「いや、言質は貰っておくが……おい!?」
ロシェ・ザ・グレイバード:「待てって!」
ロシェ・ザ・グレイバード:夕暮れの中、少女を追いかける。
六条詩絵:(ああ……夕焼けの空)
六条詩絵:鳥籠から放たれた鳥のように逃げる。けれど。
六条詩絵:きっと捕まえてくれると信じている。
六条詩絵:過去はいつでも、未来を追ってくれるものだから。


銀剣のステラナイツ 『その名は、銀剣の』 終

監督:【終了時処理】
監督:【勲章】の授与を行います。
監督:勲章の数が増えると【願いの階梯】を昇り、様々な願いを達成できることでしょう。
監督:1.【勝利の騎士】
監督:ステラバトルに勝利したとき、全てのステラナイトに与えられます。
監督:2.【終撃の騎士】
監督:エネミーの耐久力を0にしたステラナイトに与えられます。
監督:これ、記述的に
監督:復活されたらダメとかなんもないので
監督:篝・香坂の両名へ差し上げましょう
六条詩絵:そっか。耐久力0になったタイミング二回ありましたしね
香坂マイラ:やったー!
監督:3.【鉄壁の騎士】
監督:ステラバトル終了後に耐久力が初期値から減っていない、または増えているステラナイトに授与されます。
監督:いない!
ロシェ・ザ・グレイバード:無理すぎる
監督:敵がめちゃくちゃ削ってくるやつだったから!
香坂マイラ:無茶を言うな無茶を
六条詩絵:私はこれ持ってるんだよな
監督:すごいやつだぜ
監督:4.【模範の騎士】
監督:自分以外にブーケの効果を使用したステラナイトに授与されます。
監督:これは全員かな?
六条詩絵:模範的!
監督:5.【共闘の騎士】
監督:ステラバトル中、他のステラナイトと会話した場合に授与されます。
監督:これも全員!
香坂マイラ:めっちゃしてた
監督:最後。監督はオリジナルの勲章を与えてもいいというルールがあるので
監督:本シナリオのクリア報酬を一つ。
監督:6.【銀剣の騎士】
監督:こちらを全員に差し上げます。
ロシェ・ザ・グレイバード:倒した証明じゃねーか!!
六条詩絵:オメガのくんしょうみたいなやつ
香坂マイラ:なんかやべーもんもらってしまった気がするぞ
監督:勲章を溜めて願いのために邁進してね!
ロシェ・ザ・グレイバード:やった~たくさん戦って、たくさん願い叶えるぞ~
六条詩絵:願い、叶え放題
六条詩絵:どんな釘も食える
香坂マイラ:おいしい焼肉屋さんに行きたいです!(勲章消費)
ジェイド・リー:香坂~~~ッ
ロシェ・ザ・グレイバード:はっ、一度でこれなら、あと2~3年戦えばどんな願いだって叶うだろ
ロシェ・ザ・グレイバード:うまいもんだぜ
香坂マイラ:焼肉おいしいです!
監督:それでは、本セッションの全行程を終了します。
監督:おつかれさまでした!
アスハル:お疲れさまでした! めちゃくちゃ楽しかった~
馴染:お疲れさまでした! 楽しかったでーす
馴染:やはり性癖砲に限る
珪素:お疲れさまでした!最高ステラナイツだった!
珪素:私も性癖砲だった
アスハル:堪能した